独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)の藤田耕三理事長(撮影:尾形文繁)

鉄道・運輸機構という組織をご存じだろうか。正式名称は鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)。日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団の業務を承継して2003年に設立された独立行政法人で、整備新幹線の線路や駅などを建設してJRに貸し付けるなど交通インフラの整備において欠かせない役割を果たす。だが、その存在が世の中に広く認知されているとは言い難い。JRTTはどのような業務を行っているのか、主に鉄道分野での取り組みについて藤田耕三理事長に話を聞いた。

JRとはまったく違う組織

――先日、建設中の北海道新幹線・豊野トンネルの工事の様子を取材した際、JRTTのスタッフが見学者たちに「新幹線が通るトンネルや橋、線路、駅は私たちJRTTが造っています。JRではありません」と説明していたのが印象に残っています。JRTTはどのような業務を行っているのですか。

私たちの略称がJRTTなので、JRグループの一員と思っている人もいるかもしれません。でもまったく違う組織です。私たちの業務は鉄道の建設、船舶の共有建造、地域の鉄道へのサポート、鉄道の海外展開への協力など多岐にわたります。JR北海道、JR四国、JR貨物の100%株主という立場でもあります。

鉄道では整備新幹線の整備が業務の中心です。北陸新幹線の金沢―敦賀間が先日開業しましたが、北海道新幹線の新函館北斗―札幌間の工事にも取り組んでいます。そのほかにはJR東海のリニア中央新幹線の工事も受託しています。新幹線以外では2023年3月に開業した相鉄・東急直通線の建設を行いました。

――たとえば北陸新幹線なら金沢から敦賀まで延伸するというおおまかなルートは国が決めますが、詳細なルートは誰が決めるのですか。

事業化が決まれば、そこからが私たちの仕事です。調査や環境アセスメントを行って、ルートや駅の位置を決めます。具体的なルートは自然条件、地質、地形などを勘案します。人家、集落はなるべく避けるといった社会的な条件も考慮します。


2024年3月に延伸開業した金沢―敦賀間の高架線を走る北陸新幹線(編集部撮影)

――土地の買収交渉も行う?

もちろん。用地買収だけでなく、関係者と協議を重ね、地元の方々に理解していただくことも含めて私たちの仕事です。

――トンネル工事にはシールド工法やNATMなどいろいろな種類がありますが、どの工法を採用するかも決めるのですか。

そうです。地質などの状況を考えながら私たちが決めています。

JRやゼネコンとの関係は?

――工事現場ではゼネコンも活躍しています。JRTTとゼネコンの役割分担は?


鉄道・運輸機構理事長・藤田耕三(ふじた・こうぞう)⚫︎1959年生まれ。1982年東京大学法学部卒業後、運輸省入省。国土交通省大臣官房総括審議官、鉄道局長、総合政策局長、大臣官房長、国土交通審議官、国土交通事務次官、損害保険ジャパン顧問を経て、2023年より現職(撮影:尾形文繁)

設計、発注、施工管理を行うのが私たちで、ゼネコンさんが実際に工事を行います。ゼネコンに限らず、電気の会社、設備関係の会社などさまざまな企業がプロジェクトにかかわっています。それをトータルでマネジメントしてプロジェクト全体を進めるのが私たちの仕事です。

――JRが工事に注文をつけることはあるのですか。

運行ダイヤを想定しないと駅や車両基地の設計ができないので、計画段階からJRの要望を聞きます。例を挙げれば、整備新幹線は時速260kmの規格で造りますが、JR北海道は今JR東日本が東北でやっている時速320km運転を北海道でもやりたいということで、JR北海道に追加の費用負担をしてもらって私たちが施工しています。このようにJRとは密接に連絡を取り、実際に運転するときの状況を考えながら計画しています。

――駅舎のデザインは?

