わが子の「人生初の受験」はどのタイミングが最適なのか。プロ家庭教師の西村則康さんは「親の負担が最も大きいのは小学校受験で、中学校受験はそれに比べ軽い。以前は専業主婦家庭が圧倒的でしたが、最近は共働き家庭が急送している。ほどよい距離感で子供の勉強に携わることが必要です」という――。
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■最適なのは小学校受験? 中学校受験? 高校受験?

わが子の“ファースト受験”は、高校受験でいいのか。それとも、小学校受験か中学受験に挑戦させるべきか──。

夫婦共に仕事をしている共働き家庭にとって、わが子をどのタイミングで受験させたらいいか選択するのは難しい。親の負担がもっとも軽いのは高校受験だが、“内申点”という不透明な評価に振り回されてしまう不安があり、中高一貫校に通う子供と比べて、大学受験に向けた準備にあまり時間がかけられない点が不利になるという見方もある。

一方、小学校受験は、親の負担度がもっとも重くのしかかる受験だ。なにせ相手はまだ5歳、6歳の子供。自分の意思で「受験をしたい」なんて言い出す子はまずいないだろうから、親の受験と言い切ってしまっていいだろう。親の負担度はほぼ10割。内容的にも中学受験や高校受験のように学力勝負ではないので、それ専門のお受験塾に通わせることが必須になる。

かつてはそういう塾は平日にしかレッスン日が設けられておらず、「共働き家庭に小学校受験は難しい」と言われていたが、今は共働き家庭向けに土日にレッスンを行うお受験塾も増えていて、対策はできなくはない。ただ、「ご縁です」という言葉に象徴される特殊な受験のため、親の情報収集力の高さと、小さな子供と根気強く付き合っていく覚悟が必要になる。

■受験に向かない子は「勉強が嫌い」「我慢が苦手」

近年、首都圏では中学受験人気が過熱している。2008年のリーマンショック後、一時期減少傾向が続いたが、大学入試制度改革の不安などから2016年を境に増加。2020年にはついに4万人の大台に(2月1日午前受験者数)。その後、コロナ禍でも増加が続き、直近の2023年は4万3000人(同)を超えた。

昔は中学受験といえば、母親と子供の二人三脚が主流だった。私が家庭教師として訪れる家も、ほぼ専業主婦の母親だった。ところが今は、共働き家庭の中学受験が非常に増えている。中学受験の勉強は小4から進学塾に通い、そこから3年間かけて準備をするのが一般的だ。晴れて合格した場合、私立中高一貫校に6年間通うことになるため、それまでの塾代と学費を合わせて相当のお金がかかる。これを父親一人だけの収入でやりくりするのは大きな負担になるが、母親の収入もあると家計に余裕が持てる。

また、今はコロナ禍でリモートワークが増え、家にいながら仕事と受験のサポートができるようになった。こうしたことから、共働きだから中学受験に不利になるということはほとんどない。やらせたいと思えば、挑戦させてみていい。

ただ、受験をするのは子供だ。子供にその気がなければ、進めていくのは難しい。低学年の子供を持つ親たちから「うちの子は中学受験向きですか? 高校受験向きですか?」という質問を受けることがしばしばある。中学受験に向かなければ、高校受験にしておく、という考えなのだろう。

結論から言ってしまうと、中学受験に向かない子は、高校受験でも苦労することになる。そうなると当然、大学受験も苦戦必至となるケースは少なくない。厳しい言い方だが、受験に必要な素地が育っていない子は、どの受験にも向かない。毎日学習する習慣を身につけた子、ちょっとした我慢をして勉強に取りかかれる子、新しいことを知ることに楽しみを感じられる子、そのような子はどの受験であっても乗り越えていける。つまり、小学校までの子供を親が家庭でどのように育てるかが重要なカギとなる。

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受験に向いている子は、本人の現時点での学力はさておき、「わかりたい」という気持ちが強い。また、極端に負担が大きすぎない限り、決められたことはコツコツとやる。それさえできれば、中学受験でも、高校受験でもどちらでもいい。

