持ち運べるゲーム環境はPC市場を広げるか──ゲーミングPCの現在地【道越一郎のカットエッジ】
PC市場の苦戦が続いている。PCの性能は一般消費者が求めるレベルをはるかに飛び越してしまった。壊れず動いているなら、なにも新しいPCに買い替えることはない……そう考えるユーザーも多いことだろう。しかし、状況は少しづつ変化している。例えばゲーミングPC。ゲーム専用機だけでなく、PCでもゲームを楽しむ人たちが増え、ハイスペックなゲーミングPCの需要が徐々に高まっている。さらに、動画編集を筆頭に、音楽制作や写真加工、3Dプリンターなどで使う3D CADなどを利用する人も増えてきた。ここも「PCパワー」を必要とするゲーミングPCの領域だ。ゲーミングPCは今後、PC市場にどんなインパクトを与えるのか。ゲーミングPCを展開する主要メーカーに、ゲーミングPCを取り巻く各社の現状や今後について訊いた。今回はその第1回、ハンドヘルドゲーミングPCについてまとめた。
近年、特に注目を集めたゲーミングPCがある。ASUSが昨年5月に発売した持ち運べるゲーミングPC「ROG Ally」だ。7インチ液晶を搭載する、いわゆるハンドヘルドタイプ。Windowsマシンでは、同様の製品がほとんどなかったため、日本市場を中心に爆発的に売れた。2023年6月、BCNランキングのノートPCカテゴリーで、ASUSの販売台数シェアをトップに押し上げたほどだ。機種別でも、6月から3カ月間、ROG Allyがトップシェアを維持した。折からeスポーツなどで注目が高まりつつあったゲーミングPC市場をさらに盛り上げる効果も生んだ。
ASUS JAPAN・システムビジネスグループ マーケティング部のシンシア・テン 部長は「ROG Allyの製品企画は6年ほど前にスタートした。コロナ禍で発売が遅れたものの、いざ発売すると全世界で売れた。最も売れたのはアメリカ、次いで日本。これをきっかけに、ハンドヘルドのゲーミングPCカテゴリーを確立していきたい」と話す。同社はゲーミングのトップブランドとしてROGシリーズを位置づけ、Flow、Strix、Zephyrusの3種のラインアップを展開。他にもカジュアルゲーマー層向けのTUF Gamingブランドも用意している。こうした中、トップブランドのROGシリーズに位置づけたAllyシリーズが突出して売れた、という意味は大きい。
ハンドヘルドゲーミングPCに対するスタンスは、メーカー各社でかなり異なる。レノボは昨年12月「LEGION GO」を発売。ASUSを追いかけている。レノボ・ジャパンのコンシュー マーストラテジー&プロジェクト 三島達夫 シニアマネージャーは「単にゲームといっても、最近では友達とのコミュニケーションツール、という一面もある。LEGION GOは、友達とのつながりを一時的にでも中断したくない、というニーズにも応える製品」と話す。さらに同社の細川英夫氏は「ハンドヘルドのゲーミングPC市場は確立しつつある。LEGION GOは、持ち運べる利点は活かしつつ自宅ではドックにつなぎ据え置きで使うという用途も狙う」と語った。また、日本エイサー・Computing事業部の谷康司 部長は「ハンドヘルドゲーミングPCは、PlayStation Portable、ニンテンドーDSといったゲーム機になじみがある日本人のゲーミングスタイルにマッチしている。エイサーでも企画自体は走っている。できれば投入したい」と話す。
一方で様子見だとするのがデル・テクノロジーズの稲村陽 シニアマネジャー。「我々が調査したところ、突出して売れているのは日本。やはりゲーム専用機の影響が大きいと思う。今後も他社製品のチェックは怠らないが……」と参入には否定的だ。特に日本では、Nintendo Switchを筆頭にゲーム専用機でも携帯タイプが人気なだけに、ゲーミングPCでもハンドヘルドタイプはまだまだ可能性がありそうだ。しかし、世界市場を考えると判断はまちまち。またBTO(Build To Order=受注生産)PCが得意なマウスコンピューターでは、営業部門管轄兼第二営業本部本部長の氏家朋成 取締役が「参入を検討したが、価格でもスペックでも競合製品との差別化が難しい。当社の強みでもあるカスタマイズが生かせないということもあり、様子見だ」と話す。
