「なんかね、もう、ぶっ飛ぶんですよ…」取材中、亮吾さんはとつぜん饒舌になった

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 藤枝亮吾さん(47歳・仮名=以下同)は、都内の裕福な家庭に育った。優秀なふたりの兄と比べられたために肩身が狭く、大学に入学すると早々にひとり暮らしを始め、実家が営む企業とはべつの中堅会社に就職した。職場の先輩から紹介された2歳年下の麻央さんと結婚し、彼女の実家とも良好な関係を築いたものの、うまくいかないことがひとつだけあった。妻を大事に思う気持ちはあっても恋愛感情が湧かず、夜の営みに関心をもてないのだ。「オレってどこかおかしいんだろうな」という亮吾さんの思いは強くなる一方だった。

「なんかね、もう、ぶっ飛ぶんですよ…」取材中、亮吾さんはとつぜん饒舌になった

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 それでも麻央さんは妊娠し、37歳のとき亮吾さんは男の子の父になった。麻央さんの両親や妹に助けられながら、ふたりは子どもに夢中になった。子育てほど楽しいものはないと亮吾さんは言う。子どもは神秘の生き物、着実に、すごい勢いであらゆるものごとを吸収していくんですと彼は顔を輝かせた。

 ふたりとも特に息子に期待することはないという点で意見は一致していた。元気で、本人が望む道を歩んでほしい。好きなように生きろ、と亮吾さんは常に思っていた。

 2年ほど前、息子が小学校に入ったころ、亮吾さんに大きな発見と転機が訪れた。

「ある日、久々に学生時代の友人2人と会って飲んでいたら、ひとりが『おもしろいところへ行ってみないか』と言いだしたんです。それがSMクラブだった。ここで僕の人生観が変わりました」

 3人で店に行ってみると、ちょうどMの男性が吊り下げられて女王様から鞭を「いただいている」ところだった。その光景を見て、亮吾さんは体中に電気が走ったような気がしてめまいがし、ふらついた。

「おい、大丈夫かと友人が支えてくれた。『いや、ごめん。刺激が強くて』と冗談でごまかしましたが、本当はクラクラするほど性的欲求を感じていたんです。僕が吊り下げてもらいたい、鞭で打たれたいと真剣に思った。思ったというより、体の奥からマグマが噴火するみたいに『何か』がわき起こってきたんです」

 どうしたらいいかわからなかった。とにかく自分の居場所はここだと痛切に思った。だが、さすがに友人たちの前で自分の欲求をさらけ出す勇気はなかった。だからその日は、女王さまたちと世間話に興じただけで帰宅した。

「それから必死でいろいろ調べ、道具を買ったんです。まずは縄を買って、自分の体を縛ってみた。それだけで頭がおかしくなりそうに興奮しました」

いきなり饒舌になる亮吾さん

 コロナ禍で自宅での仕事が増えたため、彼は納戸を書斎として使っていた。鍵のかかるひき出しに縄を隠し、夜中、彼は自分を縛る稽古を重ねた。あのSMクラブに行って、自分で自分を縛るところを女王さまに見てほしかったのだ。縛られるより自分で縛りたい、そこだけは譲れないと彼は考えたという。

「自分の意志を放棄して、縛ってもらうことに快感はないんです。自分で縛るのを見守ってもらいたいというか」

 半年後、彼はついにうまく自分を縛ることができるようになった。意気揚々とSMクラブに出向いて、女王さまたちにお願いしてみた。

「やってごらんと言われ、まあまあだねとかまだまだだねとかいろいろ言ってもらって、最後は鞭打たれて放置されて。なんかね、もう、ぶっ飛ぶんですよ」

 聞いているこっちもぶっ飛びそうだった。それまでの亮吾さんとは別人のような饒舌さ、明るい表情に驚かされた。今までの人生、なんてつまらなかったんだろうと彼は思ったそうだ。

「週に2回は通いました。縛り方のあれこれも教わっては稽古して。店での知り合いもできて、SM談義に花を咲かせて。人それぞれ、いろいろな嗜好、志向があるのがこの世界なんだと教えてもらいました」

 彼は吊り下げられて放置され、激しく鞭打たれ、飽きてきたころに「かっこ悪い」「無様ねえ」と女王さまたちに悪口を言われるのが、この上なく好きなのだそうだ。痛みと恥辱を快感に変えることができる彼は、かなり真性のMではないか。

“麗子さま”との世界は崇高

「あ、すみません。こんな話、興味ないですよね」

 途中で気を遣ってくれつつも、彼のSM談義は続いた。本人が楽しいと思うことを見つけたなら、それはなによりだ。

「僕には心のパートナーである女王さまがいるんです。麗子さまというんですが、彼女に弄ばれるのがいちばん興奮する。彼女に個人的にプレイしないかともちかけて、店の近くのホテルで相手をしてもらうこともあります」

