【赤木智弘の眼光紙背】確かに不正は不正なんだけど…… - 赤木智弘
※この記事は2012年02月10日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第210回横浜にある「みなとみらい線」が、不正乗車に頭を悩ませているという。(*1)
通勤時に混み合うことから、下り方面の電車に乗って、空いている上り電車に乗り換えて、椅子に座って楽に通勤しようというなのだろう。
しかしそうした乗車をする場合には本来、下り方面に乗った電車の料金と、乗り換えた駅から元の駅までの料金が、上りの料金と別に支払わなければならない。しかし、改札を出ずに乗り換えることから、料金の徴収ができず、不正乗車となっているようだ。
こうした不正乗車は多かれ少なかれ、通勤電車では起きていることである。不正といえば不正だが、いいじゃないかと思わないこともない。とはいえ、そうして椅子に座る人がいる一方で、そのような不正をせずに立っている人もいるわけだ。
今回、不正乗車に対する対策をとったのも、立っている人たちから「不公平じゃないか」という苦情が多数あったからに違いない。
そんなことをつらつらと考えていると、少し引っかかることが思い浮かんだ。
最近、色々な駅に「駅ナカ」と呼ばれる商業施設ができている。駅の改札の外ではなく、改札の中にある商業施設で、駅から徒歩ゼロ分という立地から人気となっているようだ。昔は駅ナカの施設といえば立ち食いそばがせいぜいで、大きな駅に本屋があるくらいであったが、今は駅ナカで食事はもちろん、夕食のお惣菜や衣服まで買うことができるようになった。私の家にほど近い赤羽駅にも、去年「エキュート赤羽」(*2)がオープンし、大変賑わっている。
では仮に、JR京浜東北線で赤羽のお隣、東十条に住んでいる人が、東京駅から帰るときに、このエキュート赤羽に寄ると考えてみる。
東京駅で東十条までの切符を買い、京浜東北線に乗り、東十条で降りずに通り過ぎて、そのまま赤羽へ。駅ナカでショッピングを楽しんだ後に、京浜東北線に乗って東十条に戻る。
考えてみれば簡単な話だが、これはみなとみらい線と同じ理由で不正乗車である。本来であれば、東京駅から赤羽までの乗車券を購入し、赤羽で下車。赤羽で東十条までの切符を買って改めて入場し、ショッピングを楽しんでから東十条に帰らなければならないはずなのだ。金額としては、東十条から赤羽までの130円の往復分、260円分の不正乗車である。(*3)
しかし、そもそも駅ナカ施設の利便性は、「改札を出ずにショッピングを楽しめること」であり、駅ナカ施設を利用するために改札外に出るのでは、本末転倒もいいところだ。また、駅ナカ施設の商圏を考えても、単に乗り換えやその駅を出入りする人だけではなく、近くの駅を頻繁に利用する人たちの集客も見込んでいるはずである。
であるならば、駅ナカ施設という存在は、例で示したような不正乗車を行う人をも含めて、利益を見込んでいると言えてしまうのではないだろうか。
みなとみらい線が不正乗車対策に乗り出したのは、不正乗車が行われることによって、他の利用者に迷惑がかかるからである。しかし、駅ナカ施設の利用者が増えるという、誰にも迷惑がかからないどころか、駅ナカに店を出す人たちにとってはありがたい不正利用に対して、JRは、いや駅ナカ施設があるのはJRだけではないのだから、その他の鉄道事業者も、なんらかの対策をしようと考えるだろうか？ 駅ナカの利用者に声をかけて、運賃を支払うように求めるだろうか？
もちろん、そんなことはしないに違いないのだが、それならば乗客が椅子に座りたいがための不正乗車に対してのみ、こうした強気の措置に出るのは「なんか不公平だな」と、私は思ってしまう。
不正乗車という言い方は「当社の規定で決まっているから、不正である」という強気な表現であるように思うが、駅ナカ施設ような、これまでにはなかった駅の役割が産まれた事により、そうした規定もまた柔軟な変化を迫られているのかもしれないということを、鉄道業者は認識しておくべきだと思うが、どうだろうか？
*1：みなとみらい線、座るために逆方向へ…不正横行（読売新聞）http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120209-OYT1T00171.htm
*2：ecute 赤羽 http://www.ecute.jp/akabane/
*3：ちなみに、この区域はJRの旅客営業規則に規定される「特定都区市内」であるので、切符での利用であれば、東京-東十条間の切符を買って、東京駅から中央線で新宿へ。新宿から埼京線で赤羽へ。赤羽から京浜東北線から東十条へ。といった、重複区間がなく、不正乗車にならないルートを取ることも可能である。
プロフィール
画像を見る赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。
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・「不正乗車」は許される？
