作業着とカジュアル衣料の兼用で着られるおしゃれなデザインに様変わりした(記者撮影)

「行こう、みんなでワークマン

歌手の吉幾三さんが建設業や料理人などに扮し、職人さんへの応援歌を歌い上げる。こんなワークマンのテレビCMを覚えている人も多いはずだ。

ただ、職人の高齢化などに伴う作業着市場の頭打ちを受けて、ワークマンは徐々に“イメージチェンジ”を意識し始める。2016年にはプロ向けでも日常使いできる衣料品などを中心に、アウトドア用・スポーツ用・雨用と3種類に分けてプライベートブランド(PB)を打ち出した。

2018年には新業態「ワークマンプラス」の出店を開始し、一般客の開拓へ本格的に舵を切って今に至る。そこからの進化は目覚ましい。ワークマンの商品がどんどん洗練されていることが見て取れる。

「防寒ジャンパー」10年の系譜

下は、ワークマンの代表的な防寒ジャンパーを年代別に並べたものだ。2010年モデル(左下)は、作業着の定番である「白狼」の防寒ジャンパー。作業現場などで働く人たちを彷彿とさせる定番デザインだが、2016年頃の防寒ジャンパー(中央下)は裏地にアルミを使ったデザインへ進化。ただし銀色のフードは好みがわかれそうだ。


左が2010年頃の白狼防寒ジャンパー、中央が2016年頃の裏アルミジャンパー、右が2023年の防寒ジャンパー「EURO ULTIMATEデュアルフーディー」(提供:ワークマン

そこから2023年モデル(右上)を見比べると、アウトドアやカジュアルの雰囲気がかなり強まり、作業着の面影はほとんど見られない。一般客向け業態のワークマンプラスや、作業着を扱わない業態「ワークマン女子」の展開を経て、デザインがかなり洗練されていることが見て取れる。

ワークマンの商品開発のキモとなっているのが、「アンバサダー」と呼ばれるインフルエンサーの存在だ。アンバサダーとの協業は2019年から本格化し、現在は約50人。

一般客向けのアウトドア・スポーツ用衣料に関して、SNSでキャンプ、バイク、釣りなどの情報発信をしているインフルエンサーにアイデアを募りながら商品開発を進め、足りないノウハウを補ってきた。今年6月には、インフルエンサーのサリー氏(本名・濱屋理沙氏)を社外取締役にも起用している。

一般客を拡大したことで、商品開発の重要性はさらに高まっている。職人の場合、決まった作業着や工具を繰り返し購入することが多いが「一般客向けのアパレルは通常、新規開業2〜3年後に(客数の)ピークが来る。客数が減らないようアイテムを増やす必要がある」(土屋哲雄専務)。

作業とファッションの二刀流


アンバサダーのアイデアを元に開発。バイク乗りなど幅広いユーザーに愛用されるようになった(提供:ワークマン

ワークマンの最新業態である「ワークマンカラーズ」では、新商品をより短いサイクルで投入するため、話題の中国発ファストファッション「SHEIN」を参考にしたという短納期生産の仕組み作りにも踏み込んだ。作業衣料だけのビジネスモデルでは、考えもしなかったファッション化への進化である。

ただし、機能性アパレルを武器に成長していくためには、ワークマンブランドの基盤となる作業着や職人客の維持と拡大が不可欠。カジュアルアイテムに「花粉に強い素材」「虫刺されしづらい素材」など、独自性を加えるのがワークマンのキモになるからだ。

ワークマンプラスが店舗数で最大となった今、祖業である「作業」に立ち返ることと並行し「ファッション」も追いかける。ワークマンが推し進める“二刀流”は、アパレル業界にどのような風を吹き込むのだろうか。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)