【闘病】まさか私が「乳がん」に? あの時検査を先延ばししなければ…

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日本人女性が生涯で乳がんに罹患する確率は9人に1人と言われています(国立がん研究センターがん情報サービスがん登録・統計サイト「最新がん統計」2017年)。年々増えている現状ですが、果たして私たちは乳がんについての正しい知識を持ち合わせているでしょうか? そこで職場の健康診断で乳がんが発覚した加藤扶美さんに、闘病中の体験や感じた想いなどを聞きました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年7月取材。

体験者プロフィール:
加藤 扶美

神奈川県横浜市在住、1975年生まれ。家族構成は、夫・娘・両親。横浜市立小学校教諭として勤続25年。2022年8月末に職場の健康診断で乳がんが発覚し、10月に左乳房全摘手術と同時再建手術(一期)を受ける。現在はホルモン療法を受けながら、大胸筋下に挿入したティッシュエキスパンダーを少しずつ膨らませて皮膚を伸展し、二期的再建手術の準備をしている。主治医と相談し、2023年度末まで休職する予定で診断書を提出したが、休職が認められず復職辞令が急に発令され、動揺しながらも7月より復職。療養者のための時短制度などがまったくないため、不調時や通院時は有給を使いながら、なんとかフル勤務をしている状態である。

記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

しこりの違和感も「来年の健康診断まで」待ってしまった

編集部

病気が判明した経緯について教えてください。

加藤さん

職場の健康診断のオプションで乳がん検診(マンモグラフィと超音波)を行いました。通常は1カ月ほどで結果が郵送されてくるのですが、検診後すぐに再検査の電話がかかってきました。そして再検査のときにその場で医師から、「5cm程のがんがある。確定診断ではないが、ほぼ間違いないであろう」と宣告されました。

編集部

自覚症状などはあったのでしょうか?

加藤さん

実は、数年前から左乳房に違和感を覚えることがあり、当時通院していた大学病院(婦人科)の医師に伝えて乳がん検査をしてもらっていました。定期的に検査をしながら様子を見ようと言われていたのですが、その主治医から別の医師に変わってからは、前の主治医ほど親身になってもらえず、他院での検査を勧められ、そこで私もすぐに違う病院を受診するなど動けばよかったのですが、仕事(小学校教諭)の忙しさも相まって「来年の健康診断まで待つからもういい」と考えてしまって……。結局、翌年受けた健康診断でがんが見つかり、早く受診をしなかったことを後悔しました。

編集部

どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?

加藤さん

最初にかかった大学病院の医師には、「とにかく焦るな、検査が全部終わるまで相当日数がかかるし、治療に入るまでは何カ月もかかる。それまでは普通通りの生活を送るように」と言われました。大学病院のシステム上やむを得ないのかもしれませんが、でも私は大きながんが体内にあるとわかっていながら平常心で仕事をしたり日常生活を送ったりすることが非常に困難でした。こうしている間にもがんが進行してしまったり転移してしまったりするのではないかと、毎日不安でたまりませんでした。

現主治医との出会いと「説明」から得られる安心感

編集部

とても平常心ではいられないですよね……。

加藤さん

はい。1カ月後、その医師の退職に伴い新しい病院を紹介されたのですが、転院先の医師(現在の主治医)は、初診から私の想いを時間をかけて聞いてくださり、その日のうちにできる検査を沢山実施してくれました。その上で、先に抗がん剤でがんを叩いてから手術する方法と、そのまま手術して術後薬物療法をする方法があることや、術法は部分切除と全摘出が選べるが、私の場合は部分摘出ではがんが残存する可能性があること、乳頭・乳輪を温存する方法もあるが、同じくがん残存の可能性があることなどを一つひとつ丁寧に説明してくださりました。

編集部

細かく説明してもらえるのは安心につながりますね。

加藤さん

さらに乳房再建についても、再建することのメリットを明るく話してくださり、再建する場合は、形成外科医が診察に参画し一緒に手術するとのことでした。詳しく説明を聞き十分に納得した上で、術前療法なしの全摘出、同時再建を選択しました。10月1日初診、10月18日手術という驚異的なスピードで、とてもありがたかったです。

編集部

病気が判明したときの心境について教えてください。

加藤さん

検診で引っかかって再検査で大きながんがあると言われたときは、ありきたりな表現ですが、目の前が真っ暗になりました。全身が震えて、涙が止まりませんでした。「まさか自分ががんに? なんで? 私死ぬの? これからどうなるの?」と、様々な感情が押し寄せました。帰り道に泣きながら主人に電話した後、どうやって家まで帰ったのか覚えていません。本当にショックでした。

編集部

発症後、生活にどのような変化がありましたか?

