3割が医者で、7割が経営者。開業医が語る「医療法人」経営の裏側
医師としては一流の腕前を持つが、経営者としては素人。そんな中でクリニックを開業し、事業を拡大させていく。「開業医」は医師だけでなく、経営者の視点を持たなければならない。
『ドクター・プレジデント』(幻冬舎刊)は、一代で10以上の医療・介護施設を開業し、千葉県医師会会長を歴任、名医でありながら経営者としても腕を振るう医療法人社団明生会会長の田畑陽一郎氏が、医療法人経営の軌跡を明かした一冊。
その裏には一体どのような苦悩があったのか。そして、経営者としてどのように成長をしてきたのか。田畑氏に本書についてお話をうかがった。
(新刊JP編集部)
■経営は一から勉強しなければならなかった
――『ドクター・プレジデント』についてお話をうかがっていければと思います。本書は出版されてからしばらく経ちますが、今に至るまで、どのような反響がありましたか?
田畑:私は千葉県を中心に医療法人を展開しているので、千葉の医療関係者が読まれるのかなと思っていたのですが、全国から反響が寄せられて驚きました。また、読者のメインはもちろん医療関係者、開業医の方になるのですが、医学生や会社の経営者からも感想をいただきました。
――会社を経営されている方の声も。
田畑:そうです。開業医ってお金持ちのイメージがあったけれど、経営者として苦労しているんですね、という声をいただきましたね。
――確かに、開業医は「お金持ち」「安定」のイメージが強いです。でも、本書では開業医も経営者であり、経営をしていかなければいけないという姿が描かれています。もともとはどんな人にこの本を読んでほしいとお考えだったのですか?
田畑:最初は開業医の方々です。日本の医療は開業医の先生たちが支えていますから。もう一つは若い人たち、医学生にも読んでほしいという気持ちで書きました。
――特にどんな点を読んでほしいと思っていましたか?
田畑:医学は教えてくれる人がいますが、経営については誰も教えてくれません。だから、ぜひ経営について本書から学んでほしいなと思って書きました。
私自身、自分で経営を学ばないといけないと気づいてから、経営セミナーに通ったりしました。経営ができないと、患者さんを助けることができません。医者も経営もしっかりやることが、開業医としての自分がすべきことなのだろうと思ったのです。
――本書を読むと開業準備からこれまでに至るまでの様々な困難や危機が書かれていますが、まずは最初のクリニックを開業する際の印象的なエピソードについて教えてください。
田畑:私自身もともとは大学病院にいて、諸般の事情から開業をしたわけですけど、やはり経営って難しいんですよ。そこで一から勉強を始めたんです。
まずは経済のことを知らないといけないので、日経新聞を読むわけですね。そうして知識を頭に入れて、銀行員と話をしていると、「この先生はちゃんと勉強している」と思われるようになる。そういうことが、融資を受けるときに効いてくるわけです。そういった一つ一つのことが重要なのだなと感じましたね。
――では、これから開業を目指そうとしている若い医師にはどのようなアドバイスをしますか?
田畑:医師が医療について勉強するのは当たり前です。ただ、開業するならば経営も勉強しないといけないということですね。職員を雇っているわけで、彼ら、彼女らの生活を守らないといけないわけです。だから、開業をするときはそのことを常に考えながら行動してほしいと思います。
――田畑さんは開業後、間もなく次の手を打ちます。新たなクリニックの開業と医療法人化です。
田畑:そうですね。開業して1年ちょっとですぐに次の手を打ちました。患者さんのためにも、チェーン展開したほうがいいと思っていましたから、これは急いで進めました。
ただ、当時いた婦長から「せっかく最初の施設が波に乗ってきたところなのに、また新しく施設をつくるのですか」と言われるなど、反対の声が上がったのは事実です。結局、その婦長は辞めてしまうわけで、それはつらい出来事でした。でも、自分でやると言った以上はやるしかないわけですからね。
――ある種、経営者としての視点で意思決定をした瞬間だと思います。ご自身としては、自分は経営者だという意識はあったのでしょうか?
田畑:もちろん最初はありませんでした。ただ、3つ、4つと施設が増えていくあたりで、その意識は出てきましたね。だんだんと経営について「こうすればいいのか」というポイントが分かってきますからね。
――今は医師としてのご自身と、経営者としてのご自身は何対何くらいですか?
