パナソニックが、フルサイズミラーレスカメラの新製品「LUMIX S9」を発表しました。Lマウントの超小型軽量カメラといえば、シグマの「SIGMA fp」シリーズが先行していますが、負けず劣らずコンパクトなS9ということで、SIGMA fpユーザーとしては心穏やかではありません。

fpユーザーとしてはS9をどう見たらいいのか。説明会やキーパーソンへの取材、さらに実機に触れてみて考えてみました。

SIGMA fp L(右)とLUMIX S9(左)。fp Lは自前のカメラなので、純正グリップやUlanziのクイックプレートが装着されています

“小さくしたカメラ”の最高峰「SIGMA fp L」までのカメラ遍歴

シグマが2019年10月に発売したのが、Lマウントを採用したフルサイズミラーレスカメラ「SIGMA fp」です。常々「小さくしたカメラ」を愛好してきた筆者にとっては、ある意味、究極のカメラでした。

2021年には、センサーの有効画素数を約6100万画素に高画素化した「SIGAM fp L」を発売。「世界最小・最軽量」はそのままに、高画素化と像面位相差AFも加えたハイブリッドAFに対応しました。

そんなSIGMA fpを迷わず購入して、さらにそれを交換する形でSIGMA fp Lへとクラスチェンジした筆者でした。

SIGMA fp L(上)とLUMIX S9(下)。fp Lはグリップを装着しても横幅が狭いなど、この凝縮感がいいのです

元をたどれば、フォーサーズマウントを採用したオリンパス(当時)のデジタル一眼レフカメラ「E-420」を購入したのが、この「小さくしたカメラ」のスタートだったでしょうか。2009年には、オリンパス初のマイクロフォーサーズのミラーレスカメラ「PEN E-P1」、2010年にはソニーの初めてのEマウント採用ミラーレスカメラ「NEX-5」、2012年にはよりカメラライクなオリンパスの「OM-D E-M5」を使い、2013年にはマイクロフォーサーズの「LUMIX GM1」を購入しています。コンパクトさの最高峰はこのGM1だったでしょう。

その後は、いわゆる高級コンパクトデジカメに移行して、ソニーの「RX100」シリーズやパナソニックの「LUMIX TX2」、マイクロフォーサーズの「LUMIX GX7MK2」、モバイル通信機能を備えたコミュニケーションカメラ「LUMIX CM1」といったカメラを経由してきました。

個人的にはE-420からGM1まで、「今までのカメラを小さくした」という点に惹かれていたようです。その意味では、フルサイズで「世界最小・最軽量」のSIGMA fp Lは、現時点でもまだほかの機種に負けていません。

ほかの写真家が持っていたGM5(一番上、GM1の上位モデル)とSIGMA fp。一番下には自前のCM1

CM1はまたキャラクターが異なりますが、GM5(左端)のコンパクトさが際立ちます。SIGMA fpはディスプレイが固定なので割り切っています

SIGMA fp以降、2020年にソニーがα7Cを投入。SIGMA fpにはなかったEVFやバリアングル液晶、そして5軸5段のボディ内手ブレ補正を搭載しており、スペックとしては理想的でしたが、SIGMA fpがあったのでパス。完成度を高めたα7C IIの登場も心が動きましたが、発売時30万円前後という価格がネックでした。

こうして見返してみると、「小型軽量化」によって犠牲になったことに「手ブレ補正」が挙げられるようです。デジタルカメラの時代になり、センサーシフト式のボディ内手ブレ補正が一般的になると、光学式手ブレ補正のないレンズでも手ブレが補正できて色々と便利になりました。

ところが、E-420もNEX-5もGM1も、そしてSIGMA fp Lも、ボディ内手ブレ補正がありませんでした(オリンパス機は搭載していました)。α7C IIには搭載されていますが、その結果、SIGMA fp Lとα7C IIでは厚みにして1.3cm、重さにして90gの差が生まれています(EVFなどもあるので、ボディ内手ブレ補正だけが理由ではありません)。

この差をどう見るか、というのは難しいところです。それぞれ、何を大事にするかという観点なのですが、個人的にはデザイン性とコンパクトさ、フラットなボディというSIGMA fp Lのメリットは得がたいと考えていました。

ただ、仕事だとSIGMA fp LのAFの遅さと精度の問題があり、ボディ内手ブレ補正がないことによる手ブレにも課題があったため、いろいろ考えた結果、APS-Cサイズのセンサーを搭載した「α6700」を追加導入することにしました。

