「子どもを産まない」という選択をするも、DINKsやシングルに世間の風は冷たい
不妊や経済的事情で産みたいのに産めない女性が多い一方で、増えてきているのが“産まない選択”をした女性。彼女たちの選択はいけないことなんでしょうか。
【写真】「子どもを産み育てない人生に一片の後悔もない」と発言し、話題を呼んだ山口智子
産まない女性に「絶対に後悔するよ〜」
「私は子どもを産まない選択をしました。産み育てている方たちはすごいなと思いますし、否定するつもりもありません。だから産まない私のことも詮索したり、干渉しないでほしいなって思うんです」
都内在住の絵理子さん(仮名・37)に子を持たない理由について聞くと、あっけらかんと答えた。
子どもを持たない夫婦が増えている。昨年9月に厚生労働省が発表した'19年の出生数は86万5239人で、1899年の調査開始以来過去最少を更新。不妊に悩み、産みたくても産めない女性や晩婚、未婚の増加など事情もある中、前向きに産まないという選択をする夫婦が増えているのも事実だ。
芸能界でも、'16年に山口智子(当時51)が雑誌のインタビューで《子どもを産み育てない人生に一片の後悔もない》と公言し、話題を呼んだ。石田ゆり子もそれに続き、《結婚できないんじゃなくてしないという選択もあたりまえにあるのにね》と、出産以前に結婚制度に対して、従来の古い考え方への窮屈さを自身のエッセイで言及した。
「それまで子どもを持たない側の女性は(子どもを)欲しくないというと“赤ちゃんに恵まれなかった”、“不妊治療の末にあきらめた”、などとあらぬ誤解や詮索をされてきました。
山口さんや石田さんのようなカッコいい年のとり方をしている女優さんがそう公言してくれたことで、かなり生きやすくなってはきましたね」
と、婚活ライターの江藤真由さん。
「母親になった人に“子どもを産んだら後悔するよ〜”と言う人はいませんよね。いたとしてもそんなことを言うのはおかしな人と敬遠されます。だけど産まない女性に“子どもをつくらないと絶対に後悔するよ〜”と言ってくる人の多いこと! なんで自分の人生の大切な選択に他人がズケズケと土足で踏み込んでくるんでしょう。DINKsが主流になるのもわかる気がします」
『DINKs(ディンクス)』とは、『Double Income (共働き)No Kids(子どもを持たない)』の略で子どもを産まずに生活をする夫婦のこと。近年増えつつあり、グーグルでDINKsを検索すると関連ワードで『ズルい』『むかつく』などの批判的なワードが並ぶ。
「彼らをおもしろくないと思う人は多いようで、逆に子どもを持ったことを後悔しているのかと思ってしまいます。
自分がかつて選択しなかった道を選んだ人が、自由を謳歌しているように見えるのは悔しいのでしょうか」(婚活ジャーナリスト)
前向きに子どもを持たない、そう選択した女性に話を聞いた。
「結婚は彼と家族になりたかっただけ」
絵理子さん(仮名/東京都・37)
冒頭の絵理子さんは同い年の夫と愛犬のテチ(♂)との3人家族。夫婦ともにフルタイム勤務で働き世帯年収は1200万円ほど。
結婚してちょうど10年目の今年、都内のタワーマンションを購入し、周囲から“次は子どもだね”と言われる日々だという。絵理子さんはそんな周囲の声をかき消すように結婚の理由について話す。
「東日本大震災のときに茨城に出張していた彼と2日間連絡がつかなくなって不安な日々の中、家族だったら何かあったら真っ先に連絡が来るということを痛感して結婚したんです。だから家庭が欲しいとかそういうことよりも彼と家族になりたいという思いが強かったんですよね。結婚当初から子どもを欲しいと思ったことはありません。彼も同じ意見で“ずっと2人で生きていこうね”と誓い合って結婚しました」
子どもを持たない選択をした理由について、
「子どもがいなくても十分に満たされているんです。それに私と夫の間に子どもが入ってくるのが嫌です。好きな男の子どもを産みたいってよく聞きますけど、私は彼と一緒に過ごしたい。それだけなんです。夫も同じ考えでいてくれて、子どもよりも旅行や共通の趣味のボルダリングに生きがいを感じているのでヨボヨボになるまで2人で山を登りたいって話しているんです」
