「紙の年賀状」にいまだこだわる人が見落とす視点
その良さはいつまでも残っていきますが、大きく変わってきたこともまた多いのです(写真:sasaki106/PIXTA)
12月15日、全国の郵便局で年賀状の受付がスタート。東京中央郵便局では、俳優の赤楚衛二さん、モデルの近藤千尋さん、芸人のおいでやす小田さんを招いた受付開始セレモニーが華々しく行われ、早めの投函を呼びかけました。
日本郵便の発表によると、今年の当初発行枚数は18億2536万枚で、昨年より1億1662万枚減。ピーク時の2003年44億5936万枚から約6割も減ったほか、11年連続で減少する右肩下がりの状況が続いています。
また、日本トレンドリサーチ調べ(男女各600名・計1200人)の「今年は年賀状を送りますか?」というアンケートでは、「送る(送るつもり)」が57.5%、「送らない(送らないつもり)」が42.5%でした。さらに、近年よく聞く「もらった人だけ返す」という本当はやめたいけど完全にはやめづらい人を含めると、「送らない」という人の割合はさらに増えるでしょう。
減り続けている最大の理由は、ネットツールの普及と進化。新年のあいさつをSNSやスマホアプリなどでする人が増え、その分だけ紙の年賀状が減っているのは間違いありません。
それを象徴しているのが、今年から日本郵便がはじめたLINEの「スマートねんが」(200円〜)。これはLINE上で購入・作成・送付・受取・保存できるほか、動画・音声・はがき印刷も対応可能で、最大1000LINEポイントが当たるくじ付きの年賀状サービスです。
年賀状はLINEでも送れる時代に(画像:郵便年賀.jp)
「日本の年賀状を、デジタルでもっと楽しく」というキャッチコピーからも、日本郵便が紙の年賀状離れを受け止めたうえで、新たな戦略を打ち出していることがわかるでしょう。
ただ、それでもまだ紙の年賀状にこだわる人は多く、その中には危うさを感じさせる人も少なくないのです。
紙の年賀状は数あるツールの1つ
では紙の年賀状にこだわる人ほど、なぜ危うさを感じてしまうのか。まず前述したように、SNSやスマホアプリなどのコミュニケーションツールが発達したことが前提としてあります。
数多くの便利なツールがあり、それらを頻繁に使う人が多い一方で、公私ともに“手書き”の機会がめっきり減りました。つまり、「よく使う身近なツールが増えて、紙がメインではなくなった」「年賀状のときだけわざわざ書かなければならない」という事実は無視できません。言い方を変えると、数多くのツールで新年のあいさつができる中、もはや紙の年賀状は1つの選択肢にすぎず、さらに「買って、書いて、ポストに投函する」という最も労力と費用を伴うものになってしまったのです。
世の中には、「コスパ重視」「スピード感と手軽さを追求」「個人情報保護」という流れがあり、しかもそれは個人だけでなく、企業などの組織も同様。より経費を削減し、生産性を上げ、個人情報の保護が求められるようになりました。たとえば、「企業が取引先に出す年賀状や、店舗の営業年賀状がここ数年間で大幅に減った」と言われているのは、このような世の中の変化によるところが大きいのです。
好きな人同士でやり取りすべきものに
端的に言うと、「紙の年賀状は“紙の年賀状というツール”が好きな人同士でやり取りすべきものに変わりつつある」ということ。紙であれ、SNSやスマホアプリであれ、どちらか一方が好まないツールなら、別のツールを使って新年のあいさつをするのがフェアな関係性であり、「もし共通するツールがなければ、疎遠になってしまうのも仕方がない」とみなす人が増えているのです。
たとえば、もしあなたの周囲にLINEを「面倒くさい」「何となく好きになれない」などの理由で使おうとしない人がいたら、少しずつ疎遠になっていくのではないでしょうか。もちろん相手がネットツールを使いこなせない人であれば、「紙の年賀状に合わせてあげる」という優しさを見せるのもアリでしょう。しかし、「自分は“紙派”だから」などと個人的な理由で他のツールを使おうとしない人は、人間関係が薄くなってしまいます。