装備や機能から見て、LUMIX S9は小さいのか

そこに登場したのが、今回のLUMIX S9です。端的にサイズを並べてみると、以下の通りになります。

試しにα6700(上)とLUMIX S9(下)も並べてみました

こう見ると、α6700(左)もよく詰め込んでいるなあという印象

ただ、センサーサイズだけで考えてもこれだけの差があります

やはりSIGMA fp Lが際立った「小さくしたカメラ」であることは変わりません。ただ、それ以外のカメラは手ブレ補正もWi-Fiも内蔵していて、αにはグリップとEVFも備わっています。

それに対して、SIGMA fp Lはミニマムでかつ拡張性の高さが売り文句。オプションは外付けしてもいいし、取り外してもいい。筆者はSIGMA fp Lにグリップを装着していますが、ハンドストラップで持ち歩くのにグリップがあると便利だからで、両吊りのストラップで吊るすのであればグリップはなくていいかもしれません。

S9は、そうしたアクセサリーは用意せず、サードパーティのSmallRigとの共同開発で提供する形にしたそうです。外付けEVFはそもそも接続できません。SIGMA fp Lとは異なり、天面にシューはあるのですが、コールドシューで電子接点がないため、フラッシュも使えません。ここは、マイクやスマートフォンホルダーを固定するために使うようです。

シューはありますが電子接点はなし。モニタの上部の空白が少し間延びした感じで気になるところです

筆者は、こうした割り切ったスペックを見るとわくわくするタイプです。最近老眼気味でEVFが欲しいとは思いますが、特に若い層をターゲットにしたS9にそれを要求するのは筋が悪いかもしれません。

発表会で触った限りは、AFはキビキビと動作し、SIGMA fp Lに比べれば精密で高速に動作しそう。手ブレ補正も強力で、半押しAFが動作した時点で600mm相当の焦点距離でもピタッと止まります。

組み合わせを想定して開発されたということで、よく似合う「LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S」

テレ端だとさすがに長くなりますが、それでも最小限。仕事に使うならこのレンズは必須だと思いました

ハイブリッドズームは、SIGMA fp Lにも同様の機能がありますが、ズームリングでクロップズームまで操作できる点が特徴です(設定でオンオフ可能)。例えば「LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S」なら、ハイブリッドズームをオンにするとズームリングを回したときに100mm付近で焦点距離が200mmになり、それ以降はクロップズームになって、最大634mmになる仕組みです。

SIGMA fp Lの場合は、ズームとは別に、画面上をピンチイン・アウトすることでクロップズームになって一手間かかるので、S9の方が自然に使えます。画面上のズーム表記は色が変わるので分かりますが、気づいたらクロップズームになっていた、というパターンはありそうです。



【動画】S9のハイブリッドズーム。レンズのズームリングを回すと、本来200mmまでのレンズが634mmまでズームできます。画面上で、通常は白い焦点距離の表記が黄色になっているのがハイブリッドズームの設定

SIGMA fp Lの場合は6100万画素なので、最大5倍までクロップできますが、2420万画素のS9だと3倍でもXS(200万画素程度)になってしまうようです。このあたり、撮影後に編集で切り抜くのと結果は同じですが、S9の場合は「編集なしで即SNS」という位置づけなので、その意味ではこのハイブリッドズームは必要な機能でしょう。

LUMIX S9の開発思想をキーパーソンに聞いた

スペックの違いはいろいろあるのですが、そもそもSIGMA fp L、α7C II、S9はいずれもスタンスが異なる製品です。SIGMA fp Lは、プロからアマまで、静止画から動画までをカバーする製品ですが、映画や作品作りもできる長時間録画や拡張性のように、どちらかといえばハイアマ以上をターゲットにしていると感じています。

それに対してS9は、「一眼カメラを初めて購入する、SNSのアクティブユーザー」がメインターゲットです。カメラ好きの趣味層はセカンドターゲットとされているので、あくまで初めてレンズ交換をするユーザーが手軽に撮影で使えることを狙う、というものです。

それでもやや大きいとはいえ、フルサイズセンサーを搭載して女性でも扱いやすそうなサイズ

そのため、手ブレ補正の内蔵は重視したと、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション副社長執行役員でイメージングソリューション事業部長の津村敏行氏は話します。津村氏は「他社製品は意識しておらず、新しいフィールドを作ろうとした」とコメント。「SNSで映像や写真を投稿している人たちが最高に使いやすいものは何か」という観点から開発したといいます。