私たちがデザインやコンセプトを地元の市町村に複数案をお示しして、その中から地元で選んでいただき、それを元に具体的な作業に入ります。なるべくその地域を反映するような特徴的なデザインにしたいと思っています。

――全国のあちこちでお仕事しているのですね。

整備新幹線の現場は全国にあります。2022年秋に長崎と武雄温泉を結ぶ西九州新幹線が開業して九州の仕事はピークを越えました。その後、北陸新幹線の金沢―敦賀間の工事が佳境を迎え、3月に開業しました。そして今度は北海道新幹線に注力しているわけです。現場が移るたびに、私たちも全国をあちこち移動しながら働いています。

――ということは、北陸新幹線の工事が終わって人が余るということはない?

ないですね。これからは北海道やリニアに人を振り向ける方向になっていきます。新幹線の場合、どうしてもほかの公共事業の場合と比べて事業量の変動が大きいので法人運営上の苦労がつきません。そこはいろいろやりくりしながら必要な体制を確保していきます。

――リニアにはどういう形でかかわっているのですか。

リニアは事業主体がJR東海で、整備主体もJR東海。私たちは全体の建設工事のうち首都圏の非常口、長野県と岐阜県の間のトンネルなど一部区間を受託しています。

――相鉄・東急直通線もJRTTが建設したのですね。

2005年に施行された都市鉄道等利便増進法に基づく受益活用型上下分離方式という仕組みを使って、われわれが施設を整備・保有しています。ほかの首都圏の路線では私たちが建設して鉄道会社に譲渡するという形が中心です。


2022年7月の相鉄・東急直通線レール締結式。作業用車両に「JRTT 鉄道・運輸機構」の文字が見える(編集部撮影)

――首都圏でJRTTが建設した路線はほかにどんなものがありますか。

みなとみらい線、TX(つくばエクスプレス)、りんかい線、埼玉高速鉄道など。結構たくさんあります。

――東京都が2月に発表した臨海地下鉄もJRTTが建設するのですか。

まだ決まっていません。都は私たちが整備主体として事業に参画することを予定していますが、事業性の評価はこれからなので、JRTTとしての意思決定はまだしていません。とりあえず事業計画の検討をいっしょにやりましょうという合意はしましたが、その結果どうなるかはなんともいえません。


つくばエクスプレスも鉄道・運輸機構が建設した(編集部撮影)

なぜJR3社の株主になったのか

――JR北海道、JR四国、JR貨物の株式を持つようになった経緯は?

もともと国鉄改革に伴い発足した国鉄清算事業団という法人が現在上場している4社(JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州)も含めてすべての株を保有していました。それを上場の環境が整った会社から順次売却して、今残っているのが3社。いっぽうで、清算事業団は1998年に解散し、日本鉄道建設公団がその業務を引き継ぎましたが、2003年から私たちが引き継ぐことになりました。

――JR北海道などの株主総会はどんな感じですか。JR東日本のような上場会社は株主が多いので、ホテルなどの大会場を使って行っています。

昨年、すべての株主総会に出席しましたが、株主が1人しかいないので寂しい(笑)。私と職員が何人かで行く、そんな感じです。

――国内の地方鉄道へはどのような支援をしているのですか。

たとえば、ホームドクターという制度があり、現地を訪問して鉄道構造物の補修、管理などさまざまな相談に応じています。長年やってきており相談事例はたくさんあります。技術的な支援だけでなく、交通計画支援システム(GRAPE)を使って鉄道を取り巻く状況や鉄道プロジェクトの整備効果を詳細に分析してビジュアルに表示するといったお手伝いもしています。また、地域鉄道への助成を行う国の仕組みがあります。制度ごとに負担割合が決まっており、それに基づいて私たちが交付業務を行います。