コミュニケーションツールが増えた結果、「密な人はより密に、疎遠な人はより疎遠に」という傾向が顕著になりました。その意味で、紙の年賀状が「常識」と思っている人はコミュニケーションの絶対数が減るリスクが高いのです。
「スルー」「じまい」「卒業」の人が続出
紙の年賀状にこだわる人の危うさで忘れてはいけないのは、「周囲の人々にプレッシャーをかけてしまう」こと。なかでも、少なからず「何で返さないの?」と不満を抱く人は要注意であり、冗談でも「(紙の)年賀状くれないよね」などと言うと、「つき合いづらい人」という印象を与えかねません。さらに、「紙の年賀状を出さないから」という理由で、つき合いを絶とうとする人もいますが、これはツールの普及した現代では乱暴な行為であり、人間関係が先細りになっていくだけでしょう。
また、盲点となるのが、周囲の人に「私のところは出さなくてもいいから」と言っておいたとしても、受け取った側は「紙で送ることを押しつけられている」「本当は送ってほしいんでしょ」などと思ってしまうこと。相手のことを考えず、「送りたい」という自分の気持ちを優先させると、どうしても相手に負担を感じさせてしまうのです。
なかでも、「毎年、元旦の朝にきっちり届ける」というきっちりとした人は、相手に「私もそれが可能な25日までに出さなければいけない」というプレッシャーを与えがち。あわただしい12月に、会社なら他の仕事を止めさせ、プライベートなら自分のために時間を割くことを暗に要求しているようなニュアンスを感じさせてしまうのです。
もしあなたが「紙の年賀状を出すだけで、そこまでプレッシャーを与えないのでは?」と思っているとしたら要注意。コロナ禍に突入する前の2019年12月、メディアやSNSなどで「年賀状スルー」というフレーズが飛び交い、賛同の声が集まりました。
これはその少し前に注目された「忘年会スルー」から派生したフレーズで、「むしろ年賀状のほうをスルーします」とSNSで宣言する人が続出していたのです。さらに、この年の年賀状に「今年で最後にします」と書く「年賀状じまい」「卒業年賀状」も流行しました。
この傾向は昨年から今年にかけても続き、SNSには「年賀状スルーします」というフレーズが書き込まれているほか、「年賀状じまい」「卒業年賀状」を用意している様子がうかがえます。これらは「自分は送らない」だけではなく、「自分に送らないでほしい」という思いを込めた予防線。そんな相手の気持ちに気づかず、紙の年賀状を送ってしまう人は、相手にプレッシャーを与えている可能性が否めないのです。
高齢化社会だからこそ紙よりネット
誤解のないように書いておくと、どんなにネットが進化しても、紙の年賀状がなくなることはないでしょう。年賀状に限らず、紙を使う機会は減ったとしても、むしろその良さが見直される傾向があるからです。
たとえば雑誌や書籍は「一気に電子版へ切り替わる」と言われてから10年以上が過ぎましたが、今なお紙の存在感は十分。もちろんかつてより部数は下がりましたが、価値や愛着という点も含め、当初の想定以上に踏みとどまっている感があります。紙の年賀状も同じように、あるところまで枚数が下がったあと、再評価されるかもしれません。
それでもやはり紙の年賀状は、出す相手を選ぶ時代に突入したことは間違いないでしょう。コロナ禍の2年弱、「人に会わないこと」が普通のようになりました。会わなくなったからこそ、何らかのツールを使って連絡を取り合ったほうがいいに決まっていますが、それが紙の年賀状である必然性はほとんどないのです。
今後も高齢化社会が続いていくだけに、年始に限らず「元気でいることを伝えよう」とする人が増えるでしょう。しかし、その中心は「早く簡単に連絡できる」ネットであり、高齢者だからこそ「遅く手間のかかる」紙の頻度が増える可能性は低いはずです。
年賀状本来の目的は、もともと訪問して行われていた年始あいさつの代わりに手紙を送ること。その内容には、昨年のお礼、新年のお祝い、近況報告などで、大切なのはこれらの気持ちを伝えることであり、どんなツールを使ってもいいのではないでしょうか。少なくとも「自分は紙の年賀状にこだわっている」という姿勢を鮮明にするほど一方的なものになり、本来の目的から離れてしまうので気をつけたいところです。