「傷つけようとしているわけじゃない」ウエストランド語った“毒舌漫才”への思い

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「自分がM-1の王者になるとは思ってもいなかったです。昔から知ってる人からも、『面白いから売れるとは思っていたけどM-1優勝する人生だったんだね』って言われたり、みんな驚いてるみたいです。あまりにも似合ってなさすぎるというか、違和感ありすぎるというか。

ただ、優勝しないと見えない景色や出れない番組だとか、そういうことを知れたので優勝してよかったなと思ってます」

こう語ったのは、お笑いコンビ・ウエストランドの井口浩之(39)。その隣では、河本太(38)も噛みしめるように頷いている。

昨年12月18日に放送された『M-1グランプリ2022』で優勝を果たして、第18代王者の栄冠を手にしたウエストランド。息つく暇もない多忙な日々に、嬉しい悲鳴をあげる。

井口「すでに僕は去年の9月から休みがないのですが、優勝するまでは1日1本とかだったので、寝れないとかご飯行けないはなかったんです。今はこういう状況なので誰にも会えないですね。芸人仲間もみんな忙しいのをわかってくれているので誘いは減りましたね」

2014年に結婚し、2人の子宝にも恵まれた河本。これまで家族から芸人を続けることに反対されたこともあるというが、さすがに優勝後は家族も安心しているかと思いきや……。

「さすがに喜んでくれてはいます。両親も優勝してからは応援してくれるようになりましたし、嫁の親御さんも“何も言わないよ”と言ってくださいました。

■河本「嫁は4月から仕事を再開します(笑)」

2020年に初めてM1の決勝に行った次の年はコンビでお仕事いただくこともあったんですけど、昨年のはじめごろから相方一人の稼働が増えてきて。まぁファイナリストになれてもそういう状況だったので、嫁もチャンピオンになってもちゃんとお仕事がくるか不安みたいで。今回の優勝でちゃんとお仕事できるようになれればいいんですけどね。嫁はまだ消えると思っているみたいで、4月から仕事再開するって言ってました(笑)」

“ポンコツキャラ”としてイジられることも多い河本。いっぽうで2021年に刊行したエッセイ集「朽木糞牆」に淡々とした筆致で書かれた自堕落なエピソードがM-1前から話題を集め、ランキング上位に入るなど文才に注目が集まっているが、本人は控えめだ。

河本「それも得意じゃないというか……。全然勉強とかもしてこなかったので。そういうところにもこれからは挑戦したいなと思ってますけど、能力がともなうかどうかということなので。1冊目は周りのお陰だったので、これから頑張って書いてみますがどうなるかはわからないですね」

『M-1』最終決戦では審査員7名中6名がウエストランドに票を投じ、圧勝したウエストランド。審査員を務めたダウンタウンの松本人志(59)は「窮屈な時代ですけど、キャラとテクニックがあれば毒舌漫才も受け入れられると夢を感じました」と讃えた。

しかし、あるなしクイズを軸にYouTuberやアイドルなど様々なものに噛み付く“毒舌漫才”に抵抗を覚える人もいたようで、放送終了後には賛否が巻き起こった。そうした批判に対して、どう感じているのだろうか。

井口「今すごく“悪口とかキツい”って言われるじゃないですか。でも、うちは事務所が麻痺していて何も言われないんですよ。“ウエストランドがM1で炎上”とか、あんなものうちの事務所からしたら炎上でもなんでもないですからね。ハッシュタグでテレビ出すなとか言われてる人が先輩にいるわけですから。爆笑問題のせいで感覚がおかしくなってるんです」

■井口「人って素晴らしいって説法みたいな漫才になるかも」

やはり、今後もこの“スタイル”を貫いていくかと思いきや、意外な答えが。

井口「いやいや、変える可能性は全然ありますよ。人を褒めるだけのすごく優しいネタになるかもしれないし。どうなるかはわからない。“人を傷つけない笑い”が流行れば流行るほど“そんなのいらねえよ”がウケるし、YouTuberがすごい人気になっているから文句を言えばウケるっていう世界なので。

“悪口言うのが最高なんだ”って世の中になったら、カウンター的に“人って素晴らしいんだよ”っていう説法みたいな漫才になるかもしれない。まずウケることが前提なので」

井口にとって漫才での“毒舌”は本心ではないのだろうか。

井口「まぁ言いたいっていうのはありますけどね(笑)。でも、傷つけようとして言ってるわけじゃないので。勘違いして“これから傷つけまくるぞ”ってことではなく、どれがウケそうかで言ってくだけです」

