プロデューサーであるつんく♂さんと起業家である孫泰蔵さん、異なる2人のプロフェッショナルによる対談、第4回(撮影:尾形文繁)

音楽家、プロデューサーのつんく♂さん、連続起業家としてさまざまな事業を手がける孫泰蔵さんの対談。

2023年、つんく♂さんが『凡人が天才に勝つ方法 自分の中の「眠れる才能」を見つけ、劇的に伸ばす45の黄金ルール』、孫泰蔵さんが『冒険の書 AI時代のアンラーニング』をそれぞれ刊行。お互いの著書を読み、仕事論からAI時代の話まで、深い話は尽きることなく盛り上がりました。

今回は、日本と海外の仕事のとらえ方の違いや、そこから生まれるメリット、デメリットについて話し合います。第4回目(全6回)。

*この対談の1回目:「仕事で成功するのはプロか天才か?」意外な結論

*この対談の2回目:AI時代「子どもが不登校でも"問題"ない」本当の訳

*この対談の3回目:日本の会社員が「世界中から嫌われる」納得の理由

ネイティブ同士は「なあなあ」「ふわっと」なりやすい

:日本は特に同調圧力を感じ取りやすいと思います。

相手を慮って、気を遣い合って……というのは決して悪いことではないけれど、気を遣いすぎた結果、「既存の範疇外のことをしたらまずい」という空気があるんですよね。

つんく♂:たしかに、何をするにも周りを見てから、ですよね。


:日本で仕事をしていると、基本的に日本人とばかり会って、日本語でやりとりしますよね。

ネイティブ同士の世界にいると、みなまで言わなくても「いつもの感じでさ。うまくやろうよ」「わかりました。うまくやりますわ」みたいに進むでしょう。

つんく♂:いわゆる「なあなあ」の世界ですね。

外国人がいたら「うまくやりましょうってどういうことですか?」と聞かれますから、きちんと説明しなきゃいけないですよね。

ネイティブ同士の世界だと、ふわっと進んでやりやすい面もあるでしょうが、いざうまくいかないときに、なぜうまくいかないのか、どこを変えたらいいのかが見えないんです。

だから、うまくいかなくても「よくわかんないっすねー」みたいに相変わらずふわっとして、結局、停滞してしまうんですよね。

言い出しっぺが悪者になる世界

つんく♂:うまくいっているときは、「古いやり方はやめよう」「もっといい方法がある」なんて言い出した人が悪者になりますよね。もっとよくしようと思って言っているのに、「あいつが言ったからめんどうくさいことになった」みたいな感じで。

:そうですよね。みんな言い出した人のせいにして、「自分は関係ないです」みたいな感じになりがちですよね。そうしたらみんな言わなくなりますよ。言うだけ損だから。


つんく♂1992年に「シャ乱Q」でメジャーデビューしミリオンセラーを記録。その後は「モーニング娘。」をプロデュースし大ヒット。代表曲『LOVEマシーン』は176万枚以上のセールスを記録。国民的エンターテインメントプロデューサーとして幅広く活躍中(撮影:尾形文繁)

アメリカでは、要求しないと水は飲めない

つんく♂:たとえばアメリカ人だってみんながみんな積極的ではないですが、日本のような忖度はありませんよね。

:アメリカ人だって気を遣う人もたくさんいるけど、さすがに「それを言うとまずいんじゃないか」という雰囲気までにはならないんですよ。

つんく♂:僕が今住んでいるハワイは「多言語社会」でいろいろな民族がいるから、日本のように「のどが渇いたかも」と言っても飲み物は出てこないんです。ちゃんと「水が1杯ほしい」と言う必要があるわけですよね。

それは気を遣ってくれないわけじゃなくて、いろんな言語の人がいるから、要望があればわかりやすく英語に置き換えて伝える必要がある。日本人のようにニュアンスでは通じない。

:たしかにそうですね。

「業者もゆるい」のがハワイカルチャー

つんく♂:反面、ハワイで感じたのは「責任者って誰?」みたいな言葉が伝わらないことです。

ハワイでは「責任者、誰?」が伝わらない

つんく♂:たとえば家にトラブルがあって業者を呼んだとき「これって、どこに責任があるの?」と聞くと、「えっ? じゃあ直さないんですか?」と言われる。

「いや、直すけど、誰が責任をとるの?」「保険会社です」「いやいやお金を払うのは保険会社だけど、このトラブルの責任はどこにあるの?」「いやあ……」というやりとりになるんですよ。

:ハワイのカルチャーもあるかもしれませんね。僕もハワイで水道漏れの業者を呼んだら、直せないっていう。「あなたはプラマー(配管工)なのになぜ直せないのか」と聞けば「いや、部品が今ないから」って。

