上司を非難するメールを送ったら降格処分、高裁は「無効」判断 業務による精神疾患を考慮
埼玉県川口市の会社で働いていた女性が、上司を「人間的に最低です」と非難するメールなどが理由で受けた降格処分は無効だとして、差額の賃金などを求めた訴訟の控訴審判決が9月22日、東京高裁であった。高橋譲裁判長は、降格処分は有効としたさいたま地裁判決を変更し、処分の無効を認め、会社側に差額の賃金など計252万円の支払いを命じた。
女性は上司とのトラブルで抑うつ状態となっており、判決で会社の安全配慮義務違反も認められている。代理人弁護士は「安全配慮義務違反に基づく精神疾患中の行動について、会社は慎重に判断しなければいけないという判断が出された」と評価した。
判決後、会見を開いた原告の河野博子さん(59)は「加害者がぬくぬく会社で守られて、被害者がわずかな金銭和解でつらい思いをする状況をなんとかしたいと思い、今まで頑張ってきた。どうか労働環境がよくなることを願っています」と話した。
●部長が業務を丸投げ
判決によると、河野さんは2013年12月に物流代行サービスなどを提供する会社に正社員として入社。2015年には優秀社員表彰を受け、春から次長職についた。しかし、部長が業務を丸投げして出勤しない状況が続き、部長や専務に業務改善や指示をするようお願いしたが、状況は変わらなかった。こうしたトラブルから、仕事量は増え、精神的にもストレスを感じ始めた。
会社は2016年7月、河野さんを次長職から解き、減給の懲戒処分をおこなった。上司に「クレーム処理の時だけ人任せにするのは、人間的に最低です」などと抗議するメールを社内外に送ったことなど10の理由が挙げられた。これに対し、原告側は「業務が原因で精神疾患を発病しており、降格処分の相当性の判断においても考慮されるべき」と主張していた。
高橋裁判長は、河野さんが2015年12月ごろには業務が原因で抑うつ反応を発病しており、処分理由となった出来事はいずれも発病後で、部長や専務の対応の不備が原因で引き起こされたと認定した。
その上で、部長や専務が、河野さんの心身の異常やその原因となる事情について、認識・認識しうる状況にあったことはやりとりから明らかで、「降格処分は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」として無効を言い渡した。
代理人の指宿昭一弁護士は「こうした事案は今まで裁判になりにくかったのではないか。安易に状況だけ見て懲戒処分することは控えるべきというメッセージを発する判決」と評価した。