ダメだとわかっていても、ついやってしまう株の「ナンピン買い」。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「私自身、何度も損しましたが、その結果、ナンピン買いで失敗しない、ある方法を見つけ出しました」という――。
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■上場以来、株価が下がり続ける「雪国まいたけ」

保有銘柄がズルズルと値下がりを続け、含み損が広がっていく中、スパッと売ってしまうことは一つの選択肢です。しかし、売ってしまうと、損失が確定してしまうこともあって、心理的にはなかなか売れないものです。

かといって、そのまま持ち続けていても、多くの場合、状況は変わりません。そんなとき、「買い増し」の誘惑に駆られたことのある人は多いのではないでしょうか?

2020年9月、初値2100円で上場した「雪国まいたけ」ですが、そこから株価は右肩下がり。私は1年ほど前、この銘柄を1600円台で買いました。しかし、そこからほとんど見せ場もなく下がり続け、現在は900円台で推移しており、含み損が絶賛拡大中です。

■「毒キノコをつかんでしまった」投資家

雪国まいたけは、社名のとおり、まいたけを中心としたキノコの栽培、およびその加工食品等を製造・販売する企業でして、知名度は高く、個人投資家からの注目度も高い銘柄です。それだけに、下がり続ける株価へのいら立ちか、ネット上では「毒キノコをつかんでしまった」だの「含み損で、優待のキノコは数万円」だの言われたい放題。

私も、それらの書き込みにちょっと共感しつつも、株主優待と配当金をご褒美に、じっと耐えしのぐ日々でした。

そんな我慢の日々が続く中、断続的に駆られた誘惑が「買い増し」、いわゆる「ナンピン買い」でした。

■下手のナンピン、素寒貧

ナンピン買いとは、保有銘柄が値下がりしているときに、より低い価格で買い増していくことです。これによって平均購入単価が下がるので、「難(損失のこと)」を「平らに」するということで、「難平(ナンピン)」といわれます。

平均購入単価が下がれば、株価の回復時には、より早く含み損を解消することができます。ナンピン買いをしなければ、株価が回復しても、当初の買値まで戻らなければ含み損は解消しないわけですから、これはとても魅力的なことです。

しかし、ナンピン買いには注意が必要です。

なぜなら、ナンピン買いをしても(平均購入単価を下げても)、株価が回復しなければ意味がないからです。

実際、買い増しをしてもズルズル値下がりを続け、ますます含み損が広がり(平均購入単価が下がっても、含み損の金額自体は増えていく)、資金が枯渇してしまうケースも多く、「下手のナンピン、素寒貧(すかんぴん)」との投資格言もあるくらいです。

私も過去、ナンピン買いで「素寒貧」になっております。

■優待銘柄のナンピンで約80万円の損失

ナンピン買いでの失敗は数多くありますが、中でも酷かったのは、「タスコシステム」と「ヴィア・ホールディングス」です。

タスコシステムは、かつて「北前そば高田屋」などを運営していた外食企業ですが、すでに破綻。

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株主優待が素晴らしく魅力的で、値下がりを続ける株価にも、「これだけ株価が下がれば、皆、優待目当てで買うはずだ」との独り善がりの思い込みでナンピン買いを続けているうちに上場廃止、50万円近くの損失。もう10年以上も前のことですが、優待と株価しか見えていなかった、若気の至りの投資でした。

ヴィア・ホールディングスは、「備長扇屋」などを運営する外食企業でして、こちらは破綻していませんが、現在、株価は140〜150円程度と低迷中。

数年前に、私はこの銘柄を800円台で買うも、そこからズルズル値下がりを続ける中、値ごろ感と、保有株数に応じてアップする優待を目的にナンピン買いを継続。その後、大幅な優待改悪(金券優待から割引優待に変更)があったので売りましたが、30万円程度の損失となりました。

■株価がズルズル下がり続けるには理由がある

もっとも、これら失敗は結果論であって、状況によっては、奇跡の株価急騰によって、ナンピン買いで大成功していたかもしれません。

ただ、ズルズルと下がり続けるような銘柄が、急上昇に転ずる可能性は低いというのが私の実感です。

そのような銘柄は、業績低迷や財務状況逼迫(ひっぱく)、事業内容に構造的な問題を抱えているなど、ズルズル下がり続ける何らかの理由があるもので、それを値ごろ感だけで買い増すのは非常に危険なのです。実際、私はタスコやヴィア以外にもナンピン買いの経験は多数ありますが、事態は好転せず、そのままズルズルと傷口を広げただけで終わったケースがほとんどでした。

なので今回、値下がりを続ける雪国まいたけにナンピン買いの衝動には駆られるわけですが、そんな過去の失敗を教訓に、ナンピン買いは発動しておりません。

もちろん、ナンピン買いで大成功した人はいるでしょう。

我慢して買い増しを続ける中、株価が急上昇に転じ、含み損解消からの大もうけのサクセスストーリーも珍しくはありません。

ただ、事前にそのナンピン買いが成功するか否かを見極めるのは至難の業で(それができれば苦労しない)、ナンピン買いの成功・失敗は結果論と言ってもよいでしょう。もっとも私は、(前述のように個人的な経験から)失敗の可能性が高いと思っているので、ナンピン買いは基本的にはオススメしておりません。

あと、ナンピン買いを続ければ、「一銘柄に資金が集中」することから、確実にリスクは高まります。

■ナンピン買いが“オススメ”できるケースとは?