 でもセックスはなしです。僕らの世界は崇高なんです、麗子さまとは魂がつながっているんですと彼は必死になって言った。だから不倫ではないのだ、と。確かに恋愛感情を持たない彼が、女王さまとプレイをしたからといって「不倫」というのは当てはまらないような気もする。ただ、妻がそれを知ったらどう思うだろうか。

「そうですよね。自分の趣味が麻央とは違うとわかっていたし、彼女を傷つけたくはなかった。だから麻央には絶対に知られないようにしなくてはと気をつけていました。縄もお店に置いてもらうよう頼みました。だんだんエスカレートして、もうちょっとエグい器具も手に入れたので、それらもすべて店に置いてもらった。他店には行かないという忠誠心の証でもありますし」

「この変態!」と叫ぶ妻

 ところが今年のゴールデンウィーク直前のこと。帰宅すると、妻と息子がいなかった。実家に行っているのだろうと思ったが、いつもなら実家にいると連絡が入るはず。麻央さんにLINEをすると「今日は顔を見たくない」と返信があった。

 気になって麻央さんの実家に行ってみると、家の中の雰囲気がおかしい。いつもなら誰かがしゃべったり笑ったりしているのに、みんな亮吾さんの顔を見て固まっているのだ。

「どうしたのと言ったら、麻央がいきなり、『この変態!』と叫んだんです。思わず息子を目で探すと、『息子はもう寝たわよ』と麻央。彼女はスマホを僕に見せてきました。そこには水着一丁で吊り下げられて恍惚となっている僕がいた。恥ずかしかったですね。でも同時に興奮してもいました。いつかこうやって妻に辱められたいと思っていたのかもしれない」

 妻が怒っているのに、亮吾さんはそんな悠長なことを思っていたようだ。その道のことなどわからない人にとっては、確かに「変態」かもしれない。だが、変態と言われた彼は少しうれしかったのだ。この違いは大きい。

「どうしてわかったのかというと、妻の友だちが好奇心からこの店に行ったんだそうです。女性客もいますから。そうしたら僕がいた。彼女はそれが麻央の夫だとは知らずに、こっそり写真を撮って『こんな人がいたのよ』と麻央に見せたというわけです。麻央は最初、信じられなくてひとりで悶々としていたそうです。でもどうしても知りたくて、店に電話をかけて僕がいるかどうか尋ねてみた。そうしたら『亮吾ちゃん、今日は来てませんね』と言われたって。苗字を言っただけなのに、そうやって名前で答えたの。よほど常連客なんだとわかった、と」

離婚するかしないのか

 謝ればいいのか、どうすればいいのか亮吾さんにはわからなかった。とにかくふたりで話そうと、その日は自宅に戻った。どこから話せばいいか迷ったが、とにかくその道を知って自分は生きる意欲がわいた。自分が求めていたのはこれだったのだとわかった。恋愛感情が抱けず、人に向ける性的欲求も薄いが、SMだけは没頭できた。これはこれで奥が深いんだと彼は必死で説明したが、妻は聞いているのかいないのかわからなかった。

「『私たち、もう何年もレスなのよ、相手にしてもらえない私の寂しさがわかる?』と麻央はせつなそうに言いました。自分が妻を傷つけていることに初めて気づいた。これ、不倫より悪いわ、と麻央は吐き捨てるように言った。それで僕も傷つきました」

 折に触れて話し合った。だがお互いにわかり合うことはできない。離婚するしかないのかと思ったとき、妻がつぶやいた。

「私は家庭を壊したくない。そのことを除けば、あなたとの生活は決して悪いものではない。だからあなたはこれまで通りにすればいい。私も好きなようにする。お互いに家庭を壊さない範囲で、別の方向で楽しみましょうって。浮気すると宣言しているのかと聞いたら、『それはわからない。ただ、何があっても息子が成人するまでは家庭を守るし、あなたと諍いもしたくない』と。それには合意するしかありませんでした」

 彼の趣味は変わらず続いている。妻は月に1,2度帰宅が遅くなることがある。誰かとデートしているのかどうかはわからない。お互いに遅くなる日だけを知らせ、知らされたほうはよほどのことがない限り早く帰宅するという約束ができあがっている。

「妻の実家も、あのことはなかったことにしてくれているのか、まったく蒸し返そうとしません。でもあれ以前のように自然には振る舞えなくなった。義父母もどこかギクシャクしていますね。かといって今さら正面切って説明もできないし……」

 自分が没頭できることに巡り会えたのは彼にとっては幸せなことだ。だが、知ってしまった妻の気持ちを思うと、手放しでよかったねとも言いづらい。

 誰に迷惑をかけているわけでもないのに、なんだか肩身が狭い。妻の「変態」という叫び声は今も耳に焼きついています、と亮吾さんはうつむきかげんに小声で言った。

【前編を読む】「苦しかった人生を抜け出す方法が見つかったのに、今はそれを妻に咎められてます」47 歳夫の告白 “エロスの深さを知った果てに…”

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部