インボイス対応しないフリーランスに取引先が消費税分の減額要求 公取委は問題視
2023年10月1日のインボイス制度開始まで1カ月になった。免税事業者が取り引きから排除される懸念があるインボイス制度だが、フリーランスの中には取引先から「免税事業者を続ける場合は、10%の消費税分を取り引き価格から引き下げる」と通告されるケースが出てきた。公正取引委員会は「企業側が一方的に取引価格の引き下げを通告することは、独占禁止法や下請法上、問題となる恐れがある」と注意を呼び掛けている。
●インボイス発行には課税事業者登録が要件
インボイス制度は2019年の軽減税率制度で消費税が10%と8%になり、正確な税額を把握するために導入される。
消費税は売り上げ分の消費税額から、仕入れや経費にかかる消費税額を引いて(仕入れ税額控除)、納める仕組みだ。
2023年10月から、仕入れ税額控除をするには、売る側が発行するインボイスが必須になる。インボイスを発行するには「課税事業者」として登録しなければならない。
インボイス制度で、取引から排除される恐れがあるのが免税事業者だ。年間売上高が1000万円以下の免税事業者は、消費税の納税義務が免除されている。新制度では免税事業者と取引する場合は、仕入れ税額控除ができなくなり、負担が大きくなる。
ただ、経過措置はある。免税事業者からの仕入れに限っては3年間は仕入れ税額の8割、その後の3年間は半分が控除される。
●10%引き下げ通告を受けたライター「理不尽な条件を突き付けられて残念」
こうした理由から今、免税事業者が実際に値下げを迫られるケースが出ている。
出版社などと取り引きするフリーランスのライターの女性は8月、取引先の1つから封書が送られてきた。書類には「免税事業者の場合、2023年10月1日以降の取り引きで発行する請求書は、原則として消費税を加算せずに請求してください」と書かれていた。
女性は「収入の多くを占める取引先なので、価格交渉をして取り引きを打ち切られないか心配です。そもそも消費税を納めていないので、10%減額は仕方のないことだと思っていました」と語る。
別のライターの女性も同様に、取引先の制作会社から、インボイス登録しない場合に消費税分の請求を控えるよう求められた。「直接の担当者に言っても、会社の方針は変えられないことを伝えられるだけだと思います。力関係を利用して一方的に理不尽な条件を突き付けられて残念です」とこぼす。
●公取委「経過措置があるのに、10%引き下げ通告は問題」
これらの事例は問題がないのか、公正取引委員会に聞いた。公取委の担当者は「事業者同士で協議をせずに、『うちは消費税分は払いません』などという一方的な通告は、独占禁止法や下請法上、違反につながる恐れがあります」と答えた。
「そもそも免税事業者からの課税仕入れは、仕入れ税額控除の経過措置があります。消費税相当額の10%を取引価格から引き下げると通告することは問題だと考えます」(担当者)
公取委は2023年5月、実際に独占禁止法違反の恐れがある複数の事例を確認したとして、 注意した業種を公開した。公開資料では、イラスト制作や人材派遣、農産物の加工製造販売事業者などを挙げている。
また、朝日新聞は8月26日配信の記事で、葉タバコの生産農家に一方的に取引価格の引き下げを通告したとして、日本たばこ産業(JT)が公取委から注意を受けていることが分かったと報じている。
公取委によると、零細事業者やフリーランスなど免税事業者からの相談は増えている。免税事業者を選択するとしても、一方的な取引価格の引き下げの通告には注意をする必要がある。公取委は「インボイスQ&A」で独禁法や下請法の考え方を示している。