■塾のカリキュラムにうまく乗っていけるかが成功のカギ

中学受験をすると決めたら、塾のカリキュラムに沿って受験の準備をしていくのが一番賢いやり方だ。中学受験の入試内容は、小学校の授業で習う内容と大きくかけ離れているため、それを専門に教える進学塾に通わなければ、対策は難しい。塾のカリキュラムは、受験勉強がスタートする小4から受験生の小6まで、いつ何を勉強すればいいか明確に道順を教えてくれるので、モレなくムダなく受験勉強ができる。

共働き家庭にとって、塾のカリキュラムは頼りになる道しるべとなる。ただ、カリキュラムをこなしていくだけでは効果は見込めない。子供に寄り添える時間が短いことは、子供の自立を促すというメリットはあるが、寄り添い方の知識が大切になる。

受験勉強は、「塾の授業」→「復習」→「宿題」→「テスト」→「直し」→「定着」の順番で進めていく。最も重要なのは、「塾の授業」だ。これがうまく聞けていないと、家庭学習もうまくいかない。どんなに忙しくても、親は1日30分間子供と向き合う時間を作ってほしい。例えば塾のある日なら、帰って来てから「その日塾でどんなことを学んだか」聞いてみる。そのときに勉強のことだけではなく、塾のクラスの様子や先生の話し方、こぼれネタなども聞いてみよう。そうやって塾の授業のシーンを再現させることで、復習ができる。

宿題は、計算練習や漢字練習など子供だけで進められるものは、親が仕事に行っている間にやらせておくようにする。ただし、丸付けは親がした方がいい。子供に任せると、つい甘めに付けてしまうからだ。漢字のハネや点の置く場所など、入試で細かく採点する学校もあるので、きちんと書くことの大切さを伝えておかなければならない。

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算数の文章題など、じっくり考えて解く問題は、親はいるときにやらせた方が集中しやすいだろう。ただし、このときも親がぴったり横についている必要はない。質問されたら答えるくらいのスタンスでいい。学習内容に関わるよりも褒めるチャンスを虎視眈々と狙うような寄り添い方が効果的だ。

宿題はやったかどうかのチェックよりも、どういうやり方をしているかの点検をしてほしい。算数なら式がきちんとかけているかのチェックはもちろん、思考を整理するために条件を書き出すなど、ちゃんと手を動かして考えている形跡があるかも見ておく。

■共働きこそ、塾との良好な関係づくりが重要

進学塾では定期的に個人面談がある。小6では受験校の相談をできる数少ない機会、出席しない親はいないだろう。だが、小4くらいだと、まだ入試も先なので、仕事を理由に出席しない親もいる。しかし、小4こそ、個人面談には必ず出席してほしい。なぜなら、先にも伝えた通り、中学受験を成功させるカギは、塾のカリキュラムにうまく乗っていくことにかかっているからだ。

その際、塾での子供の様子を具体的に聞いてみよう。ポイントは「聞く」「書く」「考える」の3つの観点から質問してみることだ。

「うちの子は授業中、どんな聞き方をしていますか? 先生のほうをちゃんと見ていますか?」
「問題を解くときに、図や式を書きながらやっていますか?」
「考えているときはどんな様子ですか?」

といったように、子供の様子を細かく聞いてみる。そして、何か問題があるようなら、具体的な改善策を聞く。そうやって、塾の授業を効果的に聞くポイントを押さえておくことが実は一番重要だ。

西村則康・辻義夫『理系が得意になる子の育て方』(ウェッジ)

また、毎回お迎えには行けなくても、ときどき塾に顔を出すようにし、塾の先生と良好な関係を築いておくことをすすめる。そうすれば、何か困ったことがあったときに、相談しやすくなる。

中学受験は、小学校受験ほどの親の負担はないものの、すべてを子供に任せるにはまだ早すぎる。適度に関わり、適度に任せるというスタンスが、親にとっても子供にとってもいいのではないかと思う。子供が自走できるように手助けし続ける気持ちで寄り添っていただきたい。

「共働き家庭に中学受験は不利」は、もはや昔の話。基本的には、どのタイミングで受験をするかは、各家庭の価値観で判断していけばいい。大事なのは「わが子にとってのベストな受験はどれか」という視点で、選択していくことだ。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)