パナソニックのイメージング事業を統括する津村敏行氏

EVFは「搭載するとごつくなってしまうし重量も増えるので、そぎ落とした」と津村氏。その代わり、モニターをバリアングルにして見やすくしました。同時に「スマホアプリを着想して、アプリあってのカメラとして開発」したそうです。新しい「LUMIX Lab」アプリは、従来のLUMIX Syncアプリの機能をすべて備えているわけではなく、LUMIX Labにしかない機能もあるので、「今後は統合の方向性」とのこと。

シャオミの最新スマートフォン「Xiaomi 14 Ultra」のように、スマホカメラは高機能化、高画質化が止まりません。SNSでの画像や動画の活用をスマホが牽引しているのは間違いないのですが、パナソニックはそうした流れの先陣を切ったメーカーで、2014年にモバイル通信機能と1型センサーを搭載した「LUMIX CM1」を発売しています。

実は津村氏、このCM1でのキーパーソンでした。他誌ですが当時、発売日にフランス・パリで独占インタビュー記事を掲載しています。

津村氏は「当時、1型センサーをスマホに搭載して専用レンズ、画像処理エンジンを入れた革新的なチャレンジだった」としつつ、特に1型センサーの搭載はスマホカメラで一般化したと指摘。

そこで「もっと撮る喜びを提供しようとすると、フルサイズやマイクロフォーサーズぐらいは必要」との考えに至ったようです。ただ「非常に悩ましい」とも津村氏はいいます。スマホにカメラ機能を融合させる「オールインワン」の体験価値として、CM1という方向性と、スマホとカメラをセットで使うことによる相乗効果で撮影を楽しむS9の方向性のどちらがいいのか。これを今後とも検討していくといいます。

GM1ではオレンジをチョイスしたので、カラーバリエーションは嬉しいところ

とはいえ、現状ではCM1の後継機種の可能性は低そうですが、SIMを内蔵して通信機能を備えるという可能性はありえそうです。特に、eSIMが普及したことで、物理的にSIMカードを挿入する必要もありません。津村氏に聞いてみると「カメラ店でSIMを扱うハードルがある」との回答でした。

さらに、モバイル通信を内蔵するとなると、技術的にもさまざまな課題があります。アンテナ設計や認証などもあり、グローバルでの検証も必要です。これらを踏まえたうえで、ユーザーに提供できる価値が上回ると判断できれば検討したいとのことでした。

SIGMA fp Lを補えるパートナーにも

α6700は、使いやすいミラーレスカメラで、だいたいの機能が満載されているので、仕事にもプライベートにも使いやすく満足しています。ただ、それは(ソニーなのに)優等生的だと言えなくもありません。

SIGMA fp Lほど突き抜けられると、今度は人と用途を選ぶようになります。それに対してS9は、バランスを考えながら割り切ったという冷静さも感じます。ただまあ、GM1、CM1と歩んできたLUMIXの、新たな挑戦として受け止めたいところです。

SIGMA fp Lユーザーである筆者にとっては、「Lマウントでコンパクトで手ブレ補正内蔵でAFが強い」ということで、仕事カメラとしても、SIGMA fp Lのサブカメラとしても、α6700よりは正解に近いと感じました(どちらがサブか、は議論の余地があるでしょう)。

SIGMA fp L(右)に装着しているのは45mmのレンズですが、コンパクトな広角レンズとして24mm F3.5 DG DNもよく使っています。SIGMA fp Lユーザーとして、さらにコンパクトなお散歩レンズとしてLUMIX S 26mm F8が気になるところです

なぜ2台持ちをするのかを問われると、特に返す言葉はないのですが、SIGMA fp LとLUMIX S9を持ち歩けば、あらゆるシーンで満足した写真を撮れると感じました。作品の良し悪しと機材の良し悪しは無関係ですが、満足度には関係する(こともある)のです。

SIGMA fp Lに一本化するのは難しい、かといって手放すには惜しい。そんな抜群の魅力があって、それを補うにはLUMIX S9がベストマッチだと思うのです。要は、それだけLUMIX S9も単体で魅了的、ということです。メカシャッターは欲しかったなあと思いますし、津村氏自身も言っていた「20万円は切りたかった」という点にも同意しますが、やはり「小さくしたカメラ」は楽しいものです。

小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら