インフラシェアリングを進めるJTOWERが、東京・西新宿エリアに設置する「スマートポール」。5G基地局や非常用電源、セキュリティカメラ、サイネージなどが統合されている

KDDIの大規模障害を受けて、「緊急時ローミング」の検討が始まっているそうだ。つまり、一社のネットワークに不具合が発生して通信ができなくなっても、他のキャリアのネットワークを使って通信ができるようにしておこうというわけだ。

○災害時に他社ネットワークを借りられるのか

「ローミング」というキーワードは海外ローミングで知られているように、別の会社のネットワークに乗り入れる仕組みだ。たとえば、日本の電話会社は海外のネットワークを持たないが、各国のキャリアと契約して、その国で通信の利用を可能にする。また、楽天モバイルは、事業のスタートに伴い、整備が十分ではないエリアについてはKDDIのネットワークを借りていた。これもローミングだ。

SIMの装着されていない端末でも、110番や119番などの緊急通報だけはできるようにするといった手段など、とにかく、特定事業者の通信が止まって人命に関わるようなことが起こらないように他事業者がバックアップする方向から議論が始まっている。これは災害時などにも役にたつはずだ。

とはいえ、キャリアが別のキャリアのネットワークを借りるということ自体に問題はないのだろうか。障害が一社で完結しているならいいが、災害時などは、全キャリアが障害を起こし、モバイルネットワークが全滅してまったく機能しないということも想定しなければならない。

○携帯通信を使うために携帯通信が必要

先日、eSIMを別の端末に移動しようとして四苦八苦した。久しぶりにやったのだが、手順の中で2段階認証なども行われモバイルネットワークのスタートそのものが強くモバイルネットワークに依存している。これでは何らかの復旧作業に支障を起こす可能性も出てくるだろう。

目の前にパソコンがあるのにそれが使えず、スマホとにらめっこという場面も多い。たとえばパソコンのブラウザを使い、契約しているキャリアで、特定サービスを解約しようとしたら、パスワードレス設定がなければそれができないということも経験した。

スマホでログインすることで、ブラウザでのパスワード入力をしないでサービス利用ができるという設定だ。これまた手元に正常に使えるスマホがなければニッチもサッチもいかない。パソコンに装着しているSIMだったらいったいどうしろというのだろう。

2段階認証などの際には、Wi-Fiを切断してモバイルネットワークでキャリアのネットワークに直結する必要がある。つまり、キャリアのネットワークが全滅の場合、できなくなることがものすごく多く発生するのだ。本当にそれでいいのかどうかが疑問だ。

インターネットは、ネットワークのネットワークだ。特定のネットワークに何らかの障害が発生したとしても、うまくそれを迂回し、ネットワーク全体のつじつまを合わせるように機能させることができる。これが先人の創意工夫だ。

ところがモバイルネットワークは、そのインターネットの仕組みを信じていない。インターネットを不正の温床とみなし、そこを遮断することで、本人確認認証などの手段にしているようにも見える。

○法的・技術的な課題はあるが、議論を進めてほしい

本当は、モバイルネットワークに障害が起これば、別のネットワークを使って同じことができるようになっているべきだろう。公衆Wi-Fiを使うなり、自宅などの固定インターネットを使うなり、代替できそうなネットワークはたくさんある。

もちろん、それらも総崩れになってしまうような大規模災害では手も足も出ないかもしれないが、何らかの方法でインターネットを使える限りは、手元のスマホでいつもと同じことができるようにしておくことが大事だと思う。さまざまな事象をモバイルネットワークだけに閉じて完結しようというのは、やっぱり無理がある。

ちなみに、楽天モバイルでは、Rakuten Linkアプリが提供されていて、データ通信を使った音声通話ができる。キャリアの公式サービスでRCSの仕組みを使っているようだ。また、米国のT-Mobileのように10年以上前からWi-Fi Callingなどの仕組みを提供しているキャリアもある。つまり、そのモバイルネットワーク圏外だとしても、装着されているSIMと関連付けられた通信サービスがインターネット経由で受けられるのだ。

法的にも技術的にも難題が山積みだ。でも、いつでもどこでも通信ができる環境が得られるようにまっとうな議論を進めてほしい。そのためにも、移動体通信事業者だけにその難関を押しつけるべきではないと思う。そして、それ以前に、こうした大事な議論をキャリア4社だけで進めるべきではない。

著者 : 山田祥平 やまだしょうへい パソコン黎明期からフリーランスライターとしてスマートライフ関連の記事を各紙誌に寄稿。ハードウェア、ソフトウェア、インターネット、クラウドサービスからモバイル、オーディオ、ガジェットにいたるまで、スマートな暮らしを提案しつつ、新しい当たり前を追求し続けている。インプレス刊の「できるインターネット」、「できるOutlook」などの著者。■個人ブログ:山田祥平の No Smart, No Life この著者の記事一覧はこちら