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小学生がなりたい職業として、上位にランク入りするYouTuber。大人でも楽しめる優良なYouTubeコンテンツが大幅に増えてきている。

数年前に比べれば、炎上や迷惑コンテンツは減っているように感じるが、中には刑事事件に発展するものも健在だ。その1つ、今年10月に大阪地裁で行われた、ライブ型の動画配信を行っていた被告人の迷惑行為に関する裁判をお届けする。(裁判ライター:普通)

●自身の裁判情報が気にならない?

被告人は30代の大柄な男性。釈放されていたので、法廷には拘束されずに自ら入る。すると法廷関係者が被告人を確認するなり、バタバタと動き出した。なにやら署名や押印を求めている。裁判所から本日の裁判の日程を郵送したものの、受け取られなかったとのことで、住所の確認や受け取りのサインをしているとのことだった。

裁判にかけられるとなれば一大事と思うのだが、その書類を受け取らないなんてことがあるだろうか。このあたりの無頓着さに、今後の裁判が不安に思える。少なくとも私はこの手続きを初めて目の当たりにした。

被告人はマンションの5階にある部屋の玄関ドアを傘や消火器などで殴打し、修復に7万円近くかかる損傷を与えた「器物損壊」の罪に問われている。5kgあった消火器は通路から外に放り投げ、1階のトタン屋根を突き破った状態で発見されたという。死亡事故に繋がっても全くおかしくない。この点でケガ人が出なかったのは何よりの幸いだ。

被告人は事件当時、動画配信者として視聴者からのいわゆる投げ銭で生活をしていた。そして事件当時、なんとこの器物損壊行為の様子も配信していたのだ。

●今後、似たような事例が増えるのか

では、被告人が単に配信で注目を集めるために今回の犯罪を行ったかというと、実は少し違う。

被告人は動画配信で収入を得る傍ら、生活保護を受給していた。しかし、動画配信の収入を申告していなかったことから、公営住宅を追い出されることになる。

すると視聴者から、部屋を借りてあげるからそこに住むといいと提案される。その部屋が今回の被害現場だ。被告人は荷物を移し、その部屋で2カ月ほど動画配信などを行いながら生活したという。

しかし、被告人はその家も追い出されることになる。その視聴者が家賃を払っていなかったのだ。このドタバタ感は、まさに動画コンテンツらしさではあるのだが、被告人としてはこの一連の流れに立腹して犯行に及ぶことになったという。

●「消火器は建物の間に投げたから大丈夫」

最終的に被告人が犯行に至った経緯については、被告人質問の様子から紹介する。

弁護人「視聴者から提供された家ですが、住み始めてからどうなりました?」
被告人「2ヶ月で家賃滞納が発覚して、出ていくように言われました」

弁護人「その視聴者には連絡を取ったのですか?」
被告人「急に連絡が取れなくなりました」

弁護人「その後また引っ越しをするわけですが、そのとき何かありましたか?」
被告人「パソコンがなくなりました」

弁護人「それは何故ですか?」
被告人「視聴者に盗まれたのか、大家に盗まれたのか、理由はわかりません」

弁護人「警察や大家に連絡したのですか?」
被告人「警察には契約者でないと防犯カメラは見せられないと言われ、大家にはそんなのは知らないと言われ、喧嘩になりました」

弁護人「その後、パソコンはどうなりましたか?」
被告人「僕がキレたからか、元に戻されていました」

犯罪行為に一定の言い分があるとを証明したいのだと思うが、他人が契約した家で好き勝手やっているとしか思えず、感情の移入には至らない。

弁護人「事件当日の話を聞かせてください」
被告人「もう新しい部屋は決まっていたので、荷物を自身で移動していたのですが、その日はカギがかかっていました」

弁護人「動画配信をしていた理由はなんですか?」
被告人「前日までも荷物を運んでいる様子を配信していたからです」

弁護人「では、普段通りに行っていたわけで、暴れる様を撮影するためでないですね」
被告人「はい、違います」

荷物搬出の様子にどれだけ動画の需要があるかはわからないが、それをわざわざ配信するほど一定の人気があったのだろうか。傍聴席にいた、明らかに傍聴慣れしていない若い方は視聴者だったのだろうか。

動画配信のために暴力行為を行ったわけでないという主張はわかったが、当然ながら肝心の損壊行為が認められるはずがない。

弁護人「ドアを壊している最中というのはどういう感情だったのですか?」
被告人「怒りの感情です」

弁護人「ドアを壊している最中、誰か住人に出会っていたら危害を加えようと思っていましたか?」
被告人「いいえ、それはありません」

弁護人「消火器を投げたとき、下に人がいるとは思いませんでしたか?」
被告人「思いませんでした。建物の間に投げたので」

怒りに任せての行動であったが冷静な面も持ち合わせていたという主張だが、なら何故ドアを壊すという行為は止められなかったのかという疑問は残る。むしろ、消火器を人に当たらないように配慮しつつも、投げるという衝撃的なことを行っている時点で動画映えを考えていたのではと思ってしまうのは邪推だろうか。

●怒りやすい人はどうしたらいいか

検察官からの質問は冒頭から核心に迫っていた。

検察官「で、結局どうしようと思ってたの?」
被告人「どうしようとは?」

検察官「そんなことしてもドアは開かないですよね?」
被告人「気持ちが高ぶって、そうすることしか…」

検察官「なんでカギが閉まってるの?というのはわかりますけど、ドアを叩く必要あります?」
被告人「ドアが閉まることを教えてくれなかったりしたことへの怒りがあって」

検察官「マンションの人からしたら、契約者でもないのに知らんがなとなりません?」
被告人「そうだと思います」

検察官「ドアを叩くのと関係ありますか」
被告人「いえ、関係ありません」

検察官の指摘の通り、実際にトラブルはあったのだろうが、それと起こした行動がリンクしていないので、共感するというのは難しい。とは言っても、感情が激昂しやすいタイプもいることも事実。ただ、事象と関係ないから止めろというのも、別の鬱憤をため込むだけに思える。

検察官「アンガーマネジメントって知ってますか?」
被告人「いえ、はじめて聞きました」

検察官「怒りやすい人がどう対処するかってものなので、病院の人などにも相談してみてください」
被告人「はい、わかりました」

検察官「動画配信はまだやっているんですか?」
被告人「いえ、今はやっていません」

検察官「別にやるなとは言ってませんが、やるならちゃんと申告するものはしてくださいね」
被告人「はい、わかりました」

裁判官は、何の解決にもならない短絡的な犯行に酌むべき事情はなしとしながら、初犯であることなどを考慮し、懲役十月、執行猶予三年の判決を下した。

私も細々とコンテンツの発信を行っているが、誰かが見てくれていると思うと継続のモチベーションに繋がる。今回の被告人も、アンガーマネジメントで培った知見を、自身が慣れ親しんだ動画コンテンツにすることで意欲が継続しないものかと、ふと思った。

【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にYouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。