アップルが新型MacBook Proで「ポート不足」の解消に踏み切ったことの意味
アップルは2005年から15年にかけて、あらゆるケーブルを接続できる多種多様なポートを備えたノートPCを販売していた。HDMIポート、SDカードスロット、標準的なUSBポート、Thunderbolt規格に対応したディスプレイポートなど、さまざまな機器を変換アダプターなしで「MacBook」シリーズに接続できることが多かったのだ。ワイヤレス接続の規格に悩まされたり、周辺機器に対応可能なアダプターをもっているかどうか確認する手間もいらなかったのである。
そして16年以降はMacBookシリーズの薄型化や高速化が加速し、見た目も洗練されていった。ところが、同時にさまざまなポートが徐々に姿を消し、あとには残されたのは数個のUSB-Cポートだけになってしまった。
ポートがなくなるたびに、MacBookの使い勝手は悪くなっていった。細かい点を気にすることで有名なスティーブ・ジョブズだったら、こうした問題には気づいていたことだろう。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって大量の労働者がオフィスを離れて自宅で働くようになると、「ポート不足」の問題がさらに顕在化した。実際にカメラのSDカードからMacBookに映像をすぐに取り込めなかったし、音声インターフェイスをつなぐこともできなかった。
多くのユーザーは、さらに基本的な問題に直面した。つまり、キーボードやモニター、マウスの接続の問題である。外部接続したモニターが映らなかった場合、問題はモニターやケーブルにあるのか、それとも変換アダプターにあるのだろうか。マイクをつなぐだけで充電用のポートが足りなくなるなんて、いったいどういうことなのだろうか──。
だから今回、アップルの新型「MacBook Pro」についにさまざまなポートが“復活”したと聞いて、本当に喜ばしいと思っている。かなり久しぶりのことだが、個人的には発売直後の購入も考えているほどだ。
時代を飛び越えてしまったアップル
アップルは未来をつくり出していく企業として知られているが、そのヴィジョンが「現在」を飛び越えてしまうこともある。
アップルが「iPhone」からヘッドフォンジャックをなくすという大胆な策をとった当時、優れたワイヤレスヘッドフォンはまだそれほど出回っていなかった。しかし、賭けは成功した。市場がその動きに対応した一方で、アップル自身もワイヤレスヘッドフォンを開発し、その製品は史上最高の人気を集めたのだ。オーディオマニア向けの少数の製品を除いて、いま買う価値があるのはワイヤレスのヘッドフォンだけだろう。
だが、ディスプレイやカメラ、音声インターフェイス、キーボード、そしてマウスに関しては、全面的にワイヤレスに対応しているわけではない。それにアップルの「ケーブル嫌い」に対処するためだけにワイヤレス化しているわけでもない。SDカードなどの周辺機器についても同様だ。ポートがデザイン的に美しくないからといって、すべての業界において標準規格の廃止をアップルが期待するのは無理な話だろう。
アップルはすっきりしたデザインの薄型MacBookをつくろうとしたわけだが、結果として面倒でやっかいな状況が生まれた。ユーザーは複数のUSB-Cポートに差すための変換アダプターに何百ドル(数万円)も費やすことになり、本体・ケーブル・変換アダプター間の問題、もしくはそれらが合わさった問題への対処を強いられたのだ。
これはテクノロジーに詳しいユーザーですら無力に見えるほど、ひどいありさまだった。周囲にはMacBookシリーズの進化した新しいモデルを使っている人も多いが、テレビのHDMIポートに直接つないでF1を観戦できるのは、個人的に使っている2013年モデルのような古いモデルしかない。
アップルが認めたこと
こうしたなかアップルのデザイナーたちは、消費者のうんざりした声に確かに耳を傾けていたようだ。10月18日(米国時間)に発表された内容には、歓迎すべき設計の見直しが多数見られる。使い勝手の悪かった「Touch Bar」は廃止され、さまざまなポートが復活し、これまで以上に外部機器との接続性を高めている。もちろん変換アダプターは必要ない。
最も素晴らしい進化のひとつが、最大4台の外部ディスプレイを接続できることだろう。しかも、充電まで同時にできる。ディスプレイ用のHDMIポートがひとつのほか、「Thunderbolt 4」ポートも計3つある。SDカードスロットもある。
高インピーダンスのヘッドフォンにも対応したヘッドフォンジャックが追加されたので、音楽を制作する場合にはヘッドフォンアンプがなくても消費電力の大きな機器を接続できる。しかも、マグネットで充電ケーブルをつなげる「MagSafe」のシステムまで復活した。
新しいMacBook Proは全体的に、広告に掲載されたり実際に手に持ったりしたときに見栄えがする製品ではない。むしろ、実用性の高さを重視したMacBookシリーズが帰ってきたように思える。
アップルには今後も“限界”を突破していってほしい。だが、その境界線の見極めも必要だろう。デザインにとらわれるあまり機能性を損なうようなことは、決してあってはならない。
実用性の高いポートをMacBookに復活させたことで、カリフォルニア州クパチーノの巨大企業は、すでに誰もが認識していることを認めたことになる。それは「消費者が正しいこともある」という事実だ。
※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら。