藤井聡太と伊藤匠を下して全国小学生大会を制覇…「もうひとりの天才」が振り返る「藤井少年が泣いた日」

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入場から視線が釘付け

藤井聡太(21歳)、伊藤匠(21歳)という同学年の天才2人が戦う将棋の叡王戦5番勝負。第4局は5月31日に行われるが、将棋界に君臨する絶対王者が初めてカド番に追い込まれたことで「1強時代が終わるのか」と注目されている。

両者は小学3年生のときに全国大会の準決勝で対戦し、藤井八冠は伊藤七段に敗北して号泣した。この因縁ゆえ、伊藤七段は「藤井を泣かせた男」と紹介されることが多いが、この物語にはもうひとりの登場人物がいる。冒頭の大会で2人を抑え、優勝したのが早稲田大学法学部4年生の川島滉生さんだ。

前編記事『「もうひとりの天才」が明かす…「藤井聡太を泣かせた男」伊藤匠七段の異次元すぎる「頭脳と素顔」』に引き続き、川島さんに、天才2人の印象などを聞いた。

2012年1月、都内で行われた小学館学年誌杯争奪全国小学生将棋大会の3年生の部。川島さんは天然パーマの男の子が会場に入ってきたときのことを鮮明に覚えている。

「藤井さんは全国大会で優勝するなど有名な天才キッズでした。しかし、当時の僕は彼のことをまったく認識していませんでした。というのも、自分の視界には伊藤七段の存在しかなかったためです。たとえ優勝できなくてもライバルであるたっくんを倒すことができれば満足でした。

しかし、そんな僕の思いとは裏腹に、彼の視界にいたのは藤井さんでした。藤井さんが会場に来たとき、たっくんの視線が釘付けになった。そして『あの子、すごく強いんだよ』と漏らした。伊藤七段は基本的に人のことを褒めません。誰かのことを強いと言うことは一度もなかった。『たっくんがそんなこと言うんだ。これはやばい子だ』と衝撃を受けました」

因縁が生まれた伝説の大会

藤井少年と伊藤少年は準決勝で対決し、伊藤少年が勝利。試合後、藤井少年が悔しさから大泣きしたというエピソードが語り継がれている。しかし、川島さんはこう振り返った。

「自分は見たわけではないので、そのエピソードのことはよくわかりません。藤井さんとは一度も指す機会がなかったので、遠い存在というか。もし指していれば、強さもわかって印象などを話せたと思いますが、あくまでたっくんが意識していた、すごい人という印象です」

決勝は伊藤少年と川島さんの対戦。大会での対決は初めてだったが、川島さんが見事に勝利した。負けた伊藤少年が感情を露にする姿を鮮明に覚えている。

「いまの伊藤七段は21歳とは思えないほど落ち着いていますよね。人生2周くらいしているのではないかと思うほど動じることがない。でも、負けず嫌いの性格がそうさせたのでしょうが、あのときは悔しいという感情を露にして、あからさまにふてくされていました。

その気持ち、よくわかります。数ヵ月後、僕は再び大会でたっくんと対戦しましたが、リベンジされてしまった。優勝した大会よりもこのときの悔しさ、そして、たっくんのうれしそうな表情のほうが印象に残っています」

あれほどの天才に出会ってしまったゆえ

川島さんは高校1年生にして高校の全国大会で優勝を果たし、進学した早稲田大学でも学生名人の称号を得た。大会でプロ棋士と対戦して勝利を飾ったこともある。それでもプロ棋士の道を考えたことはないという。

「僕は棋士養成機関である奨励会には入らず、将来を考えて中高一貫校を受験することを決め、将棋から距離を置くようになりました。プロの世界でやっていく厳しさ、勝たなければいけない重圧…様々な理由があります。

一方で、たっくんは進学校に入学するも1学期であっさり退学して将棋の道に専念しました。普通の人であれば、僕が抱いたような悩みや葛藤を抱えるはずですが、彼は違いました。覚悟も自信もあり、リスクなんて考えなかったのでしょう。

彼は天才ですからね。あれほどの天才に出会えたというか、出会ってしまったというか。彼の存在は少なからず僕の人生に影響を与えたと思います」

現在、川島さんは法曹界を目指して勉強の日々だ。弁護士である伊藤七段の父親からも「向いているよ」とお墨付きを得たという。かつてしのぎを削った2人の歩む道は分かれたが、親交は続いている。幼なじみから見た伊藤七段の素顔とは?

絶対王者の八冠陥落はあるか

「年に数回、タイトル挑戦が決まったときなどに決起集会のようなものが開催され、そこで会っています。いまでも2人でいるときは将棋の話しかしません(笑)。昔も今も寡黙。人と付き合うのが得意ではないと思います。棋士以外の人生はなかったと思いますが、もし違う人生を歩んでいるとすれば、学者や研究者だったと思います。

一方で、負けず嫌いでストイックなところは増していると思います。変化があるとすれば、厳しい世界で揉まれて感情面を一切出さなくなったこと。僕のような普通の大学生とは違う領域のメンタルです」

伊藤七段は17歳でプロ入り、先行する藤井八冠の背中を追い続けたが、これまで一度も勝ったことがなく、対戦成績は11敗1分だった。だが、叡王戦で連勝。徐々にその距離を詰めてきた。幼少時から知る戦友の姿はかつての自分に重なるのかもしれない。川島さんはこうエールを送る。

「まず前提として、藤井さんはプロではない自分には理解できないすごさです。ただ、伊藤七段もいずれタイトルを取れると期待しています。ファンとして応援しています。

今回の叡王戦は、藤井さんが序盤にどんな作戦を選択するのか。ここに注目しています。先に行われた棋王戦では、藤井さんが変化球を投げていた印象があり、伊藤七段の序盤を警戒しているように見えました。

幼少時から黙々と将棋に向き合ってきたところ、自分の世界を持っているところ…2人は共通項も少なくないと感じます。そんな同世代の2人がどんな将棋を見せてくれるのか。結果だけではなく内容面にも注目しています」

注目の叡王戦の第4局は5月31日に行われる。

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