対象行為は10種類で5年以下の懲役または100万円以下の罰金

 日本の公道を走るドライバー、ライダー、サイクリストや歩行者まで、すべからく道路交通法で定められたルールを守ることが求められている。その道路交通法に「妨害運転罪」が創設されたのは令和2年(2020年)6月30日のこと。いわゆる「煽り運転」が社会問題となったことを受け、それを厳しく取り締まるために生まれた新しい罪だ。

 そして、次にあげる10種類の違反行為が、妨害運転罪の対象となっている。いわゆる、これらの違反を犯すことが煽り運転の基準となるといえるのだ。

●通行区分違反
●急ブレーキ禁止違反
●車間距離不保持
●進路変更禁止違反
●追越し違反
●安全運転義務違反
●警音器使用制限違反
●減光等義務違反
●最低速度違反(高速自動車国道)
●高速自動車国道等駐停車違反

※最後の3つ以外は自転車でも適用される

 それぞれ順番に具体的な行為を見ていこう。

1)通行区分違反

「通行区分違反」というのは端的にいって逆走すること。ちなみに右折レーンから直進したり、逆に右折レーンがあるのに直進レーンから右折したりすることは「指定通行区分違反」という。なお、高速道路で延々と追い越し車線を走るのは「車両通行帯違反」と異なる違反となっている。

2)急ブレーキ禁止違反

「急ブレーキ禁止違反」は、危険回避のためではなく、後ろのクルマに追突事故を誘発させようとして故意に急ブレーキをかけることを指す。つまり後ろから煽られたときに、対抗して急ブレーキを踏むと、煽られていたクルマのほうが罪となるのだ。

3)車間不保持

「車間距離不保持」は、まさに典型的な煽り行為といえるもので、先行車との車間を詰めて走ることが道路交通法に違反しているということだ。

4)進路変更禁止違反

「進路変更禁止違反」は黄色い車線を跨いで進路変更をしてしまうこと。これも車線変更によって周囲のクルマを驚かせてしまうため煽り運転の一種と見なされる。

自転車「ベル」の無闇な使用も煽り運転になる可能性

5)追越し違反

 状況として似ているのが、「追越し違反」だ。これは左側から追い越すことが違反になるという行為を指している。

6)安全運転義務違反

「安全運転義務違反」については、わき見運転や操作不適など煽り行為としては曖昧な部分もあるが、道路交通法で定めるところによれば、安全運転とは『他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転』することであり、それに違反する行為を指す。

7・8)警音器使用制限違反・減光等義務違反

「警音器使用制限違反」と「減光等義務違反」というのは非常に似ているもので、ようは後ろからクラクションを鳴らしたり、パッシングライトを点滅させたりする行為を指している。警音器使用制限違反については自転車も対象となるという。無闇にチリンチリンと鳴らして公道を走るのは煽り運転と見なされるというわけだ。

9・10)最低速度違反(高速自動車国道)・高速自動車国道等駐停車違反

 自動車専用道路に限定した違反となるのが「最低速度違反(高速自動車国道)」と「高速自動車国道等駐停車違反」で、前者は高速道路をゆっくり走ることも煽り運転の一種だ、と誤解されている部分もあるが、煽り運転というのは後続車への嫌がらせという狙いがあっての低速走行を指す。その延長として高速道路上で停止して後続車を止めたという事件もあった。後者の「高速自動車国道等駐停車違反」は、そうした行為を煽り運転として厳しく罰していくということだ。

 いずれにしても、これら10種類の違反について、他の車両などの通行を妨害する目的で行なった場合は妨害運転として、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金、違反点数25点、免許取り消し(欠格期間2年)が課されることになる。

 さらに、こうした行為によって“著しい交通の危険”を生じさせた場合には、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金、違反点数35点、免許取り消し(欠格期間3年)が課される。

 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金という法定刑は、業務上過失致死傷罪と同等である。煽り運転というのは、それほど厳しい罪ということなのだ。