ゾウは密猟が原因で牙が発達しないように進化しつつある
象が樹皮を剥がしたり水場を掘ったりすることに使う牙が、その希少価値の高さから多くの密猟者によって狙われたため、象の個体数は大幅に減少しています。そして、個体数が90%減少したというモザンビークでは、「牙が生えない象」が誕生する割合が増えていることが報告されています。
Ivory poaching and the rapid evolution of tusklessness in African elephants
Poaching drove the evolution of tusk-free elephants | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/10/poaching-drove-the-evolution-of-tusk-free-elephants/
Ivory hunting drives evolution of tuskless elephants
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02867-y
Ivory poaching has led to evolution of tuskless elephants, study finds | Wildlife | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2021/oct/21/ivory-poaching-evolution-tuskless-elephants-study
1977〜1992年にかけて行われたモザンビークの内戦において、戦費調達のために数多くの象が殺されたため、モザンビーク・ゴロンゴーザ国立公園に生息する象の個体数は2542頭から242頭に減少しました。生存した象に多く見られた特徴が「牙が生えていない」というものであり、牙のない象の割合は戦前の5分の1から2分の1に増加していました。また、戦後に生まれた象では、牙が生えないという特徴を持つ個体の割合も増加していました。
象はオスメス共に牙が生えるものですが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のシェーン・キャンベル氏ら研究チームは「牙が生えないという特徴はほとんどメスのみに見られる」という事実を突き止め、「X染色体に突然変異などの異常が発生しているのではないか」と推測しました。
そこで、キャンベル氏らは18頭のメスの象から血液サンプルを採取し、全ゲノムシーケンス解析を実施。牙のある象と牙のない象の違いを調査したところ、牙のない象には歯のエナメル質の形成に関わるアメロゲニン遺伝子に突然変異が見られたとのこと。さらに、この遺伝子は劣性致死遺伝子であり、遺伝子をホモ接合で獲得した個体は生まれることなく死んでしまうことも明らかになっています。
X連鎖遺伝の特徴から、牙のない母親が授かるオスの半分はこの遺伝子を受け継ぎ死に至るため、最終的に生まれてくるオスの個体数はメスの個体数の半分になります。このような特徴から、研究チームは「密猟が多発した象の群れは、牙のない象が増加することに加え、オスの個体数が減少する傾向にある」と記しています。
象の個体数は戦後約20年かけて増加傾向にあるため、キャンベル氏らは「自然保護の状況が現在と同じように良好であり続けるならば、この問題は時間の経過と共に元に戻せる」と述べました。