値下がり時には、意地になってナンピン買いを続けることも多く、知らず知らずのうちに大きなリスクを抱えてしまう可能性は低くありません。投資において、想定外のリスクを抱えることはNGなので、そんな理由からも、個人的には、ナンピン買いは基本的にはオススメはしておりません。

とはいえ、ナンピン買いは絶対ダメというわけでなく、次のようなケースでは、ナンピン買いは大いに有効です。

それは、「その銘柄への投資額をしっかり決めた上で、高値つかみを避けるため(少しでも安く買うため)、何度かに分けて購入する」ときです。具体例を挙げるなら、「A株に100万円分投資したいが、一度に買うと高値つかみが怖いので、まずは10万円分だけ買って、値下がりしたら買い増していこう」と、最初から考えているようなケース。

つまり、リスクの上限(その銘柄への投資上限)をしっかり決めて、最初からナンピン買いをしっかり意識しているのであれば、むしろ、ナンピン買いはオススメしたいところです。かつては、ただ衝動に駆られてナンピン買いをしていた(そして素寒貧になっていた)私ですが、今では、ナンピン買いについては、そのようなスタンスを心掛けています。

■みずほをナンピン買いした結果……

そして今、そのようなスタンスで買っている銘柄の一つが「みずほフィナンシャルグループ」です。

配当利回りの高い銀行株を100万円程度持っておくか……と、4年ほど前に1900円程度の時に初購入。その後、コロナショックもあって大きく株価を下げる中、ナンピン買いを何度か行いました。そのおかげで、現在の平均購入単価は1500円台半ばまで下がり、配当金込みで若干のプラスとなっています。

ナンピン買いによる買い増しにより、現在500株保有なので、投資額は75万円程度。

投資上限の100万円まではまだ余裕があるので、これから値下がりをすれば、また淡々とナンピン買いを行うつもりです。もし、ズルズルと値下がりが止まらず、損失が広がったとしても、それは結果論として受け入れるつもりです。

このように、最初からリスク上限を設定し、値下がり時のスタンスもしっかり決めているのであれば、ナンピン買いも「アリ」かと思っています。

■人間の本能がナンピンへ駆り立てる

人間の本能からすれば、どうしてもナンピン買いをしてしまいがちです。

なぜなら、保有銘柄の値動きを見ていても、どうしても購入当初の株価が基準になってしまうもので、それよりも値下がりしていると、「買わないともったいない」と感じてしまうから。保有銘柄の値下がり時、「むしろ、今がチャンスです」との定番の営業トークは、そんな本能をうまくついているわけですね。

また、損失を抱えているときには、人間は「損を取り戻したい」と、リスク志向型になりやすいことは、行動経済学でも証明されています。そんな理由からも、保有銘柄の値下がり時には、人はナンピン買いに駆り立てられるのです。

だからこそ、最初にしっかりと、ナンピン買いをするかしないかを決めておくことが大切なのです。

何も考えていないと、保有銘柄が値下がりしたときには、本能のままにナンピン買いをして、(結果的に成功するかもしれませんが)失敗に終わる可能性が高く、また、結果如何にかかわらず、想定外のリスクを抱えることになってしまうからです。

実は今回、雪国まいたけへの投資については、ナンピン買いはしないと決めていました。

それでも、ズルズル下がり続ける株価を見て、その決心が揺らいでいるのは事実で、それくらいナンピン買いは魅力的なのです。そんな魅力に惑わされずに、ナンピン買いは、慎重に判断したいものですね。

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藤原 久敏(ふじわら・ひさとし)
ファイナンシャルプランナー
1977年大阪府大阪狭山市生まれ。大阪市立大学文学部哲学科卒業後、尼崎信用金庫を経て、2001年に藤原ファイナンシャルプランナー事務所開設。現在は、主に資産運用に関する講演・執筆等を精力的にこなす。また、大阪経済法科大学経済学部非常勤講師としてファイナンシャルプランニング講座を担当する。著書に『株、投資信託、FX、仮想通貨… ファイナンシャルプランナーが20年投資を続けてみたらこうなった』(彩図社)など。
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(ファイナンシャルプランナー 藤原 久敏)