加藤さん

転院前の大学病院では検査や治療を待っている期間は非常に不安で辛く、精神的に不安定になってしまい、家族に当たり散らしてしまうことも多くなりました。家で何をしていてもがんの進行や転移への恐怖が頭から離れず、楽しい家庭生活がまったく送れませんでした。仕事についても、本当は今すぐにでも仕事を休んで治療したいのに、実際は確定診断がおりて治療方針が決まるまでは勤務し続けなくてはならないという現実に対して理不尽さを感じてしまい、具合の悪さも相まって仕事に対する意欲ややりがいを見失いつつありました。

編集部

そのような苦労があったのですね。

加藤さん

ですが、転院後すぐに手術を受けてからは、胸の痛みや薬の副作用はあるものの、「悪い部分を切除してもらった」という安心感が大きく、少しずつ前向きに生きられるようになりました。再発、転移を少しでも防止して健康的な毎日を送ろうと、家でのリハビリや運動は今でもほぼ毎日続けています。また、発症前は甘めの炭酸飲料が大好きでよく飲んでいたのですが、今は体に優しいお茶を飲んだり、炭酸飲料も無糖のものを選んで飲んだりするようになりました。

編集部

乳がんに向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。

加藤さん

やはり家族(夫・娘・同居の両親・愛犬)の存在が大きいですね。娘(現在大学生、当時高校生)は役者の卵なのですが、私ががん告知を受けた日にちょうど初舞台の出演が決まったんです。舞台に立つ娘をこの目で見たいという一心で治療やリハビリを頑張りました。退院後、娘の晴れ舞台を観ることができたときは心から嬉しく感動しました。諦めなくてよかったと思いましたし、少しずつ回復している自分を感じて大きな自信につながりました。夫は同業者ということもあり、職場との話し合いに同席してくれたり、療養と仕事の兼ね合いについてアドバイスをくれたりと、いざというときに頼りになります。両親は、今回私ががんに罹患してからずっと心配し、私の体調に一喜一憂しています。そんな家族や愛犬のリボンのためにも、強く明るく生きていきたいと思っています。

意図せぬ復職を迫られ…

編集部

もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?

加藤さん

「自分の体を第一に考えて、働き方を工夫しよう。そして、体に異変を感じたら忙しくてもすぐに受診しよう」と言いたいです。そして、「がんにかかってしまっても、怖れなくて大丈夫。素晴らしいお医者さんや医療スタッフの皆さんに巡り合って、自分らしく生き続けることができるよ」と自分を安心させたいです。

編集部

現在の体調や生活などの様子について教えてください。

加藤さん

手術後からホルモン療法を開始しました。具体的には毎朝のタモキシフェン服用と3カ月に1回のゾラデックス(一般名:ゴセレリン酢酸塩)注射をしています。ゾラデックス注射はお腹に打つのですが、とても痛く、打ってから数日間はお腹に大きな痣ができて、それも痛みます。タモキシフェンは、車酔いをしたようなめまいや吐き気、肩や首の張りと痛み、イライラなどの副作用が酷かったです。それでも調子が悪い日は横になって何とか耐えていました。

編集部

手術後も闘いは続いていたのですね。

加藤さん

はい。くわえて今年度いっぱい休職する意向を教育委員会に伝え診断書も提出したにも関わらず、急に復職の辞令が出てしまいました。私と一度も面会することもなく、審議会の中で復職が決まったそうで、復職辞令日の10日前に突然その通達を聞いたときには非常に動揺し、ますます調子を崩してしまいました。色々な機関に相談したのですが、結局復職するしか方法がなく、非常に具合の悪い中バタバタと復職しました。本当はちゃんと元気になってから、児童たちや保護者の皆さんとお会いしたかったのですが……。こんな状態での復帰で職場の皆さんに迷惑をかけてしまうことも心苦しかったです。

編集部

復職後の体調はいかがでしたか?

