JR平井駅から徒歩0分! ラーメン官僚が絶賛する新店『駅ラーメン深だし中華そば』のウマさの秘密に迫る
食楽web
今回は、駅舎の一角にオープンした珍しいラーメン店をご紹介したいと思います。それが2022年9月10日に誕生した『駅ラーメン深だし中華そば』。ロケーションは、JR総武線・平井駅の駅舎の階段(北口)を下り切った地点から約12m。
駅舎の一角に開業したお店なので、降りる出口を南口と間違えない限りは、道に迷う心配はありません。ただし、「灯台下暗し」の喩えのとおり、あまりにも駅から近すぎて、一瞬、見落としてしまいそうになるかも知れませんが…。
さて、こちらの『深だし中華そば』は、東京ラーメン界のレジェンドの一人・小宮一哲氏が手掛けるお店。小宮氏は2005年、東京・千駄木に『つけめんTETSU』を創業。その後、『TETSU』を全国各地へ展開するとともに、『江戸前煮干中華そばきみはん』、『伊蔵八』、『ナポレオン軒』など、数多くのラーメン店をプロデュースしてきた、ラーメン職人としても経営者としても一流の才覚をお持ちの方です。
『深だし中華そば』の外観。使用する色は、素材の絵も含め、白、黒、茶の3色のみ(立て看板には「赤」が使われていますが)。見る者に必要以上の威圧感を与えないファザード
そんな小宮氏から、この『深だし中華そば』の店舗を任されているのが、秋山徹也店長。小宮氏と共に10年以上にわたって一緒にラーメンづくりに励んできた戦友的存在です。
『深だし中華そば』のスープには、煮干しをはじめ、数種類の魚介素材を用いています。魚介出汁は緻密な温度・時間管理やこまめな味見が必要で、調理工程が複雑。そこで、小宮氏と長年行動を共にし、彼の作り方を熟知している小宮氏の腹心・秋山店長に店を任せたのだそうです。
さて、そんなお店が、ラーメン好きからの注目を浴びないはずがありませんよね。駅から徒歩0分という超好立地であることや、営業終了時間が22時45分までと比較的遅めであることも、食べる側にとってはありがたい限りです。
派手過ぎず、かと言って地味過ぎない。日頃あまりラーメンを食べない客層の取り込みを強く意識した、絶妙なラインを捉えた外観と内観
私も某日、別の用務が終わり、他の店舗へと立ち寄った後に『深だし中華そば』を訪問。時刻はすでに21時を回ろうとしていましたが、しっかり営業中でした。ここ最近、昼間のみで営業を終えてしまうラーメン店が劇的に増え、それが当たり前にすらなりつつある中で、営業時間が長いことは、率直に言って非常に有利。これは特筆に値する要素だと思います。
訪問時、店内には先客が3名。皆、一心不乱に麺を啜っていました。
目指したのはお手頃感と上質な味の両立! 『深だし中華そば』の珠玉の1杯とは?
券売機。一列目の右端にある「深だしかけ中華そば」はなんと590円
現在(9月26日現在)、同店が提供するのは、屋号をそのまま冠した「深だし中華そば」と、そのバリエーション。券売機をよく観察すると、一列目の右端に「深だしかけ中華そば」のボタンがあります。これは、麺とスープに薬味ネギのみを添えた一杯なのですが、トッピングを最小限にまで抑え込んだメニューとはいえ、これが590円で提供されていることに驚きました。
ラーメンの価格は、昨今の原材料費の高騰に、コロナ禍による客足の減少が加わり、2022年現在、特に都内においては、最もシンプルな基本のラーメンでさえ千円前後の値が付くのが当たり前。そんな中、わずか500円台で「かけ中華そば」が提供され、チャーシュー等がのった「深だし中華そば」も660円という低価は衝撃的です。
小宮氏によれば、今回、新たに「深だし中華そば」を開発する時に最も重視したのは、コストをかけずに上質な味を出すことだったそう。
「今のようなご時世でラーメンのクオリティを維持するには、基本、値上げするしかありません。しかし、ラーメンが日本の国民食の地位を獲得したのは、財布に優しいお手頃感があったからだと思うんです。私自身、子供の頃から自分の小遣いでラーメンを食べられたし、その結果、ラーメンに触れる機会が増えてラーメン職人という天職に巡り会えました。味だけでなく文化を継承していくことも、ラーメン職人の責務だと思うんですよね」(小宮氏)
その言葉どおり、590円や660円は、作り手の自負や矜持が伝わってくる、挑戦的な価格設定と言えます。
低価格と侮るなかれ! 煮干しの旨みが凝縮した「深だし中華そば」
「深だし中華そば」660円
