Zホールディングス、ヤフー、GYAOは1月16日、無料動画配信サービス「GYAO!」を3月31日に終了すると発表した(筆者撮影)

18年続いたGYAO!が2023年3月末をもって終焉を迎える一方で、スポーツ特化のDAZN(ダゾーン)は現在の月額料金より700円アップの3700円に値上げし、攻勢をかけます。悲報続きの動画配信サービスの中でいま何が起こっているのでしょうか。明暗が分かれた2つのサービスから必死の業界構造が見えてきます。

1番手から遠のいたGYAO!の終焉

インターネットに繋がったパソコンから見るしか手段がなかった動画配信サービス黎明期に始まったGYAO!終了の告知は、1つの時代が終わったようなそんな物悲しささえあります。GYAO!と言えば、地上波テレビ番組の無料見逃しサービスが売りです。アイドルグループ櫻坂46の冠番組「そこ曲がったら、櫻坂?」など、なかでもテレ東ローカル番組が充実しています。動画配信サービスの基本とも言えるアニメも韓流も揃え、一部有料で購入できる作品もあります。漫才日本一決定戦「M-1グランプリ」関連の独占コンテンツにも力を入れていました。

言うなれば「テレビがインターネット“でも”見られる」という概念でテレビの補完や延長線上のコンテンツが並ぶサービスとして発展してきたわけですが、この5年で動画配信サービスそのものの位置づけはガラッと変わりました。もはやレンタルビデオやテレビに取って代わるメディアとして認識されつつあります。

利用目的も細分化されつつあります。GYAO!と比較した視点でみると、見逃しならTVer、無料を使い倒したいならABEMA、価格重視ならAmazonプライム・ビデオ、独占配信コンテンツならNetflix、ブランド力ならDisney+などといった具合です。GYAO!は2005年から続く老舗というブランド力はあったかもしれませんが、どの切り口においても1番手から遠のいてしまっていました。月間ユニークブラウザ数はGYAOによると1280万(2022年4月)と、TVerのそれと比べると約半分です。終了へと追い込まれたのも無理はありません。

かたや値上げを発表したDAZNは動画配信の定額制サービスの勢力図の中で、Netflix、Amazon、Disney+のグローバル3強に続く、U-NEXTやHuluと並ぶ2番手グループに位置します。会員数は概算ですが、200万人ほどが見込まれます。サッカーJリーグが売りのスポーツに特化したコンテンツ群の割には健闘しています。とは言え、月額利用料金を3700円にまで値上げするとはなかなかの強気です。高額と見られる2530円のWOWOWや2189円のU-NEXTをも上回ります。しかも、1年前の料金と比べると約1.5倍の値上げです。料金がアップする2月14日から同時にライトユーザー層狙いの低価格プランを用意することも発表したことから考えるに、戦略的な勝負に出たようです。

外資系の参入で競争が激化

それにしても、1月12日のDAZN値上げ強行突破に、16日のGYAO!撤退告知と、この数日違いの両社の発表はユーザーにとって悲報が続いたという印象は残ります。そもそもなぜ明暗が分かれてしまったのか。そんな疑問も生まれます。

大前提として、動画配信サービスが乱立しすぎたことが挙げられます。世界各国で同じようなことが起こっていますが、日本の状況は極めて競争が激しいと言われています。その最たる理由に、外資系サービスの参入があります。2015年にNetflixとAmazonプライム・ビデオが、2016年にアメリカの投資会社アクセス・インダストリーズ傘下にある今回話題のDAZNが、2019年初頭にはDisney+と、外資系が続々と日本市場に参入しました。

NetflixとDisney+は各国に参入していますから当然の動きですが、それぞれ日本はアジアの国の中でいち早く受け入れています。DAZNにおいても欧米を中心に展開するなか、今のところアジアでは日本のみです。またAmazonプライム・ビデオは韓国では利用できません。そういう意味では日本は門戸が広いのです。

それによって市場規模は2017年から2020年にかけて約2倍にも成長していきました。一方で、この頃から淘汰が進んで国産サービスが打撃を受けるシナリオが見え始めていたのです。

国産と外資系に分かれた構図があると単純には言い切れませんが、戦略上で明らかな違いがあります。何より欧米発のサービスは軒並みデジタルファースト戦略です。強力な高額予算の独占配信コンテンツを揃えることによってグローバル規模で成長させていった経緯があります。それが競争力に打ち勝つ手段であると言われていました。DAZNもしかりです。

国産の場合はそれとは異なる戦略です。デジタルファーストではなく、コンテンツの2次利用の意味合いが大いにあります。地上波テレビの見逃しやアーカイブ作品は独占配信コンテンツよりも再生数を伸ばす傾向にありますから、これまで大胆に方針を変えることはなかったのです。回収の見込みが立てにくい投資よりもコストを抑えることに重きを置く日本らしさが表れてもいます。

値上げと打ち止めの2択ではない

GYAO!はもともとUSENが始めたサービスですが、2009年にヤフーが買収し、現在は韓国ネイバー社とソフトバンクグループの合弁会社Zホールディングス傘下の動画配信サービス事業の1つです。LINEも持つZホールディングスがグループ内の動画配信サービスを統廃合するなかで、GYAO!の撤退を決めたのは明らかです。縦型ショート動画サービス「LINE VOOM」に動画領域のグループ経営資源を集中させていくことを発表していることからも裏付けることができます。TikTokに対抗する縦型ショート動画で勝負をかけることを選んだというわけです。

今後、GYAOやDAZN のように他の動画配信サービスも合理的な判断を下すことは十分に考えられます。ただし、選択が値上げと打ち止めの2択に限ってしまうわけではないでしょう。ABEMAがサッカーW杯の独占配信権を取得して勝負に出たような策に踏み切ることもあり得ます。主戦場がテレビから配信に移りつつあるなか、スポーツコンテンツが利用者獲得のカギを握ると言われているところです。

また各国にも国産サービスがあまたあり、自国以外のコンテンツをラインナップに揃える傾向は高まっていますから、海外輸出で攻めるのも1つの手です。韓国では国産サービス発の独占配信オリジナルドラマも大量に作られています。韓国最大のEコマース企業が運営するクーパンプレイは悪女物語のドラマ「アンナ」でヒット作を作り出したことで、韓国国内の動画配信市場で一気に浮上しています。こうした強力作があれば海外展開によって回収もできます。

いずれもコンテンツへの投資が必要ですが、今回の明暗が分かれた動画配信サービスの状況を見る限り、勝負時にあることは間違いありません。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)