加藤さん

復職すると、タモキシフェンの副作用が耐えられないほど酷くなり、ついに主治医から服薬中止を提案されました。その提案を聞いたときはとても悲しく、主治医に相談しました。すると、「日本ではまだ承認されていないから保険適用外になるけれど」という前提のもと、アナストロゾール服用の提案をしてくださいました。副作用が私にとってはタモキシフェンよりも少ないかもしれないことや、再発・転移に対しても効果が認められていることなどを聞いて、アナストロゾールに変更することを決心しました。アナストロゾールを服用し始めてからまだ2日間しか経っていないので副作用については未知数ですが、だるさやドキドキする感覚はあるものの、車酔いのような気持ち悪さは減って少し楽になりました。10月の再建手術のときまで、なんとか勤務を続けられるように頑張っているところです(取材時)。

編集部

あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。

加藤さん

乳がんは、タイプによって治療法や進行スピードも違います。少しでも異変を感じたら受診することが早期発見につながります。私は早期ではなかったので、そこはとても悔やんでいます。それから、乳がんに対して偏見や誤った認識をもっている人が少なからずいるので、正しい知識をもってほしいです。私自身、「乳がんなんてたいしたことない」「再建手術は美容整形なんだから、有給を使って勝手にどうぞ」などという意味合いのことを復職時に言われて深く傷つきました。乳がんに伴う再建手術ももちろん治療の一環だと思います。

編集部

医療従事者に望むことはありますか?

加藤さん

主治医の先生や再建担当の先生がとても優しく、一人ひとりの想いや願いを聞いた上で一緒にがんへの向き合い方を考えてくださることで、ずいぶん救われ、絶望の淵から這い上がることができました。主治医の先生は、手術前日の回診のときに私が質問すると、ポケットから小さなノートを取り出して、丁寧に説明してくださいました。そこには、私の情報が手書きでびっしりと書かれていました。それがとても嬉しくて、不安なく翌日の手術に臨むことができました。再建担当の先生は、私が何を重視しているかなど、私の想いや願い、不安などをじっくりと確認してくださり、それぞれの方法のメリット、デメリットを丁寧に教えてくださいました。一方で、「普通はこうだから」「みんなこうしてるから」などと言って、個を見てくださらない医療従事者もいらっしゃったように思います。統計上の数字ではなく、一人ひとりを見てほしい、一人ひとりの心と体に寄り添ってほしい。それが望みです。

編集部

最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。

加藤さん

私は、乳がん告知を受けて途方にくれている中、ここで多くの方々の闘病記を読むことで元気と勇気をもらいました。がん告知を受けて平気でいられる人は多くないと思います。でも、あなたの心と体に寄り添ってくれるお医者さんが必ず見つかるはずです。希望を持って、そして、自分自身の心と体を大切にしながら毎日を楽しく生きていきましょう。また、がん患者のサポート機関の一つとして、「がん支援相談センター」があります。全国各地の病院内にあり、その病院にかかっていなくても相談を受け付けてくれます。私は、その「がん支援相談センター」のがん専門看護師さんや医療ソーシャルワーカーさんにずいぶん助けられました。私の治療はまだまだ続きますが、闘病中のみなさんと一緒に乗り越えていけると嬉しいです。

編集部まとめ

加藤さんは、闘病を通して、世間の乳がんに対する偏見や誤った認識を持つ人が少なくないことを知ったそうです。そんな中でも自分らしく生きるためには、信頼できる主治医に出会い、しっかりコミュニケーションを取って納得した上で治療方法を選択していくことが大切だと話してくれました。当サイトを見て元気と勇気をもらったと言ってくださった加藤さんの闘病体験が、今、不安や悲しみを感じている方の希望になってくれることを切に願います。

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