「レジの行列が早く進む方」を見分ける意外なコツ
(写真:よっし/PIXTA)
早く行きたいのに赤信号に引っかかってしまう、エレベーターで降りようとしたらちょうど自分の階にエレベーターが来てすぐに乗れた、コピーしようとしたらインクが切れた……なんかツイてるツイテていない、そんな日常にあふれる不思議な現象や「なんで?」とつい思う軽い疑問はありませんか。
そんな疑問をYouTubeチャンネル『謎解き統計学』で、「確率・統計」の事例とともに優しく解説するしている"統計のおねぇさん"ことサトウマイさんの書籍『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち!?』より一部抜粋・再構成してお届けします。
早くレジを通過するためのポイント
スーパーのレジ、病院の診察室、銀行のATM、空港の搭乗手続きなど、世の中のいたるところで順番待ちをする人の行列(待ち行列)が見られます。
一生のうちに、レジに並んでいる時間はどのくらいでしょうか。まずは、レジに並ぶ回数を計算します。寿命を80年として、20歳から毎日なんらかの買い物をしてレジで会計をすると仮定すると、(80−20)年×365日=2万1900回ということになります。
一生でレジに並ぶ回数2万1900回のうち、半分が「前の人の会計を並んで待っている状態」で、平均3分待つとします。すると、次のような計算式になります。
21,900回×1/2×3分=32.850分=547.5時間=約23日間
成人してからの人生の中で、約23日間も「ただ並んで待っているだけの時間」(自分が会計をしている時間は含まない)があるということです。
移動時間であれば、本を読んだり音楽を聴いたりできますが、商品を持ちながら並んでいてはそうもいかないでしょう。だとすると、なるべくこの時間を短縮したいと思うのも当然です。
迎える側の企業としても、お客さんの待ち時間が少なくなることで、お客さんの満足度が向上し、業績のアップにつながるはずです。
そんなときに役に立つのが、「待ち行列理論」です。この理論を使って、なるべく待ち時間の少ないレジに並ぶ、レジ戦争を勝ち抜く方法を紹介したいと思います。
みなさんは、「混んでいる時間帯のスーパーで、どのレジに並ぶのか?」をどのようにして決めていますか?
待っている人数が少ない
待っている人のかごの中身が少ない
レジ係の手際の良さ
一番多い回答は、「待っている人数が少ない」ではないでしょうか? しかし、この選び方は、あまりおすすめできません。のちほど説明しますが、待ち人数よりも「そのレジがどれだけスムーズに流れているか」のほうが、レジ戦争では大事だからです。飲食店などでは、このことを「回転率」といいます。
立ち食いそば屋は回転率がいい
お昼時の立ち食いそば屋さんは、行列ができていたとしても、案外すぐに食べられます。これは回転率がいいからです。レジにも、この回転率なるものが存在します。正確には、回転率ではなく「そのレジの混み具合」を計算します。
混み具合は、「そのレジにお客さんがどのくらい頻繁にくるか(A)」「レジ係の手際の良さ(B)」で決まります。
もう少し正確に表現すると、
A:1時間のうちにお客さんが何人くるか
B:1時間のうちに何人のお客さんの会計ができるか
この2つの変数を使って、推定待ち時間を計算するのが待ち行列理論です。
A:1時間のうちにお客さんが何人くるか / B:1時間のうちに何人のお客さんの会計ができるか
=レジの混み具合(稼働率)
お客さんをさばける数(B)に対して、それを上回るお客さん(A)が並んでいると、A/Bは1を超えます。これを、その「レジの稼働率」ともいいます。稼働率が100%のとき、1時間レジが休みなく動いている状態ということになります。
これが100%を超えると、レジでいくらお客さんをさばいてもさばいても行列が長くなっていく状態、ということになりますが、普通はこの稼働率は100%未満になっているはずです。
あるスーパーマーケットの稼働率を想定
例えば、以下のような状況を想定します。
あるスーパーマーケットの夜8時台では、平均5分間隔でランダムにお客さんが会計にくる。稼働しているレジの台数は1台であり、1時間で30人の会計ができる。この状況のときの稼働率はいくつでしょうか?
A:1時間のうちに、お客さんが何人来るか→60÷5=12人
B:1時間のうちに、何人のお客さんの会計ができるか→30人
この時の稼働率は、 A/B=12/30 = 0.4
稼働率は、40%[夜8時台では40%(24分)レジが稼働している状態]ということになります。稼働率が100%未満ということは、お客さんが並ぶペースよりもレジの処理能力のほうが高いので、一時的に2人以上並んでも「いずれ、行列は収まる」という状態です。
あなたはそのスーパーの常連で、仕事帰りに夕飯を買って帰るのが日課です。「夜8時頃に買い物に行くと、レジには1人並んでいるかいないかくらいで、空いていて快適だな」と思ったとします。この感覚は、正しいかどうか調べてみましょう。
待っている人の人数は、
(A/B)/ {1−(A/B)}[人]
で、計算できます。
先ほどの計算で、A/B=0.4というのがわかっているので、それを代入すると、
=0.4 /(1−0.4)
=2/3[人]
となります。
「どうしてこういう計算をするのか?」ということは、今は置いておきます。2/3[人]は「自分の前に何人待っているか?」を表します。「この時間帯にスーパーのレジに行った場合、1人並んでいるかいないかくらいの混み具合」ということになります。
レジを待つ時間はどう計算する?
そして、このときのレジを待つ時間は、「待っている人の人数×平均レジ通過時間」で計算できます。
平均レジ通過時間は、 (1[時間])/(B:1時間のうちに、何人のお客さんの会計ができるか) で計算できますので、
1/B=1/30[時間]=2[分] 「待っている人の人数×平均レジ通過時間」に当てはめると、レジ待ち時間が計算できます。
2/3[人]×2[分]=4/3[分]=80[秒]
「夜8時台にこのスーパーに行くと、レジに1人いるかいないか(2/3人)くらいの待ち人数で、自分の会計をしてもらうまで平均80秒待ち」
という解釈で、先ほどの感覚は合っているといえるでしょう。
レジ待ち時間を決めるのは、「そのレジにお客さんがどのくらい頻繁に来るか(A)」「レジ係の手際の良さ(B)」ということがわかりましたが、多くの人は「どのレジに並ぶか」を考えるとき、まずは「そのレジに並んでいる人数(列の長さ)」を見て、どこに並ぶかを決めていると思います。
しかし、大抵は「待ち行列はどこも大差ない」はずです。レジの処理速度が早ければ、その分待ち人数は減っていくため、たくさんの会計処理ができるところほど人が流れて頻繁にお客さんが来ます。
つまり、「そのレジにお客さんがどのくらい頻繁にくるか(A)」ということも、「レジ係の手際の良さ(B)」に依存しているといえるでしょう。その時点での「レジごとの待ち行列の長さ」を見るよりも、「どこがスムーズに回転しているか」を見極めたほうが、早くレジを通過できます。
(サトウマイ : データ分析・活用コンサルタント)