1袋作るのに3日かかる国民的スナック「かっぱえびせん」60年目の課題…原材料高騰、円安で「内容量減」「値上げ」それでも愛され続けるために…

“やめられない、とまらない”のキャッチフレーズで有名なスナック菓子「かっぱえびせん」。カルビーを代表するロングセラーとして知られ、2024年にはブランド誕生から60周年を迎える。

「品質の追求」と「商品の完成度」がロングセラーの秘密

物価高騰の影響下により、1袋の内容量は発売当時の130gに比べて約4割減の77gになっているものの、「お菓子の食べられ方の多様化」に合わせる形で企業努力をしてきたという。カルビー株式会社でかっぱえびせんのブランドマネジャーを務める塩粼高広氏に、ロングセラーとなった背景を聞いた。

かっぱえびせんは、カルビー創業者の松尾孝氏が幼少期のころに好んで食べていた「川えびの天ぷら」にヒントを得て、 1964年に発売開始した商品だ。ロングセラーを続ける理由について、塩粼氏は「発売当初における商品開発の“作り込み”が秀逸だった」と説明する。

ブランドマネジャーの塩粼高広さん

「小麦粉からあられを作り、スナック菓子として1955年に商品化した『かっぱあられ』が、かっぱえびせんの前身となる商品ですが、ここから品質を追求するために『かっぱえびせん』の発売まで26回ものリニューアルを繰り返しました。

これは年に3回も商品のブラッシュアップを重ねていたことになりますが、現在の商品開発では3年間に1回ほどのペースで改善を行うことからすると、考えられないほどのスピード感で商品の完成度を高めていたことになります」(ブランドマネジャー・塩粼高広氏、以下同)

1955年に発売された「かっぱあられ」

カルビーでは、かっぱあられを販売する前まではキャラメルや飴を扱っていた。「健康的で栄養豊富なお菓子を世に出したい」という創業者の思いから生まれた“探求心”が商品を改良するモチベーションになった。

それが今でもカルビーに根付く「一人・一研究」と呼ばれる商品開発のDNAとして、脈々と受け継がれている。

かっぱえびせんは、発売開始から6年で売上100億円を超えるブランドに成長。「やめられない、とまらない」のキャッチコピーで鮮烈な印象を与え、さらには全国の小売店やスーパーに販売網を広げる戦略で、多くの消費者に愛される商品へと進化を遂げた。

かっぱえびせんのヒットを皮切りに、「サッポロポテト」(1972年発売)や「ポテトチップス」(1975年発売)など、次々とロングセラー商品を生み出し、“スナックといえばカルビー”という不動の地位を確立したのだ。

1964年に発売された初代「かっぱえびせん」(定価50円/当時)

類似品が生まれない唯一無二の理由

また、かっぱえびせんは他社からほとんど類似品が出ていないのも大きな特徴となっている。その理由として、「参入障壁の高さ」と「小麦を加工する技術力」の2つが挙げられると塩粼氏は話す。

「かっぱえびせんの主原料は小麦でできており、それを蒸しながら、もち生地のベースを作っていき、揚げるのではなく香ばしく煎ることで、サクサクの食感とのどごしのよさが生まれます。

こうした小麦の加工へのこだわりから、かっぱえびせんを1袋作るのに3日間はかかるんです。小麦の加工技術や製造に必要な機械を揃えようと思うと、なかなかハードルが高いことも、市場に類似品がほとんど出回らない理由でしょう。“唯一無二のお菓子カテゴリー”の代表的な商品として成長してきたと捉えています」

“味変”で新たなファン獲得

かっぱえびせんの商品ラインナップに関しても、時代とともに工夫を凝らしてきたという。

王道の塩味を主軸にしつつ、1986年には季節限定品の「かっぱえびせん フレンチサラダ味」を発売し、1996年には同じく季節限定品の「かっぱえびせん 梅味」を発売した。

