幻覚物質DMT含む「お茶」の販売で有罪判決、被告人側「麻薬の範囲が広がった」と批判
「麻薬」として規制されている幻覚物質を含むお茶を販売するなどして、麻薬取締法違反(製造の幇助、原材料提供、施用等)の罪に問われた男性に対し、京都地裁(安永武央裁判長)は9月26日、懲役3年、執行猶予5年(求刑4年)の有罪判決を言い渡した。
約50分にわたる判決文の読み上げの後、男性は記者会見を開き、「あまりに雑な判決だが、高裁で闘えということだとポジティブにとらえている」と控訴する方針を示した。裁判所では傍聴希望者が列をなし、法廷は満席となった。
●DMTを含む植物を湯に入れたお茶は「麻薬」なのか?
男性は「青井硝子(あおいがらす)」の名でウェブサイト「薬草協会」を運営し、幻覚物質「DMT(ジメチルトリプタミン)」を含むお茶を販売するなどしていた。
DMTは幻覚作用があり、麻薬取締法で規制されている。しかし、DMTが含まれるものは他にもあり、たとえばオレンジにも微量に含まれることもあるという。
今回の裁判で問題となったお茶は、アカシアコンフサ(アカシアの一種)などのDMTを含む植物をお湯に入れて作るもの。
これらのDMTを含む植物自体は「麻薬」にあたるとはされていないため、裁判では、これらの植物を湯に入れて作ったお茶が「麻薬」にあたるか否かが争われていた。
京都地裁は、お茶は「麻薬」にあたるとし、その理由として「保健衛生上の危害を生じるおそれ」があることをあげた。
一方、沖縄で使われているアカシアコンフサの染料にもDMTが含まれているが、これについては「薬理効果を得たり、保健衛生上の危害のおそれが生じるわけではない」とし、「麻薬」にはあたらないとした。
また、量刑の理由として、青井さんが自ら製造をおこない、長年にわたって販売していたことは「悪質」であるとしつつ、今回問題とされたお茶が「麻薬」にあたるか否かの司法判断が今までなされてこなかったことにも言及。今回の事件は「典型的な薬物犯罪とは一線を画するもの」とし、執行猶予を付したと述べた。
●希死念慮に苦しむ大学生もお茶を飲んでいた
判決を受けて、弁護人の喜久山大貴弁護士は「麻薬に対する司法判断としては、例を見ない」とし、次のように批判した。
「今回の判決は、DMTが少しでも溶け出していれば『麻薬』という意味だと思われる。そうであるならば、オレンジジュースも麻薬にあたりうるということになる。今回の判決で『麻薬』の範囲が広がったといえるのではないか。一律に『麻薬』とされているものであっても、『保健衛生上の危害を生じるおそれがあるか否か』という主観的・外形的な部分で判断することは問題だ」
海外では、アカシアコンフサなどのDMTを含む植物は、宗教儀礼に用いられることがあるほか、うつ病などの精神疾患の治療薬として使われることもあるという。
実際に、青井さんのもとで、不安障害とうつ病により、希死念慮に苦しんでいた未成年の大学生がお茶を購入し、飲んでいた。この大学生は当時未成年だったため、家庭裁判所で不処分とされている。
会見に参加した蛭川立さん(国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部客員研究員)は「欧米では治験が進んでいる中で、日本では治療を必要としている人が飲むことで、逮捕されている。日本は世界の趨勢(すうせい)から取り残されている」と問題視した。