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 この時期になると話題になるのが「PTA」の役員決め。人には言いたくない事情があるにも関わらず、“できない理由”を公表しなくてはならない学校が今もあると言います。そこにはどんな苦しさがあるのでしょうか。『PTAをけっこうラクにたのしくする本』の著者・大塚玲子さんによる解説です。

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本来は「できない理由」を言う必要はない

 毎年恒例、PTAクラス役員決めの季節です。PTAの役員決めではよく、クジ引きやじゃんけんで無理に役をやらされる人が出たり、「できない理由」を言わされたりして、ときには泣く人が出ることもあります。「あの時間が苦手だ」という人は多いでしょう。

 現状のPTAはなぜか「母親が必ずやらなければいけない義務」と思われていますが、本来PTAは任意で参加するものです。「できない理由」など、本当は誰にも言う必要はありません。

 そこで最近は仕組みを改め、「クラス(学年)から何人の委員」という人数割り当てをやめるPTAも徐々に増えているのですが、残念ながらまだ、旧来型のクラス役員決めを続けるPTAが多いようです。

 なかには、こんな経験をした人もいます。

「子どもの学校のPTAでは、できない人はみんなの前で理由を発表して、全員一致でOKをもらわないと免除されないので、勇気を出してやってきた。宗教のなかで育ち、虐待を受けてきて、集団でいること、人の視線が怖いこと。参観日ですら家を出るのが怖いこと。泣きながら震えながら言ってきた。みんな承諾してくれた」(ツイッターより)

 身のすくむ話です。こんなふうに、思い出すのもつらいような経験を、みんなの前で告白せざるを得ない人が出てしまうこともあるのです。

 このツイートをしたBさんは子どものころ、新興宗教のコミュニティで育ち、家族から虐待を受けていました。並みならぬ覚悟のもと、みんなの前で個人的な事情を話してきたのでしょう。どんな思いがあったのか、Bさんに聞いてみました。

「子どものときは学校の集団になじめなくて、仲間外れ、陰口などを恐ろしく感じていました。家では母親、兄からの虐待や、宗教での裏切りもあり、どうしても年上の、特に女性の方を怖いと感じます。学校行事のときは、みんなに見られて、陰口を言われているように感じ、身体が震え、声が震え、涙が出てきて、吐き気がします。

 私は子どものとき、運動会や参観日に誰かに来てもらった記憶がなく、いつも悲しかったので、自分の子どもの行事にはできる限りすべて行ってあげたい。その気持ちだけで、安定剤を飲んで家を出ます。ほかの保護者とは話さず、目も合わさず、終わったら一番に帰る。そして寝込みます。子どものためにやってあげたいので、毎回必死です」

 こういった人が大勢の前で理由を告げないと、かかわらないことが許されないPTAとは一体何なのか? 理不尽さを強く感じます。

人には言いたくない“事情”を抱えて

 このような状況を避けるため、思いきって「PTAに入らない」という選択をした人もいます。以前取材を通して知り合ったYさんは、子どもが小学校に入る際、PTAに入らないことを決めました。彼女も子どものころ、母親や継父から虐待を受けた経験があり、いまもその後遺症に悩まされています。

 Yさんに、虐待を受けた人がPTAをつらく感じやすいのはなぜだと思うか尋ねてみると、こんなふうに話してくれました。

「どうしてPTAがいやなのか、私も最初はわかっていなかったんですけれど。ママ友などからPTAの理不尽な話を聞くだけで、それがトリガー(引き金)になって虐待されていたころの記憶がよみがえってしまうんだとわかってきました。

 それに、虐待を受けた当事者は学校でひどいいじめに遭っていることも多い。そうするとPTAって、虐待の記憶に加えて、いじめの記憶もよみがえらせてしまうんです。まさに、学校のなかでのことなので」

 虐待を受けた人だけでなく、精神疾患を抱える人たちにとっても、PTAへの参加は大きな負担になっていることがあります。

 中部地方に住むTさんは、上の子が小学校に上がるころに統合失調症を発症。はじめは幼稚園のPTAで役員を引き受けていたのですが、難しい折り紙やダンスなど、Tさんが苦手な活動を強いられることが続き、小学校になってからは声を掛けられなくなってしまったことを、悲しそうに話していました。

 また別の、うつ病の女性は、もうすぐPTAの役員決めがあるので、みんなの前で病気のことを言わなければならないかもしれないと心配していました。「世間には精神疾患への偏見があるので、子どもに影響があるかもしれない」と感じて、不安なのです。

 せっかく子どもたちが進学・進級するうれしい季節なのに、PTAの役員決めがあるために、晴れ晴れとした気持ちになれない保護者、母親たちが毎年少なからずいることが、残念で仕方がありません。

 どうかもし、PTAの役員決めで「できない理由」を公表しなくてはいけない空気になったら、「そんなのおかしい」と意見してもらえたら。

 それと同時に、世の中にはいろんな事情を抱えた人がいることを、もっとみんなに知ってもらえたらよいのですが。そういう人が身近にいることをみんながわかっていれば、本人につらい思いをして語らせるようなことは、なくなるのではないでしょうか。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。