「かけ中華そば」にも激しく興味がそそられましたが、初訪問だったこともあり、基本メニューである「深だし中華そば」をオーダー。
「一般的に、濃厚煮干しラーメンと言えば、パツンとした食感の中細ストレート麺を合わせたものが多いのですが、この店の中華そばは、あえてテンプレは選ばないようにしました」と小宮氏。
小宮氏には、これまでも何度か別の店についてお話を伺ったことがありますが、同氏のラーメン創作の原動力は、「自分が食べたいと感じたラーメンを作る」ということ。今回の「深だし中華そば」も例外ではありません。同氏の、煮干しベースの濃厚魚介スープでモチモチの太麺をすすりたいという想いがカタチとして具現化したものなのです。
待つこと数分。注文の1杯が完成。提供された瞬間から、スープの表面からふわりと立ち上がり、鼻腔を心地良くくすぐる華やかな香り。口をつける前から、魚介や椎茸のエキスがスープに凝縮されていることが、肌身で実感できます。
煮干しの旨みが身体に染み渡る優しくも力強いスープ
スープをひと口すすれば、舌上でビッグバンのように炸裂する、煮干しの上質な滋味と昆布の端整なうま味。食べ進めるにつれて、それらに節の厳かな和風味と、椎茸の麗しき風味が加わり、思わず頬が落ちそうになりました。
スープ素材。数種類の煮干しを軸に様々な食材を掛け合わせて作られている
スープを開発するにあたっては、特に、煮干し特有の苦みやエグみを取り除くことに腐心したそう。素材として用いる煮干しの目利きから、煮込む温度や時間に至るまで、ノウハウを確立するのにかなりの労力を注ぎ込んだとのこと。完成したスープは、確かにそんな試行錯誤の日々が光景として脳裏に浮かんでくるような、会心の出来映えです。
また、狭い店舗でゼロからスープを仕込んでいるため、動物系素材の炊き上げに圧力鍋を使っているのも特徴です。
「深く、濃く、それでいて苦みを出さないよう、あらかじめ設定した温度で、丁寧に炊き上げています」と小宮氏。
結果、鶏系素材(モミジ・鶏ガラ)に、主役である魚介素材を土台として支える役割を演じさせることに成功。レンゲを持つ手が止められない、安定盤石の味わいです。
スープにも負けない食べ応えのある麺が食欲を加速させる
このスープに合わせるのは、粉が詰まった太麺。深く出汁を引いた濃密なスープに競り負けることがないよう、コシとハリのあるモッチリとした食感の麺を製麺所から取り寄せているそうです。
噛み切ろうとすると、しなやかなバネのように歯を押し返す、弾力性に富んだ逸品。食べ応えも満点で、食べながら思わず「この1杯の価格って、660円なんだよな?」と、メニューリストを再確認してしまったほどです。
スープや麺の味を殺さないように適度な脂の乗り具合に仕上げられているチャーシュー
このスープと麺に合わせるトッピングにも手抜かりはありません。例えば、しっかりと脂を残しつつ、温度と時間を徹底的に管理しながら低温調理で仕上げたチャーシュー。これは、スープの油分を補うためにバラ肉を用いるなど、1杯のラーメンとしてのトータルバランスが考え抜かれたもの。
ちなみに、このコラムを執筆している9月段階では未発売ですが、10月下旬を目途に、たっぷりなスープでラーメンを食べたい人のために、プラス100円で「伸ばす」と呼ばれるスープ増量サービスを始めるというのも、見逃せないポイントです。
「単純に水で薄めてしまうと、スープの味の深みが減殺されてしまうので、鶏肉で出汁を採ったスープを加え、コクと甘みの増幅を狙っていきたいと考えています」(小宮氏)
この“伸ばす”サービスをお願いすれば、スープの乗りがより良くなるよう、麺が柔らかめに茹で上げられる点も、特記事項です。「これはぜひ、また食べに来なければ!」。そう固く決意しながら、お店を後にした次第です。
秋山 徹也店長のプロフィール
・東京ラーメン界のレジェンドの一人である小宮一哲氏と共に10年以上にわたりラーメンづくりに携わってきた、小宮氏の腹心。
・『深だし中華そば』の「中華そば」のスープは、炊き上げる温度や時間、品質の管理に高い経験値が要求されるため、信頼できる腹心である秋山氏を店長に任命し、お店を任せている。
●SHOP INFO
店名:駅ラーメン深だし中華そば
住:東京都江戸川区平井3-30-35
TEL:03-6657-0030
営:11:15~14:30、17:30~23:00
休:なし
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。