――能登半島地震でのと鉄道が被災し、JRTTが鉄道災害調査隊を派遣しました。

国交省がレールフォース(Rail-Force)と呼んでいるので、私たちもそれにならってレールフォースと呼んでいます。中小の民鉄さんや地方の鉄道会社さんの経営状況が非常に厳しい中で、災害が非常に増えているため、昨年この仕組みを作ったところ、早速5件のお声がかりがありました。普段は鉄道の設計や建設にかかわっているスタッフたちが要請に応じ現地に赴き、被災現場の全体像を把握、個別施設の被害状況を調査し技術的助言を行うなど、早期の復旧を支援します。


インタビューに応じる鉄道・運輸機構の藤田理事長。壁には故・中曽根康弘元首相が揮毫した「青函隧道」の書が(撮影:尾形文繁)

インド高速鉄道にも専門家を派遣

――インドの高速鉄道ではどのような業務をしているのですか。

プロジェクトの調査段階では事業可能性調査や構造物の詳細設計について鉄道の専門家を派遣しています。プロジェクト進行中の現在は、事業主体であるインド高速鉄道公社(NHSCRL)へ鉄道に関する総合的なアドバイザー・専門家として、技術者を派遣しております。また、インドからの研修員を受け入れ、新幹線建設現場を案内し、建設における安全性についても理解を深めてもらっています。さらに、NHSRCLが電気システムを調達する際、日本高速鉄道電気エンジニアリング(JE)が発注支援をしますが、私たちはJEに出資しています。

――海外の鉄道コンサルティングでは日本コンサルタンツ(JIC)や海外鉄道技術支援協会(JARTS)もありますが、どのように棲み分けているのですか。

JICさんは株式会社であり、インドの高速鉄道プロジェクトはビジネスとして行っています。JARTSさんは社団法人で公益的事業を行う非営利団体。法人のステータスが違いますのでそれぞれ役割分担があると思います。JRTTにおいては、海外インフラ展開法が2018年に施行され、JRTTの業務に海外高速鉄道調査の業務が追加されたということで歴史が浅い。基本的には私たちのノウハウが活かせるところに人材を出しています。

――アジアのようなこれから鉄道が伸びていきそうな国に今後出番が増えていく?

それは日本の海外インフラ展開がどうなっていくかによります。私たちが独自にリスクを取って出ていくことはないでしょう。

――ここまでのお話をお聞きすると、国の決めた方針に従って活動しているような印象を受けますが、JRTTのほうからこんなことをやろうと提案して始めたものもありますか。

というよりも、お互いに意見をキャッチボールしながら決めています。私たちはいわば裏方ですが、実際にいろいろな調査をしているのは私たちですし、その調査結果が反映されるわけですから。

開業の瞬間「大きな喜び」

――就職先としてJRTTを志望する学生は、JRTTの業務をどのくらい理解しているのでしょうか。

どうなんでしょう。土木を志望する人は業務内容を理解している人が多いと思いますが、私たちが世の中に広く知られているかというとそうでもないので、なるべく関心を持っていただきたいです。そのための機会はたくさん作りたい。

――就職先としてJRやゼネコンと比較した場合のJRTTの魅力とは?

調査、計画段階から地元との調整を行って、設計して、用地を取得して、発注して、施工管理をやって、完成検査をやってという、一連のプロセスをすべて一貫して取り組めるというのが1つの特徴です。それから、鉄道は土木、軌道、電気、建築、機会などの総合的なシステムであり、その全体を統合する総合性も特徴の1つです。そういう仕事をぜひ面白いと思っていただきたいですし、何より、後世に残る大きなものを作るわけですから、ぜひその辺をご理解していただきたいなと思います。


鉄道・運輸機構が建設を進める北海道新幹線のトンネル(編集部撮影)

――その意味では、JRと比べると鉄道開業の瞬間に立ち会える機会が多い。

開業のときに地元の方に喜んでいただけるのは大きな喜びです。もう1つ挙げるなら、鉄道も船舶もCO2排出量が少なく環境にやさしい。サステナブルな社会に貢献できるということも理解していただきたいですね。


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(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)