脳に電気刺激を与えて精神疾患を治療する!? 「tDCS」とは?

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1930年代から試みられていた脳への脳刺激療法。「ライトメンタルクリニック」の清水先生によると、てんかん患者は統合失調症に罹患しにくかったことから、電気を通電させててんかん発作誘発する方法を、統合失調症の治療として使っていた歴史があるそうです(電気痙攣療法:ECT)。今回は、脳刺激療法の最新機器ともいえる「tDCS」について取材しました。

監修医師:
清水 聖童(ライトメンタルクリニック 院長)

富山大学医学部卒業。国立精神・神経医療研究センター病院や都内の精神科・心療内科クリニック勤務後の2020年、東京都新宿区に「ライトメンタルクリニック」開院。「精神医療をもっと身近に」をモットーに掲げている。日本精神神経学会精神科専門医、精神保健指定医の資格を有する。

仕組みとしては、腹筋を鍛える“あの商品”

編集部

脳に電気刺激を与えるって、かなりオカルトなイメージがあります。

清水先生

たしかに、電気による刺激や脳機能制御というと、SFチックで恐ろしく、非人道的なイメージがありますよね。しかし、ここでいう脳神経刺激法は、脳神経疾患の診断、治療など医療分野にとどまらず、脳機能研究など幅広い分野にも応用されている技術です。また、うつ病、双極性障害、統合失調症の患者さんに対する最終手段として位置づけられています。

編集部

病気以外にも適応はあるのですか?

清水先生

いまだ研究段階ですが、学習能力や作業記憶の向上といった海外の報告例もあります。また、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターは、統合失調症に対する治療効果を“予測できる”と発表しています。tDCSへの適応があるのかどうかを、あらかじめ別の検査で洗い出せるということです。

編集部

しかし、脳に直接ですよね?

清水先生

tDCSでは、脳に直接、電極を刺しません。特殊な装置を“頭皮の外”に固定して使用します。なお、数ある脳神経刺激法の中でもtDCSは、自宅でできて通院不要というメリットがあります。イメージとしては、電気刺激による腹筋トレーニングマシンに近いですね。

編集部

先生の医院では、実際にtDCSを使っているそうですが?

清水先生

当院では、エビデンスがある程度十分といえるうつ状態や不眠に対して治療をおこなっています。しかし不安、慢性の痛みや依存症に対する治療効果、統合失調症の方の陰性症状(感情平板化、自閉、無関心)、認知機能を改善する効果もあるようです。

電気療法と投薬療法の違い

編集部

仮に「うつ病」を対象とした場合、薬物療法との違いが知りたいです。

清水先生

tDCSは、一般的な抗うつ薬でよく起こるような副作用が少なく安全です。具体的には、吐き気、下痢、腹痛、眠気、性欲低下、重篤な不整脈などです。その一方で効果に関しては、同等とする報告や、よく処方される抗うつ薬であるレクサプロと比較して劣勢だったという報告があるなど、やや劣る印象です。ですから、お薬の副作用が気になる方や、薬物療法では不十分な方に使っていただけたらと考えております。

編集部

治療期間や費用も変わってきますか?

清水先生

薬物療法は保険適用になりますが、再発する場合、生涯にわたってお薬を必要としかねず、トータルコストは高くつく可能性があります。また、脳刺激療法の一つであるTMS(経頭蓋磁気刺激療法)は一般的には高価です。それに対してtDCSは自費ですが、あくまで当院の場合ですが1カ月あたり6万円と、かなり低コストに抑えられています。

編集部

異常行動のような副反応は起きないのですか?

清水先生

知られている副反応としては、装置を取り付けた部分の「やけど」ですね。緩衝材に水分を含ませるのですが、十分にぬれていないとやけどしかねません。そのほか、頭皮のかゆみや耳鳴り、イライラ感なども報告されていますが、いずれも軽度なレベルで、持続するものではありません。

編集部

ほかの治療と併用できるのでしょうか?

清水先生

薬物療法や心理療法との併用による弊害はありません。もちろん、市販薬や漢方薬もOKです。tDCSと他の電気刺激療法との併用に関しては、今のところ十分な検討がなされておりませんので、積極的にはお勧めしません。作用機序からいえば、相乗効果が望めるのではないかと期待しているところです。

tDCSを使うかどうかの選択

編集部

続いて、診療の流れについて教えてください。

清水先生

当院の場合、まずは分析ツールなども交えた丁寧な問診をおこなったうえで、「うつ」または「不眠症」の診断を付けます。次は治療計画ですね。薬物療法や心理療法とともに、tDCSの特徴もお伝えしたうえで、ご相談しながら決めていきましょう。tDCSはペースメーカー、頭蓋内金属がなければ安全とされているので、ある程度のご希望も段階的に反映できると思います。

編集部

しかし、「パワハラ上司」のような外的要因は解決されないですよね?

清水先生

それでも、気持ちの向かわせ方としては、有効だと思われます。ぜひ、「外部環境にやられてばかりいないで、解決していこう」という方向へ変わっていただきたいですね。また、外部からのストレス耐性を付けていくことも、治療の目的に含まれます。

編集部

治療の「やめどき」って、自分でどう判断していくのですか?

清水先生

現時点では不明と言わざるをえません。ただし、医師の指導の下で寛解維持に至ったとすれば、「一度効いた治療は再び効く可能性が高い」と判断できます。したがって、「調子が悪くなったら都度、2週間から4週間治療する」というのが実用的な運用でしょう。また、十分な薬物療法で再発される方に対し、予防的に治療していくことも検討します。

編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

清水先生

万能の治療方法はありません。どの治療にも、長所と短所があります。tDCSは、どちらかといえば症状の軽い患者さんに対し、“あと一押し欲しいとき”に補助的に治療する使い方が望ましいと考えています。もちろんtDCSで治療が奏功せず、悪化する場合もあります。死にたい気持ちが抑えられない、食事が喉を通らないなど、状況が切迫する場合は、他の治療に切り替えていきましょう。

編集部まとめ

tDCSの禁忌や副反応リスクが低いのであれば、「やってみて損はない治療方法」という印象を受けました。また、薬物療法で行き詰まりを起こしている方にとって、有力な治療選択肢となりそうです。新しい治療方法には必ずといっていいほど賛否両論が生じますので、外部に惑わされることなく、ご自身で決断してみてはいかがでしょうか。

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