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インターネット上で誹謗中傷を受けたなどとして、福岡市の男性が知人の投稿禁止をもとめた訴訟で、裁判所が、原告男性に関する投稿を「生涯禁止」とする判決を言い渡した――。読売新聞オンラインが4月19日にこのように報じている。

読売オンラインの記事は、今回の判決について「異例」だと指摘する。一方、インターネットの問題にくわしい清水陽平弁護士は「表現の自由に対する侵害の程度が大きい。控訴すれば判断が覆る可能性もあるのではないか」と話している。

●「異例判決」の報道

読売新聞オンラインによると、男性が知人を貶める内容の書面を自宅に送ったり、知人もまた男性を中傷する投稿を繰り返すなど、2人の間でトラブルが起きていたという。

知人が男性の迷惑行為について損害賠償をもとめて提訴する一方で、男性は反訴。男性の氏名や住所、電話番号などの個人情報のほか、中傷する内容をGoogleマップの口コミ欄などに投稿されたとして、訴えていたという。

4月14日の福岡地裁判決は、投稿が名誉毀損やプライバシー侵害にあたるとして、知人に対して、33万円の賠償のほか、「氏名、住所、電話番号、所属団体等の記載を含む男性に関する投稿をしてはならない」と命じたという。

この判断にあたっては「知人が今後も同旨の投稿をする蓋然性は高く、名誉やプライバシーが侵害されるおそれは継続している」と指摘したという。男性にも11万円の賠償が命じられたとしている。

将来にわたって、投稿差し止めを命じた判決を受けて、清水弁護士は「報道されているように『異例』と言えると思います」と指摘する。この判決をどのように考えるべきだろうか。

●【弁護士の見解】記事削除ではなく事前差止め…まさに表現の自由を制限するもの

--「男性に関する投稿を将来にわたって禁止する」という内容の判決は過去にありますか?

先例としては、東京地裁立川支部(令和3年3月24日)の仮処分決定があります。この決定は「反社会的勢力と関係を有している」という趣旨をインターネット上に投稿するなどの行為に限定しており、今回の判決はそれよりも広いといえます。

ただ、法律上いろいろと問題がありえるので、この判断がこのまま維持されるか疑問があります。そのため、実効性という意味でも問題があるところです。

まず、法律上の問題については、「男性に関する投稿をしてはならない」という内容なので、表現内容に規制をしていることになります。

表現規制には、表現内容を規制する場合(表現内容規制)と、表現の内容に関係ない場所や方法といった規制(表現内容中立規制)をする場合があるわけですが、表現内容規制はまさに表現の自由を制限するものであるため、その妥当性が厳しく問われることになります。

理論的には、表現内容規制にあたる将来の投稿禁止も認められる余地があるのですが、認められるとしても、必要性や相当性を十分に考慮する必要があります。

また、事後的な記事削除ではなく、事前差止めでもあり、表現を直接的に制限するという点で、表現の自由に対する侵害の程度が大きく、その観点からも認められるべきか否か検討されなければいけません。

読売新聞オンラインの記事でコメントをしている神田知宏弁護士のツイートによると、判決の主文は「原告Xは、Google及びLINE等のインターネットサービス上に、被告の氏名、住所、電話番号及び所属する団体等の記載を含む被告に関する投稿(中略)をしてはならない」というもののようです。

「被告に関する投稿(中略)をしてはならない」ということなので、被告に関することは、その内容がどのようなものであっても一切投稿できないことになります。これは明らかに広すぎるのではないかと思います。

--「生涯禁止」の判断が控訴審で覆る可能性は考えられるでしょうか?

控訴がされたとすれば、判断が覆る可能性は十分あるように思います。

●再び投稿が繰り返されると「紛争」が続いてしまうことに変わりはない

--実効性の観点からはどうでしょうか?

もし仮に違反したとしても、何らかの強制執行が想定できるものではないので、執行は困難だと思います。

そうすると、違反したということで、改めて別の訴訟を起こす必要があります。こちらの訴訟では、「被告に関する」ものであるかどうかを改めて争うことができるため、結局、同じような紛争が継続することになります。

したがって、この判決があったとして、紛争の抜本的解決ができることにはなりません。 もちろん、判決を受けて「それぞれ関わらないで生きよう」ということになるのであれば、解決になりますし、裁判官としてもそのように考えて、あえて判決を出している可能性もあると思います。

【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022年〜) の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ「しょせん他人事ですから 〜とある弁護士の本音の仕事〜」の法律監修を行っている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp