「岡口裁判官、罷免は重すぎる」弾劾裁判で憲法学者が証言、表現活動の制約に懸念示す
仙台高裁の岡口基一裁判官(職務停止中)の弾劾裁判の第9回公判が9月13日、裁判官弾劾裁判所(裁判長:船田元議員=衆・自民=)であった。証人の山元一慶應大教授(憲法)は、行為と処分の重さが釣り合わず、「比例原則」に反するとして、岡口氏を罷免すべきではないなどと語った。
岡口氏は、殺人事件の遺族や裁判当事者を傷つけるネット投稿など、裁判官としての威信を著しく失う非行をしたとして訴追されている。弾劾裁判の結果、罷免されると少なくとも5年間は法曹資格を失い、弁護士などにもなれなくなる。
山元教授は、これまで罷免となった7人の裁判官のケースは、収賄や児童買春などの犯罪行為または社会的に重大な事案だったのに対し、岡口氏のケースは、犯罪にはあたらない表現行為であると指摘。「眉をひそめる人が多いことは理解するが、一般的な意味で信頼を損なうことと、法律上の構成要件に該当するかは別の問題」などと述べた。
また、過去の事例と異なり、最高裁が当事者となる裁判官(岡口氏)を訴追請求していないことから、最高裁は罷免にあたらないと判断している可能性がある点にも言及した。
裁判官の任期は10年だが、岡口氏は期限までに再任希望を出さず、来年で退官することが決まっている。山元教授は、その上でさらに法曹資格を奪うことには問題があるとの見解を示した。
また、業務から離れた私生活上の表現行為を理由に罷免したという実績が残ることで、裁判官の表現の自由が脅かされるとも強調。萎縮効果によって多様性が失われれば、裁判官が行使できる違憲審査権が十分に機能しなくなりうるとの懸念も示した。
●弾劾裁判の仕組みに提言も
弾劾裁判では、罷免と不罷免のどちらかの結論しかない。山元教授は「弾劾裁判には使い勝手が悪い側面もある」として、国会議員でもある裁判員に対して、たとえば裁判官資格だけを失わせる「免官」や、退職金は支払う「諭旨免官」を設けるなど、立法によって制度を変える余地はあるとも提案。
一方で、罷免の重さを念頭に、現行法のもとでは「『どちらかと言えば』でクロと判断するのはバランスがとれていない」と釘を刺した。
この日は、前回公判に続き、岡口氏側がスクリーンとプロジェクターを用意。山元教授の主尋問中、裁判員と傍聴席の双方に向けて、発言内容をまとめたスライドが表示された。証人尋問の前にあった証拠調べでは、訴追委員会側もこれらの機材を使って、証拠を投影した。
なお、この日の裁判員は第二代理裁判長でもある階猛裁判員(衆・立憲)が欠席し、13人だった。
次回期日は10月25日で、引き続き証人尋問が実施される予定。