つんく♂:そういうの、めっちゃあります(笑)。

:「いつ直るの?」と聞いても「部品が来るまで直らないよね」と言われて、「いや、誰かちゃんと責任持ってよ」と言っても「いや、部品が来るまでは難しいよね」としか言われない(笑)。


孫泰蔵日本の連続起業家、ベンチャー投資家。大学在学中から一貫してインターネットビジネスに従事。その後2009年に「アジア版シリコンバレーと言えるようなスタートアップ生態系をつくる」という大志を掲げ、ベンチャー投資活動やスタートアップの成長支援事業を開始。そして2013年、単なる出資に留まらない総合的なスタートアップ支援に加え、未来に直面する世界の大きな課題を解決するための有志によるコミュニティMistletoeを設立。社会に大きなインパクトを与えるスタートアップを育てることをミッションとしている(撮影:尾形文繁)

:たとえばシリコンバレーだと、問題が起こる前に「ここ、ちょっとまずくない?」と言う人が出てきて、「たしかにここは事前に対策しておかないとまずいね」「じゃあ、俺が言い出したから俺がやるわ」という感じです。

つんく♂:その的確さがあるのもシリコンバレー特有な気もします。そうすることで評価されて、報酬もきちんと上がっていくわけですよね。

シリコンバレーで「足の引っ張り合い」が少ない理由

:シリコンバレーは事業がうまくいけばストックオプションにもろ反映されますから、ボーナス2割アップとかいうレベルじゃなく、将来、何億、何十億という差になっていく。だから足の引っ張り合いじゃなく、全体の利益を考えるんです。

「お前より俺のほうがうまくできる」と思えるなら、積極的に仕事をとりに行く人もいる。そのとき「それは俺の仕事だ。お前にとられる筋合いはない」なんて言われないわけですよ。

「たしかにこの仕事はお前のほうが向いている。じゃあ俺はこっちやるわ」というコラボレーションになる。全体がうまくいけばみんなが潤うことがわかっているからです。

つんく♂個人のレベルが高いからこそでしょうね。めちゃくちゃうまい人たちが野球をしている感じで、ランナー2塁でピッチャーゴロだったら、誰が捕ってどこに投げるかをチーム全員が脳で考える前に体が完璧にわかっているような。

:そうです。そもそもプロフェッショナルな人材が集まっているので、人材を育成しようという雰囲気がないんです。

でも、すごい人たちだらけだから、お互いに学び合うし「それすごいから自分にも教えて」「どうぞどうぞ」「その件なら知り合いの詳しい人を紹介するよ」「ありがとう」みたいに、自然と高め合っていく感じですよね。

つんく♂:でも、僕が日本っていいなと思うのは、やはり接客力というか「おもてなし文化」ですよ。ホテルや空港、ちょっとしたカフェだってかゆいところに手が届くサービスをしてくれる。あれは世界に誇れるものだと思うんだけどなあ。

日本の「おもてなし文化」は世界に誇れるか!?

:他国は接客について重要視していないとか、ホスピタリティにまったく興味がないのかも。だから「僕に言われても困るよ」みたいな感じになりがちですよね。


おもてなし文化とシリコンコンバレーの話でわかるのが、全体的に平均が高いけど突出した人がいない日本と、数少ないすごい人たちが突出して二極化しているアメリカということかもしれませんね。

つんく♂:たしかに、日本人の平均的なレベルは高いですよ。

:シリコンバレーを理想とすれば「日本はつまらない」と感じるでしょうし、一方おもてなし文化に感銘を受けると「日本最高」と感じるでしょうね。

おもてなしについては、僕もつんく♂さんと同感です。どちらがいいかと言われると、なんとも言えませんが。

つんく♂:「なあなあ」や過度な忖度はビジネスの世界では悪手でしょうが、一方、日本人の気遣い文化みたいなものも、評価されてほしいですよね。

*この対談の1回目:「仕事で成功するのはプロか天才か?」意外な結論

*この対談の2回目:AI時代「子どもが不登校でも"問題"ない」本当の訳

*この対談の3回目:日本の会社員が「世界中から嫌われる」納得の理由

対談場所:Rinne.bar/リンネバー
お酒を飲みながら、カジュアルにものづくりが楽しめる大人のためのエンタメスポット。廃材など、ゴミになってしまうはずだった素材をアップサイクル作品に蘇らせる日本発のバー。

(つんく♂ : 総合エンターテインメントプロデューサー)
(孫 泰蔵 : Mistletoe Founder)