国産小型車で200万円超は高すぎる…電動車ばかりの時代にスズキが新型スイフトを200万円以下にした意味
■人気の「小型車カテゴリー」にスズキが出した勝負車
突如、ユニーク過ぎるエンジン中心の国産車が登場しました。その名は新型スズキ・スイフト。見方によっては“時代にそぐわない”マツダCX-60に続く、といえるかもしれません。
2000年に登場した初代モデルを除くと今回で4代目となる全長4メートル弱の大衆コンパクトハッチバックです。
現在この小型車カテゴリーは国内登録車販売ナンバーワンのトヨタ・ヤリスを筆頭に、2000年代に初代がいきなりカローラを抜いたホンダ・フィットや日産ノートなど人気車がめじろ押し。
直近2024年3月の登録車販売ランキングを見ても2位ヤリスで3位ノート、13位フィットと人気高し。
ポイントは全長4メートル前後のコンパクトサイズでありながら、大人5名が乗車できるスペース(リアシートこそ狭めですが)と300リッター前後の広いラゲッジを備えた家庭的かつ効率的なパッケージングであること。加えて、エコかつエコノミカルなパワートレインです。
■ヤリスもフィットもノートも「電動化」が前提
はやりの電動化はこのクラスにもしっかり及んでいます。売れ線のヤリスはもちろんフィットもガソリン車と同時にストロングハイブリッドが選べ、特にノートは日産流のシリーズハイブリッド「e-POWER」しか選べません。
逆にこの国産コンパクトでストロングハイブリッドが選べないのはMAZDA 2ですが、代わりに自慢のディーゼルが選べます。海外メーカーですが、中国BYDはほぼ同サイズで背が高めのSUVで「ドルフィン」を発売しており、こちらはバッテリーEVのみ。
イマドキの4メートルコンパクトカーで、電動力の強いストロングハイブリッドもしくはバッテリーEVナシ設定はほぼあり得ないのです。
そんな中、新型スイフトはジャンル最後発でありながら、100%EVはもちろんストロングハイブリッドの設定はゼロ。唯一、モーターパワーが3馬力程度のマイルドハイブリッドを備えるのみ。事実上、電動力ほぼナシで厳しい電動化の波を乗り切ろうっていうのです。
■スズキが最も得意とする「超コスパ主義」
「開発がスタートした時は本当に悩みましたよどうしようって。当時はコロナ前でみんな電動化電動化言っているのに、ICE(内燃機関)で頑張ろうとか言っちゃっていいのかなとか、みんなから叩かれないかなとか、いろいろ悩みました」(スイフト開発者、チーフエンジニアの小堀昌雄さん)
担当エンジニアの言う通り、この選択をしたスズキは大変大胆かつ勇気ある会社と言えるでしょう。
しかしスイフトのノーストロングハイブリッド戦略に勝算がないわけではありません。それはある種の超現実路線であり、スズキが最も得意とする「お値段以上作戦=超コスパ主義」です。小堀エンジニアは言います。
「ハイブリッドの開発もEVの開発も社内ではちゃんとやっています。ですけど、やっぱりネックになってくるのはお値段で、バッテリーやインバーターなどの電動パーツが全部購入品になっちゃうんですよね。その金額は僕らじゃどうしようもない。思いきり電動化するとわれわれの狙うコストレベルにはいかないという」
■どのメーカーでも電動化すると200万円超に
このご時世、円安はもちろん原材料費の高騰もあり、本来安かったはずの国産コンパクトも楽勝で車両価格は200万円を超えます。
例えばヤリスは、ガソリン車では設計の古い1リッター直3搭載のXグレードがほぼ150万円スタートですが、ヤリスハイブリッドは安くても204万円から。
フィットもガソリン車は162万円スタートですが、ハイブリッドは203万円から。全車ハイブリッドのノートは229万円からで、オマケにはやりの先進安全プロパイロットを付けると最低でも240万円をラクに超えます。
安くてお手軽なはずのコンパクトハッチでも、ハイブリッド化すると基本200万円を超えるのです。
ところが新型スイフトは価格高騰を色濃く反映する直近の発売でありながら、新開発1.2リッターガソリン搭載のXGが172万円とお安く、電動力薄めとはいえマイルドハイブリッドのMXが192万円から。他のストロングハイブリッドよりざっくり10万円以上は安いのです。
■燃費の差は思った以上にわずか
燃費も見てみましょう。ヤリスハイブリッドはWLTCモードで最良リッター36kmとすごすぎる数値ですが、フィットハイブリッド(e:HEV)は最良リッター30.2kmで、ノートハイブリッド(e-POWER)は最良リッター28.4km。
かたやマイルドハイブリッドですが、新型スイフトは最良リッター25.4km。確かに他のハイブリッド車からは劣りますが、よく見るとノートとの差は思った以上にわずかなのです。
物価高の今、このコスパ力は光ります。電動力たっぷりのハイブリッドもいいですが、買えなくてはしょうがない。今、軽ハイトワゴンが売れているのも根元には買いやすさがあります。
スズキはあくまでも庶民路線であり、徹底した現実路線。聞こえのいいハイブリッドやEV導入に簡単に追従しないのはその考えがあるのです。
■スペック以上に走りはいい
とはいえ、新スイフトはエコロジーを無視しているわけではありません。確かにエンジンからCO2や排ガスは出しますが、徹底的に減らすべく効率化しました。
具体的には新開発の1.2リッター直3エンジンです。既存エンジンと排気量は同じですが気筒数を3気筒化し、フリクションを減らしつつ、EGRなどの低燃費技術を投入しまくっています。
ギアボックスにも燃費のいいCVTと5MTを採用し、ボディの軽量化と空力性能を徹底的に追究しました。確かに新エンジンのピークパワー&トルクは82ps&108Nmとたいした事ありませんが、実際に乗ってみると常用回転域でのトルクの太さもあり、スペック以上に速い。
それもそのはず、軽くて強い高張力鋼板の使用率を増やし、車重はほぼすべてのグレードで1トン切り。超えているのはマイルドハイブリッド搭載の四駆モデルだけ。
オマケにかつてないレベルの先進安全機能、「デュアルセンサーブレーキサポートII」を全グレードに標準装備。これが今までにない完全停止できる追従オートクルーズや良く効くレーンキープアシスト、多方面で反応する被害軽減ブレーキを備えている。この機能による重量増は、ボディの軽さで打ち消しています。
■ノーストロングハイブリッド戦略
つまり、新スイフトは電動力のなさを高効率エンジンと軽さとアイデアで補っているのです。
もちろんトヨタのハイブリッドシステムTHS IIを筆頭に、ホンダのe:HEV、日産のe-POWERなど日本メーカーが誇るハイブリッド技術は素晴らしいモノがあります。高いと言っても300万円しませんし、EV化することを考えると確実に安い。
最近「踊り場を迎えた」と言われるEVセールス休止時代に、国産ハイブリッドが売れるのもよく分かります。
ただそれ以上に大容量電池やモーターパワーに頼らないノーストロングハイブリッド戦略で来たスズキ。スイフトの原点に返り、普段使いしやすく、若年層でも親しめる車としてリニューアルしました。これまたユニークな生きざまだと思うのですが、いかがでありましょうか。
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小沢 コージ(おざわ・こーじ)
自動車ライター
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3〜4本配信中。
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(自動車ライター 小沢 コージ)