PC市場全体を見ても、特に日本ではなぜか小型製品が突出して売れる、という傾向がある。今回のROG Allyのヒットは、その流れの中にあるのかもしれない。いわゆるミニPCは、これまであまた生まれてきたが、やがて消えてしまい、結局ほとんど生き残れなかった、という歴史もある。ハンドヘルドゲーミングPCも、一時的なブームに終わる可能性は否定できない。とは言え、PC市場に新しいカテゴリーを作ることには成功した。そろそろ次の新しい製品の登場についても期待が高まる。ゲーミングPCといえば、ギラギラと光る大きくて重いデスクトップPCと薄暗い部屋を想像しがちだが、ハンドヘルドのゲーミングPCはそのイメージからは程遠い、新しいカテゴリーの製品だ。PCの市場をどこまで広げることができるのか。今後放たれる二の矢三の矢で方向性が決まりそうだ。(BCN・道越一郎)
ASUS JAPAN・システムビジネスグループ マーケティング部のシンシア・テン 部長は「ROG Allyの製品企画は6年ほど前にスタートした。コロナ禍で発売が遅れたものの、いざ発売すると全世界で売れた。最も売れたのはアメリカ、次いで日本。これをきっかけに、ハンドヘルドのゲーミングPCカテゴリーを確立していきたい」と話す。同社はゲーミングのトップブランドとしてROGシリーズを位置づけ、Flow、Strix、Zephyrusの3種のラインアップを展開。他にもカジュアルゲーマー層向けのTUF Gamingブランドも用意している。こうした中、トップブランドのROGシリーズに位置づけたAllyシリーズが突出して売れた、という意味は大きい。
ハンドヘルドゲーミングPCに対するスタンスは、メーカー各社でかなり異なる。レノボは昨年12月「LEGION GO」を発売。ASUSを追いかけている。レノボ・ジャパンのコンシュー マーストラテジー&プロジェクト 三島達夫 シニアマネージャーは「単にゲームといっても、最近では友達とのコミュニケーションツール、という一面もある。LEGION GOは、友達とのつながりを一時的にでも中断したくない、というニーズにも応える製品」と話す。さらに同社の細川英夫氏は「ハンドヘルドのゲーミングPC市場は確立しつつある。LEGION GOは、持ち運べる利点は活かしつつ自宅ではドックにつなぎ据え置きで使うという用途も狙う」と語った。また、日本エイサー・Computing事業部の谷康司 部長は「ハンドヘルドゲーミングPCは、PlayStation Portable、ニンテンドーDSといったゲーム機になじみがある日本人のゲーミングスタイルにマッチしている。エイサーでも企画自体は走っている。できれば投入したい」と話す。
一方で様子見だとするのがデル・テクノロジーズの稲村陽 シニアマネジャー。「我々が調査したところ、突出して売れているのは日本。やはりゲーム専用機の影響が大きいと思う。今後も他社製品のチェックは怠らないが……」と参入には否定的だ。特に日本では、Nintendo Switchを筆頭にゲーム専用機でも携帯タイプが人気なだけに、ゲーミングPCでもハンドヘルドタイプはまだまだ可能性がありそうだ。しかし、世界市場を考えると判断はまちまち。またBTO(Build To Order=受注生産)PCが得意なマウスコンピューターでは、営業部門管轄兼第二営業本部本部長の氏家朋成 取締役が「参入を検討したが、価格でもスペックでも競合製品との差別化が難しい。当社の強みでもあるカスタマイズが生かせないということもあり、様子見だ」と話す。
PC市場全体を見ても、特に日本ではなぜか小型製品が突出して売れる、という傾向がある。今回のROG Allyのヒットは、その流れの中にあるのかもしれない。いわゆるミニPCは、これまであまた生まれてきたが、やがて消えてしまい、結局ほとんど生き残れなかった、という歴史もある。ハンドヘルドゲーミングPCも、一時的なブームに終わる可能性は否定できない。とは言え、PC市場に新しいカテゴリーを作ることには成功した。そろそろ次の新しい製品の登場についても期待が高まる。ゲーミングPCといえば、ギラギラと光る大きくて重いデスクトップPCと薄暗い部屋を想像しがちだが、ハンドヘルドのゲーミングPCはそのイメージからは程遠い、新しいカテゴリーの製品だ。PCの市場をどこまで広げることができるのか。今後放たれる二の矢三の矢で方向性が決まりそうだ。(BCN・道越一郎)