1986年に発売された季節限定「かっぱえびせん フレンチサラダ味」

定番品以外の“味変”商品を出した上記のタイミングでは、いずれも過去最高の売り上げを達成できたそうだ。

「いつも食べていただいている塩味のほかに、季節限定でこうした新しい味わいが楽しめる商品を出すことで、新規のお客さまへと裾野を広げ、かっぱえびせんのファンを増やすことにつながっていると思います。

フレンチサラダ味は今でも毎年発売している季節限定品で、楽しみに待ってくれているお客さまも多いんです。そのほか、ご当地限定のギフト需要を意識したおみやげ商品も開発しています。

広島みやげの定番を目指した「かっぱえびせん 匠海」(広島)や関西でしか味わえない「かっぱえびせん たこ焼き味」、九州でしか味わえない「かっぱえびせん 明太子味」など、各地域限定のフレーバーを見出し、商品ラインナップを拡充することに尽力してきました」

また、直近ではお酒のおつまみ需要に応える商品「絶品かっぱえびせん 瀬戸の塩と帆立貝柱味」を2023年12月に発売した。

「絶品かっぱえびせん 瀬戸の塩と帆立貝柱味」

2020年に宅飲み向けの商品シリーズ「絶品かっぱえびせん」の販売を開始したなかで、シリーズ初の試みとなる“ファンとの共創”という建てつけで出した商品となっている。“お酒が大好きなイケオジ”をターゲットに据え、さまざまな意見交換を交わしながら商品開発を行ってきたという。

「ここで言うイケオジというのは“イケてるおじさん”の略ではなく、“仕事を頑張るお酒好きのおじさん”という意味になります。冬の商品にマッチする絶品かっぱえびせんの味をファンの方と考えていったんですが、“商品の知識が豊富でセンスのいい人”ではなく、仕事をしながら日常的にお酒を飲んている一般のお客さまの意見を大事にしようと意識しました」

柚子やエビ味噌、ウニ、かき、たい、生姜、枝豆など、さまざまなフレーバーのアイデアが出た中で、「瀬戸の塩と帆立貝柱味」に収束した。味を決める際にも塩加減や帆立の味わいの強弱など、消費者目線から助言をもらいながら商品化にこぎつけたそうだ。

内容量減量で実質値上げ…

こうしたなか、ロングセラーのかっぱえびせんも主に2つの課題を抱えている。1つは、冒頭にも触れた「内容量の減量」だ。

物価上昇に伴う原材料の高騰や円安の影響で、実質的な値上げをせざるを得ない状況にあるのは、かっぱえびせんだけではなく、他の商品全体にもいえることである。

塩粼氏は「外的環境の変化を鑑みつつ、企業努力を重ねながら内容量を決定しているが、かつてのような大容量よりも小分けのアソートタイプの売り上げが伸びていることに目を向けていきたい」と説明する。

「今では多くのお菓子が登場し、味の趣味嗜好も多様化していることから、家族一人ひとりが異なるお菓子を食べるようになってきています。このような背景のなかで、従前のような大容量のものよりも、食べきりサイズのものが求められていると考えています」

もう1つは、消費者にブランドが選ばれる「選好性」だ。

かっぱえびせんの認知率は99%に上り、喫食経験がある消費者も多い。

だが、「食べたことはあるものの、手を取るほどではない」というロングセラーの宿命を、いかに脱却していくかが今後のカギを握るという。

現在のパッケージの「かっぱえびせん」

「かっぱえびせんは50代のお客さまがボリュームゾーンになっていて、いわば“かっぱえびせん世代”として、子供のころに食べた記憶や印象がある層になるんです。この世代に向けて、もう一度かっぱえびせんの喫食機会を創出し、ブランドのファンになってもらうことを目標に取り組んでいこうと思っています。先述した『瀬戸の塩と帆立貝柱味』のようなファンとの共創品や、60周年を機にいろんな仕掛けを行っていきたいですね」

取材・文/古田島大介