解散を発表した和牛の水田(左)と川西

 2023年は、多くのお笑いコンビが解散を発表した。コウテイ、ANZEN漫才、ゾフィー……最大の衝撃は『M-1グランプリ』で大活躍し、“無冠の帝王”として劇場で無双を誇っていた和牛が解散したことだ。

「もったいないよね、もっと続ければぜんぜん違うのに」と語るのは、大ゲンカから元サヤに収まった経験を持つ漫才界の重鎮、おぼん・こぼんのおぼん師匠。

「和牛との面識は、テレビ局でちょこっと会うくらいですけど、漫才は知ってますよ。おもしろい漫才でしたからね。17年くらいやってるんでしょ? ホント残念。僕らも『仲が悪い』って言ってやってたけどね(笑)。別れようってのは、過去に4〜5回はあるんですよ。でもね、俺たちは行く道が同じなんですよ。好きなお笑いがたまたま一緒。これが違ったら別れてると思うんだけど。

 やっぱり人を笑わすのが好き。歌やタップとか、萬(よろず)の芸が好きなんで別れずに済んだ。ビジネスパートナーですしね。おぼん・こぼんでやってれば、十分に飯は食えますし」

 コンビというのは難しいものだ。おぼん・こぼんも度重なる解散危機を乗り越え、テレビ番組の企画で仲直り。今や劇場でも大人気のコンビに返り咲いた。

「和牛は行く道が違ったんでしょうね。漫才のコンビってね、何かにつけ腹立つことばっかなんですよ(笑)。最初のうちはいいんだけど、ひとつ、ふたつ気になるとこが見えると、嫌な面ばっかり目についちゃってね。どんどん坊主憎けりゃ袈裟まで悪くなっちゃうんですよね。

 だから、続けるっていうのは難しいんですけど。漫才で飯食えるようになるのは、相当年月もかかるし、ケンカも繰り返さないといけない。漫談なら自分の責任だけど、漫才は相棒のせいにしちゃうんだよな、自分の腕を棚に上げて(笑)。和牛も多分、そうだと思うんですよね。お互いにピンでも十分できる腕があるしさ。

 ピンで漫談やらなくても、個性派俳優とか行けそうじゃないですか、水田(信二)くんの方なんてね。川西(賢志郎)くんはMCとかも行けるんじゃないですかね。どっちも達者だから、やろうと思えばできる。でも、漫才やったほうが、ぜったいおもしろいよなあ。それがわかってても、お互いにいろいろあって……これは、止めても無理なんですよね」

 絶対に続けたほうが稼げるのになあ、とおぼん師匠はため息をつく。

「俺なんか、この年でも飯が食えるのはおぼん・こぼんだからですよ。いくら、俺がひとりでできるっつったって、おぼん・こぼんのギャラは稼げないですからね。俺らももう59年め、『長生きも芸のうち』って昔から言われるんだけど、そのとおりだなと思いますよ。半世紀以上やってきたから、山をいくつも越えてさ。

 年金も入ってくるし、仕事も少ないけど普通の75歳過ぎのじいさんに比べりゃ稼いでますから。今でも腹立つことはあるけど、相棒に感謝してますよ。漫才はひとりじゃできないからね。(こぼんには)腹立ちますよ、ネタ考えろよとかね(笑)。今回の取材も『おぼんにまかせた!』って、ぜんぶ俺に任せてさ、いい立ち位置ですよ、あいつは(笑)。

 和牛にも言ってやってくださいよ、もったいない、飯食えるのにって。俺は何のアルバイトもしないで漫才だけで世田谷区に一軒家持ちましたからね! 自慢じゃないけど“2おく”の家ですよ……奥から2軒目ね(笑)」

 和牛も、しぶとく生き続けてほしかったものだが……。