31周年おめでとう!「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影した巨星の姿
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した「りゅうこつ座AG星」(Credit: NASA, ESA and STScI)】
こちらは「ハッブル」宇宙望遠鏡によって撮影された「りゅうこつ座AG星(AG Carinae)」とその周辺の様子です。画像の中央で輝くりゅうこつ座AG星の周囲には、ガスや塵でできた星雲が幅およそ5光年に渡り広がっています。太陽から最寄りの恒星であるプロキシマ・ケンタウリまでが約4.22光年とされていますから、この星雲はその距離と同程度の幅を持っていることになります。
南天の「りゅうこつ座(竜骨座)」の方向およそ1万5000光年先にあるりゅうこつ座AG星は、「高光度青色変光星(LBV:Luminous Blue Variable)」と呼ばれる短命な大質量星のひとつです。欧州宇宙機関(ESA)によると、りゅうこつ座AG星の質量は太陽の約70倍、明るさは太陽の100万倍もあります。太陽の寿命は誕生から100億年と言われていますが、高光度青色変光星の寿命は数百万年程度で、最後は超新星爆発に至ると考えられています。
今から31年前の1990年4月24日、ハッブル宇宙望遠鏡はスペースシャトル「ディスカバリー」に搭載されて打ち上げられました。毎年この日にはハッブルの打ち上げを記念する画像が公開されており、冒頭のりゅうこつ座AG星の画像は今年の打ち上げ31周年を記念するものとなります。
太く短く輝く高光度青色変光星は不安定な恒星で、比較的穏やかな時期を過ごしたかと思えば、時折ガスや塵を激しく放出することがあります。りゅうこつ座AG星を取り巻く星雲は、この星自身の外層が吹き飛ばされた際に放出された物質でできていて、星雲の質量だけでも太陽およそ10個分に相当するといいます。
【▲ 3Dで再現された「りゅうこつ座AG星」(Credit: NASA, ESA and STScI)】
ESAによると、星自身の重力による崩壊と、外側に向かう核融合の放射圧のせめぎ合いが、高光度青色変光星では生涯において数回起きるといいます。放射圧が崩壊を防ぐと星が大きく膨張し、外層の一部が吹き飛んで周囲に物質が放出された後に、星は元のサイズに戻るといいます。
現在観測されているりゅうこつ座AG星は、このような物質の放出から数千年が経っているとみられています。星から吹く時速100万kmの恒星風が物質を外側に押し出すことで、星雲の内部には空洞が生じました。密度が高かったために「おたまじゃくし」のような姿で物質が残っている微細な構造も、ハッブル宇宙望遠鏡はしっかりと捉えています。
この31年の間にハッブル宇宙望遠鏡は地球を18万回以上周回し、約4万8000個の天体を150万回以上観測しました。観測データを元にした科学論文の数は1万8000本以上に達するといいます。冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」による光学および紫外線の観測データをもとに作成されています。
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Image Credit: NASA, ESA and STScI
Source: ESA/Hubble
文/松村武宏