河本に井口の“毒舌”についての思いを聞くと。

河本「ネタには関与してないので。ただもらったものを読むというか。こなすという」

井口「それもできてない。できてる風になってますけど、それもできてない」

河本「M-1の決勝のネタができた時はこれ、マジで面白いな、今までと違うというか、今まで積み上げてきたものが一個上のところにいったなあと思いました。横で見てて、すごいおもしろかったです。」

井口「参加してくれよ!お前、歴代のチャンピオンで一番スキルがないよ!」

念願だったM-1優勝を果たし、毎日のようにテレビやラジオなどあらゆるメディアへの露出が続く井口と河本。しかし将来の展望について聞くと、いたって冷静どころか、危機感さえ抱いているようだ。

井口「もちろんテレビに出たくて芸人はじめたのでとにかくテレビには出たいですね。コンビで出れたらいいですけど、コンビじゃなきゃダメとかは1ミリもないです。ピュアな世界なんで。

M-1優勝は本当に手段ですから。M-1の影響力はめちゃめちゃありますけど、他の番組でもそうなれるように1個1個やって、見てくれた人が“いちばん”だって思ってもらえるように全部やっていくだけですから。そういう意味では変わらないです。M-1も他の番組も」

M-1最終決戦で放った「アナザーストーリーがウザい!泣きながらお母さんに電話するな!」というフレーズの背景にも、そうした危機感があるようだ。

井口「優勝したからってなにも安泰じゃないですからね。泣けない一番の理由はそこです。今は完全にバブルで呼んでいただいているだけなので、ここからだと思います。また落ち着いてから一歩一歩取り組まないと、ずっと優勝の効力が続くわけではないですし。結果出さなかったら意味ないんで。それは優勝した瞬間から思いましたね。正直泣いてる場合じゃないですから」

そんな2人に今後の夢について尋ねてみると――。

河本「僕はキャンプやるんで。これまでヒロシさんのキャンプ番組によく呼んでもらったので、やらせてもらえるなら自分のキャンプ番組にヒロシさんをゲストで呼んで恩返しがしたいなと思いますね」

すると、井口がすかさずツッコむ。

井口「ヒロシさんの番組に一緒に呼んでいただくんですけど、こいつがあまりにも喋れないので、僕とヒロシさんでキャンプのイベントやったりとか。ありがたいんですけど、なんで僕が行かなきゃいけないんだという。そこは頑張ってこれから変えていってもらって、ちゃんと話してもらいたいですよね」
河本「おしゃべり苦手なんで」

■井口「漫才をやるのは宿命」

いっぽうの井口は、大好きなサッカー関連の仕事に意欲を見せる。俳優業などこれまでにないジャンルのオファーがくる可能性について聞いてみると……。

井口「とんでもなくやりたいとかはないです。ご迷惑かけるだけですし、すごい怖いじゃないですか。でも、それに出ることでモテるような役なら出たいですよね。出ることで、“すげーいい奴だ”ってなるなら出たいです」

井口にとって、“モテ”は芸能活動の原動力のようだ

井口「それだけですよ。それのみでやってます」

――お相手は芸能人がいいですか?

井口「そうですね。そういう話題をお届けしたいですけど。悪口言ってたとかそういうのじゃなく、話題をお届けしたいです」

――熱愛の際はご連絡ください。

「なかなかないでしょ!自分で言う人。まーそうなるようにしたいですよね、、、」

最後に漫才についての思いを聞いてみると――。

井口「漫才は効率も悪いし、本当めんどくさいし、ダルいとはずっと言ってきたんです。とはいえ、爆笑問題さんがずっと新ネタやってるんで、やるしかないんすよ。宿命ですから。

多分、変なお笑いファンや何も知らない人が、こういうダルいとかめんどくさいとか効率悪いと言ってる部分だけ拾ったりするんでしょうけど、『誰よりもやってるから』という気持ちはあります。ほんとめんどくさいんですけど、でもやるしかないんで。タイタンライブもありますし、新ネタは作り続けるしかないですよね」

とはいえ、M-1優勝でホッとしている部分もあるようだ。

井口「優勝した全芸人が思ってることだと思いますが、M-1に出なくてよくなってよかったですね。ネタの勝負はもうしたくないですね。絶対負けるんで。あんなに勝てるの人生で一回だけだと思いますよ。一回もああいうの勝ったことないし、視聴者票とか客票になったら100%終わりなんで。もう勝ち逃げです」

一切油断する様子はなく、どこまでも地に足ついたウエストランドの2人。新時代の王者に、隙はなさそうだ――。