しかし周囲は絵理子さんたちを放っておいてくれないという。
「私は3人きょうだいの真ん中で兄も妹も子どもがいるから両親は私に干渉しないでくれます。
だけど夫は長男で義母は会うたびに『跡継ぎがいないと恥ずかしい』と言います。盆と正月だけしか会わないのでそこを我慢すればいいんですが……。義母のことは好きですし、できるだけ期待に応えたいと思うのですが子どもに関しては譲れません」
絵理子さんは今37歳。出産のタイムリミットを意識することはないのだろうか。
「それ、女友達にもよく聞かれます。これまで1度も欲しいと思ったことはないですし、もしもこの先欲しいと思ったとしても後悔はしません。望んでいない子どもを産んで後悔することのほうが罪だと私は思う。子どもは親の所有物じゃありませんから。早く40代後半になりたいです。そうしたら周囲も子どもについてそっとしておいてくれるでしょうから」
「縁がないことに執着しない」
爽子さん(仮名/神奈川県・42)
某アパレルメーカーで広報として働く爽子さんは、4年前に5歳年下の夫と授かり婚をした。
「妊娠がわかって結婚して、すぐに流産しちゃったんですよ。こんなことを言ったら最低かもしれませんが、少しホッとしている自分がいてそのことに落ち込みました。自分は人でなしなんじゃないかって」
夫とはそのまま婚姻関係を継続。
「実際に結婚してみると生活をシェアできる相手がいることに心地よさを感じたんです。家賃も生活費もシェアすることで多く貯蓄ができますし、こんなことならもっと早く結婚すればよかったと思いました。私自身、幼いころから結婚して子どもを産んでやっと一人前という古い家族観を持っていたので、子どもがいないのに結婚するという発想がありませんでした」
爽子さんがその考えに至ったのに自身が育った家庭環境は影響したのだろうか?
「多少はあるかもしれません。ウチは機能不全家族に育って、両親は仲が悪かったのですが子どものために離婚しない、という感じで。子どもを理由にしていたけど、母は専業主婦だったので働いたり自立することが怖いことを子どものせいにしていただけじゃない? と子ども心に感じていてすごく嫌でした。子どもがいると自分の好きなように生きられないというイメージがついてしまったんですよね」
両親の不仲により、子どもを持つことをイメージできないのは夫も同じ考えだという。
「仲が悪いのに自分の存在で縛りつけているというのが心苦しかったようです。私も夫も古い価値観を壊したことでやっと自由になれたような気がします」
と清々しい顔で語った爽子さん。この先子どもが欲しくなることもあるのでは? と問うと、
「結婚してから特に避妊もしませんでした。それでも授からなかったということは縁がなかったということ。無理にあらがって手に入れたものって、やっぱりどこかで無理が出てくると思うんです。だから今まで子どもを授からなかったことが自分の自信になっています。私は産まなくてもいい、と神様に言われたんだ、と考えるようにしています」
それでも過去の価値観と完全に訣別はできないという。
「生物としての役目を果たしていないんじゃないか、と思ってしまうんです。命をつなぐことが人類の義務だという思いがどこかにあるんですよね。そんなときに政治家の失言を目にしたりすると少し落ち込みますね。40歳を過ぎて産める年齢でもなくなってきたことで楽になった。選択肢が残されていると迷いが生じますから」
出産のリミットを超えて自由になれた、という爽子さんの表情は生き生きとしていた。
子どもを産める社会じゃない
「子どものいない40代女性は生きづらいです」
そう話すのは前出の江藤さん。
「勝手にストーリーを作られてしまうんですよね。子どもを持つことを当たり前だと思っている人からしたら子どもを持たないということを選んだ人は何かしらの事情があって子どもを“産めなかった”ということにしたがる。
そもそも子持ちと子ナシの対立構造だって男社会が作り上げたもの。そりゃ国としてみたら少子化は食い止めなければいけないのでしょうけれど、その前に子どもを産める社会ではないでしょう。少なくとも私はこの社会に子どもを産みたいとは思えません」
今や子どものいない女性の割合は3人に1人という社会。彼女たちの声はもはや少数派ではない。