◆衝撃だった「氣志團のデビュー」

リーゼントにまつわる“革命”が起きたのが、矢板氏が高校2年生だった2001年。ある新聞記事を見て、全身に電流が走った。

氣志團のデビューを伝える記事でした。『理想のリーゼントをやっている人たちがいる!』と衝撃を受け、彼らにのめり込んでいきました。そこでわかったのが、『僕の理想のリーゼントはパーマをあてないと無理』ということ。さっそく、パーマをかけてリーゼントを作ってみると、案の定理想の形にグッと近づきました。この出来事を経て、高校3年を『リーゼント元年』と自分のなかで制定したんです。ここから僕のリーゼント人生がスタートしたと思っています」

不良の髪型としてのイメージが強いリーゼント。学校や親から注意されることはなかったのだろうか。

「僕は不良ではなく、むしろ準特待生だったくらい授業も真面目に聞いていたので、学校では黙認されていました。リーゼントを始める前までは、寝癖がついたままのボサボサな頭で学校に行ってたんですよ。だから、リーゼントをはじめてから母親は『やっとヒロシ(矢板氏の本名)がクシを持つようになった』とむしろ歓迎していましたね(笑)」

◆2024年、ついにリーゼントを本業に

普段は、ビジネスホテルの清掃責任者、そして渋谷ハンズの木材工房でアルバイトして生計を立てているという矢板氏。もちろん、仕事中もリーゼント姿だという。

そんな同氏にとって、2024年は大きな転換の年になりそうだ。

「これまでも、『リーゼント矢板の人生』としての心の本業はリーゼント・学ラン業だと思ってきました。そしてこの度、2024年6月に個人事業主として開業届を提出して、晴れてリーゼント・学ランにまつわる仕事が本業と胸を張って言えるようになりました」

つまり社会的にも肩書きがリーゼント・学ラン業になるわけだが、それを背負って冠婚葬祭に出席する時はどうするのだろうか。結婚式など祝いの席はリーゼントでも良さそうだが……。

「お葬式もリーゼントで参列しますよ。故人との関係性によって小さめにはすると思いますが、リーゼントは僕にとって正装ですからね」

◆リーゼントは誤解されている?

リーゼントをデザインしたグッズなどを販売し啓蒙活動にも余念がない矢板氏だが、世間がリーゼントに対して抱く“誤解”を解きたいとも話す。

まず世間的には、前髪をこんもりと立てた髪型がリーゼントだというイメージがある。また、数年前「リーゼントは側頭部の撫で付けた部分で、前髪の盛り上がりはポンパドール」だという説がSNSを中心にバズり、考えを改めた人も多いだろう。

しかし、矢板氏曰く部分によって名称を分ける考え方も正しくないそうだ。

「そもそも、リーゼントもポンパドールも『ヘアースタイル』の名称なので、1つの髪型に、この部分はリーゼント、この部分はポンパドールと分けること自体が意味のないことです。リーゼントもポンパドールもパーツではなく、全体の髪型です。『もみあげ』や『襟足』というヘアースタイルがないように、パーツ名として呼ぶなら、リーゼントはヘアースタイルの名称としては存在しなくなります」

この思いを広く伝えるべく、自身で画像を作成し、正しいリーゼントの普及に励んでいる。

「もし、横の部分だけをリーゼントとするなら、『横を撫で付けて頭頂部がツルツルの髪型を見てリーゼントだと思いますか?』ということなんですよ。逆に、横を刈り上げて、頭頂部をポンパドールにした髪型を見たらリーゼントだと思いますよね。なので、トータルでリーゼントと呼ぶべきだと思っています」

◆いつかハリウッドでデビューしたい

リーゼント愛好家の母数を増やす活動も矢板氏のライフワークのひとつだ。