文化放送をキーステーションに全国33局で放送中「ニュースパレード」(毎週月曜日~金曜日午後5時00分~5時15分)

 その日に起こった最新の話題を中心に、幅広い分野にわたってニュースを紹介しています。昭和34年の放送開始以来、全国のラジオ局の強力なバックアップで、特派記者のレポート、取材現場からの中継など、今日最も重要なニュースを的確に把握し最新情報を伝え続けています。

 文化放送報道記者として国会、官邸を担当し、日夜取材活動で活躍する山本香記者が放送でお伝え出来なかった話題を取材後記としてお届けします。

 

 


9月13日、皇居での認証式を経て、第2次岸田再改造内閣が発足した。一連の人事で刷新感とともに骨格を維持し重厚感、安定感にも腐心した岸田総理。鈴木財務大臣、西村経済産業大臣、松野官房長官らを留任させる一方、19人いる閣僚のうち、11人が初入閣、女性閣僚は過去最多の5人となった。

恒例のキャッチフレーズ

改造を受けて13日夜に記者会見した岸田総理は「この内閣は、変化を力に変えていく内閣だ」と胸を張った。どういう内閣なのか説明を聞いてもよくわからない。適材適所という点でも、疑問符がつく。初入閣した自見英子氏は小児科医で、いじめ問題や子どもに関する問題をライフワークとして取り組んでいる議員の一人だが、岸田総理が就けたのは地方創成担当。自民党内からは早速「就けるならこども大臣だろう」という声が上がった。また、統一教会との関係が指摘されたことのある盛山正仁氏は、宗教を所管する文部科学大臣。謎が深まるばかりの内閣のようだ。

この新しい内閣について、野党からは早速手厳しいキャッチフレーズがつけられた。

立憲民主党の泉代表は、変えた人事にはインパクトがないと指摘し「薄味な内閣改造」。

同じく立憲民主党の岡田幹事長は「ワクワク感がない肩透かし内閣」。

日本維新の会の馬場代表は「総裁選対策内閣」と命名。派閥の順送りや、年齢、期数の重視もみられ、適材適所と評価できるレベルではないと評価。

共産党の小池書記局長は、マイナンバーカードのトラブルを担当していた河野デジタル大臣が留任したとして、国民の批判に耳をかさず、政策転換に背を向けた布陣だと指摘し、「聞く耳持たず突き進む内閣」と名付けた。

来年秋の総裁選挙で再選を目指す岸田総理。人事では、茂木幹事長、河野デジタル大臣、最大派閥の安倍派で出馬を虎視眈々と狙う西村経済産業大臣ら、ライバルとなる可能性のある人物を軒並み党役員か閣内に取り込み、動きを封じるとともに、各派閥に配慮したバランスにも苦心した。自民党関係者の一人からは、これで来年の総裁選は余程のことがない限り無風だという見方を示しつつ今回の人事について「岸田総理にとっての安心・安全内閣だな」と苦笑いしていた。

 

最大の謎


(外務省提供)

今回の人事で驚いたのが外務大臣の交代だ。総裁派閥である宏池会に所属し、ポスト岸田は林氏というのは周知の事実。岸田総理も林氏のことを憎からず思っていたはずである。インドネシアとインドの2か国歴訪から帰国するまでは、林続投説は有力だった。今年はG7議長国で国連安保理非常任理事国を務める日本の外交の顔を途中交代させるのは異例のこと。なぜ、外務大臣交代となったのかについて永田町で聞き込むと、様々な見方が浮上した。
「宏池会を林さんに託して守ってもらうため」「来年の総裁選に岸田総理がでられなくなった時に禅譲させるため」というのが表向きの理由。では本当のところ何があったのか・・・
自民議員や野党幹部はともに「男の嫉妬だろう」と吐き捨てた。得意な外交でポイントを稼ぎたい岸田総理、しかし有能な林氏が目立ち過ぎだと感じたのではないかという。岸田総理は第2次安倍政権下で4年7カ月の長きにわたり、外務大臣を務めた経験があり、安倍元総理が表舞台で活躍する中、縁の下の力持ちとして支え続けてきた。それがあるべき外務大臣の姿だと思っていたにもかかわらず、林氏は岸田総理より前に出過ぎだと感じる部分があったためではないかというのだ。また、後任に同じ宏池会の上川陽子氏を抜擢したことも、林氏への当てつけのように見えるというのだ。
一方で、「総理は林さんを変えるつもりはなかった。しかし、急に考えを変えたのはここ数日のことだろう」と指摘した。改造直前に林は、楽天の三木谷社長ら経済人を連れて、ウクライナを訪問していた。そのことと何か関係があるのだろうか。

禊は終わっていない


小渕優子氏の選挙対策委員長就任について「摩訶不思議な人事、森元総理に頼まれようが、絶対に選ばない」と冷笑しながら語ったのはある野党幹部。その言葉を裏付けるように、9月14日発売の週刊文春で早速、小渕氏の政治資金に関する記事が掲載された。小渕氏の関係する政治団体が2015年から7年間で1400万円以上を自身のファミリー企業に還流させていたという内容である。これについて14日、記者団に「法にまったく反することはない」と述べた上で、道義的責任についても「全くない」と強調した。2014年に表面化した政治資金規正法違反だが当時、記者会見も地元で開いただけで説明不足のまま9年が経過した。13日の党4役就任会見で過去の政治資金問題について問われた小渕氏は「あの時に起こったことは心に反省を持ち、忘れることのない傷として、歩みを進めたい」と声を震わせながら語ったが、禊が済んだととらえているのは本人だけかもしれない。
選挙の顔としての期待に疑問符が付いた小渕氏。岸田総理は、定例の記者会見がない選挙対策委員長に就けておけば安心と思ったのかもしれないが、現実はそう、甘くはない。

伝家の宝刀
人事が終わったとたん、永田町に解散風が吹き始めた。まだ微風ではあるが10月31日解散、11月26日投開票という具体的な日程も出回っている。
岸田総理は13日の記者会見で、ガソリンや物価高に対応するための経済対策を10月中に取りまとめた上で、補正予算案の編成を指示した。経済対策を掲げ、解散に打って出るのではというのだ。防衛増税や異次元の少子化対策には莫大な財源が必要で、増税は避けられない。低迷する内閣支持率が持ち直す芽もない。改造したばかりの内閣で11人の初入閣組の力量もわからない。ならば、失言やスキャンダルが出る前の新鮮さが残る段階で解散したほうが安全なのではないかという見方が出ているためだ。
懸案事項だった東京選挙区での自公協力問題も片が付き、与党の選挙準備はほぼ整ったが、野党は準備不足が否めない。勢いを増す日本維新の会も同様だ。今なら、そこそこの結果が出せるのではという甘い期待も相まってのことのようだが、果たして岸田総理は、解散という伝家の宝刀を抜けるのか。それとも、また、解散権をもてあそんで野党のみならず求心力を高めるために与党をも揺さぶるだけなのか・・・岸田総理の真意はどこにあるのか、解散を巡り、永田町はまた、岸田総理の一挙手一投足に翻弄されることになりそうだ。