工場地帯を控えた能町駅。かつては複数の貨物列車が出入りしていた時代もある。本格的な冬に備えて消雪スプリンクラーが作動中 (写真:山下大祐)

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2024年3月号「氷見線・城端線の40系気動車」を再構成した記事を掲載します。

JR西日本は大量の40系を保有

富山県高岡から南へ29.9kmの城端線と北へ16.5kmの氷見線はともに国鉄型40系気動車の牙城としてクローズアップされる。立山を望む砺波平野や富山湾沿いの風景も美しく観光列車「べるもんた」も活躍する。その一方、両線をJRから地元第三セクターのあいの風とやま鉄道に移管する鉄道事業再構築の取り組みもいよいよ具体的に動き出した。

JR西日本は発足時に国鉄から257両の40系を引き継ぎ、2022年度末でもそのほとんどの252両を保持している。JR東海では2016年を最後に0となり、JR東日本は秋田地区でのGV-E400系置き換えを最後に観光用途以外は消え、その観光用も淘汰に入っている。JR北海道も国の支援を受けた再建計画の中でDECMOへの置き換えが進展している。

JR西日本の保有数は各社中においても破格の多数で、JR九州の約3倍になる。裏を返せば、ローカル線の車両更新をまったく進められない台所事情ということになる。

しかしここにきて、城端線・氷見線に関わる大きなニュースが矢継ぎ早に報じられている。両線をJR西日本からあいの風とやま鉄道に移管し、地元で持続可能な新たな交通体系を構築、運営してゆくこととし、その中で車両も新しくすることが決定されたのである。

この話のそもそもは氷見線と城端線の直通化案にある。現あいの風とやま鉄道が北陸本線だった時代から、南北に分かれていた両線を結べば便利になるとして、地域の懸案事項ではあった。それが北陸新幹線の駅が高岡でなく新高岡になったことで、課題として一気に大きくなったのである。高岡市は街の構造、既存の交通体系の大転換を強いられている。影響は氷見なども同様である。そのため氷見線を国土軸である新幹線に直結させ、便利で太い交通の便を構築する。高岡は氷見線側を中心部とし、高校も集まるので、直通は城端線方面にも恩恵が大きい。

だが、富山県と城端・氷見線沿線4市、JRでテーブルにつき2線の直通化を協議したところ、自明ながら高岡駅構内の大改造が必要であり、しかもそれを実施しても、貨物列車が走る元北陸本線という幹線ルートの横断は日に8往復が精一杯という結果が、調査委託先のコンサルタントから示された。そのため別途、学識者が近鉄西大寺や阪急淡路を事例調査し、その結論に疑問を呈している。だが、ともかく万事が大きな国鉄〜JRのシステムにあっては、隙を縫うような機敏な信号設備に作り替えるには額を要する。


晴れれば白銀の立山連峰を望む雨晴海岸だが激しく波が打ち付ける光景も冬ならでは(越中国分ー雨晴間、写真:山下大祐)

高岡駅交差のためのLRT化案だったが…

そこでJR西日本から、LRT化が提案される。小型軽量で高性能のLRTならば、駅構内をコンパクトな立体交差で横断することが可能というアイデアである。JR西日本と富山の関係ではすでに富山ライトレール(現富山地鉄富山港線)という大成功の例があるので、その流れもあった。加えて高岡の地でLRT化を論じるとすれば、だれでも万葉線も相乗りで直通させれば、中心市街地全体と新高岡駅がダイレクトに結ばれるという点を思いつく。

だが、LRT案は実現には至らない。富山ライトレールや万葉線の事例が身近なだけに、逆に一般にはLRTとは小さな電車が市街や近郊を結ぶイメージで固定されてしまい、路線距離が長いJR線の置き換えには適さないと評されたらしい。また、LRT化するなら氷見や城端まで電化し、駅も作り替える必要がある(本来のLRTの意味は、それが必須ではないのだが…)。そのコストも距離が長いと大きい。

そこでいっそのこと、BRTならばコストダウンが図れて市中との直通も容易に可能との案も俎上に上がる。ただしBRTは連接バスでも既存LRTの車両と輸送力面で大差なく、線路を専用道に作り替える工費と工期を要し、その間の代替交通の確保こそが大きな問題となる。

ところでもう一つ、高岡はじめ地元の根本的な希望としては、現状の不定時隔で1時間に1本程度の運転も、新幹線駅へのアプローチとしては改善したいところで、再三にわたりJR西日本に増便を求めてきた。それで金沢開業時に城端線4往復の増発が実現したが、これはむしろ異例で、管内に多くのローカル線を抱えるだけに、JR西日本としても積極的な施策は難しいだろう。

そのような状況で膠着し、高岡駅平面横断の協議にはあいの風とやま鉄道の参加が欠かせないとの話合いの中で急速に醸成されていったのが、地域の最重要課題として対処するには地域自らが引き受ける、との考えである。JRには投資のインセンティブが働かないが、地元会社ならばその価値を高められる。交差するダイヤを相互に調整するなら一体的にハンドリングできる組織でありたい。さらには両線から富山への直通の増強や、運賃体系の一体化も可能になり地域住民におけるメリットも大きい。とすると、あいの風とやま鉄道へ移管するのが最善、と判断された。

普通サイズの車両を入れて、毎時2本化も

こうした検討の結果、2023年3月に出された利便性・快適性向上策の中で、LRT化はせず普通鉄道サイズの新車を導入する方針が明らかにされた。7月には「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」(2007年)による国の支援を得るため、城端線・氷見線再構築検討会が設置された。同法に基づいて経営が厳しい鉄道事業者の形態を再構築した事例は過去に11例あるが、自治体が先導する形で、ローカル線にしてはある程度の輸送量がある路線を強化し、地域を成長させるために再構築しようとするのは今回が初めてになる。

そして主に以下の内容で素案が立てられた。2024年2月から2034年3月までの10年間を事業期間とし、この間2028年度までに新型車両導入、交通系ICカード導入、運行本数の増強(日中毎時2本化)、パターンダイヤ化、時間短縮のため分岐器改良とホーム嵩上げを行い、これらと同時期に両線はあいの風とやま鉄道へ移管する。そして2033年度までに既存施設の再整備をし、城端線と氷見線の直通運転を実現する。これらに対してJR西日本は150億円を支援し、両線に接続する交通も導入を促進する、というものだ。

この計画は2023年12月18日の第5回検討会で正式にとりまとめられ、実行に向けて「城端線・氷見線鉄道事業再構築実施計画」として12月22日、国土交通大臣に申請された。


こうして城端線・氷見線は一気に新たな姿を予測させるに至ったわけで、現在の姿はあと数年となった。地方を蘇らせるフットワークのよい交通手段がどのように具体化するのか、異色の先進事例として注目を集めている。

(鉄道ジャーナル編集部)