田畑:これは3割が医者で、7割が経営者です。そのくらいの意識でないと職員を食べさせていくことはできませんし、患者さんを救うこともできないと思います。
――経営者としてどんなことに悩みましたか? また、悩んだときに、相談する相手はどんな人がいましたか?
田畑:知り合いの経営者に相談していました。その人は医者ではなくて、医療機器関連の会社を経営されています。それで、悩みというと、銀行との付き合い方ですね。経験しないと分からないこともありますし。そういうところはアドバイスをもらいながら経営を学んでいきました。
――開業医という立場で接すると、銀行側は何か特別な対応をしてくれるのですか?
田畑:医者であっても特別扱いはされません。銀行が見ている視点は、経営をしっかりしているか、職員を安定させているか、患者を増やせているかという部分ですから。
(後編に続く)
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(新刊JP編集部)
■経営は一から勉強しなければならなかった
――『ドクター・プレジデント』についてお話をうかがっていければと思います。本書は出版されてからしばらく経ちますが、今に至るまで、どのような反響がありましたか?
田畑:私は千葉県を中心に医療法人を展開しているので、千葉の医療関係者が読まれるのかなと思っていたのですが、全国から反響が寄せられて驚きました。また、読者のメインはもちろん医療関係者、開業医の方になるのですが、医学生や会社の経営者からも感想をいただきました。
――会社を経営されている方の声も。
田畑:そうです。開業医ってお金持ちのイメージがあったけれど、経営者として苦労しているんですね、という声をいただきましたね。
――確かに、開業医は「お金持ち」「安定」のイメージが強いです。でも、本書では開業医も経営者であり、経営をしていかなければいけないという姿が描かれています。もともとはどんな人にこの本を読んでほしいとお考えだったのですか?
田畑:最初は開業医の方々です。日本の医療は開業医の先生たちが支えていますから。もう一つは若い人たち、医学生にも読んでほしいという気持ちで書きました。
――特にどんな点を読んでほしいと思っていましたか?
田畑:医学は教えてくれる人がいますが、経営については誰も教えてくれません。だから、ぜひ経営について本書から学んでほしいなと思って書きました。
私自身、自分で経営を学ばないといけないと気づいてから、経営セミナーに通ったりしました。経営ができないと、患者さんを助けることができません。医者も経営もしっかりやることが、開業医としての自分がすべきことなのだろうと思ったのです。
――本書を読むと開業準備からこれまでに至るまでの様々な困難や危機が書かれていますが、まずは最初のクリニックを開業する際の印象的なエピソードについて教えてください。
田畑:私自身もともとは大学病院にいて、諸般の事情から開業をしたわけですけど、やはり経営って難しいんですよ。そこで一から勉強を始めたんです。
まずは経済のことを知らないといけないので、日経新聞を読むわけですね。そうして知識を頭に入れて、銀行員と話をしていると、「この先生はちゃんと勉強している」と思われるようになる。そういうことが、融資を受けるときに効いてくるわけです。そういった一つ一つのことが重要なのだなと感じましたね。
――では、これから開業を目指そうとしている若い医師にはどのようなアドバイスをしますか?
田畑:医師が医療について勉強するのは当たり前です。ただ、開業するならば経営も勉強しないといけないということですね。職員を雇っているわけで、彼ら、彼女らの生活を守らないといけないわけです。だから、開業をするときはそのことを常に考えながら行動してほしいと思います。
――田畑さんは開業後、間もなく次の手を打ちます。新たなクリニックの開業と医療法人化です。
田畑:そうですね。開業して1年ちょっとですぐに次の手を打ちました。患者さんのためにも、チェーン展開したほうがいいと思っていましたから、これは急いで進めました。
ただ、当時いた婦長から「せっかく最初の施設が波に乗ってきたところなのに、また新しく施設をつくるのですか」と言われるなど、反対の声が上がったのは事実です。結局、その婦長は辞めてしまうわけで、それはつらい出来事でした。でも、自分でやると言った以上はやるしかないわけですからね。
――ある種、経営者としての視点で意思決定をした瞬間だと思います。ご自身としては、自分は経営者だという意識はあったのでしょうか?
田畑:もちろん最初はありませんでした。ただ、3つ、4つと施設が増えていくあたりで、その意識は出てきましたね。だんだんと経営について「こうすればいいのか」というポイントが分かってきますからね。
――今は医師としてのご自身と、経営者としてのご自身は何対何くらいですか?
田畑:これは3割が医者で、7割が経営者です。そのくらいの意識でないと職員を食べさせていくことはできませんし、患者さんを救うこともできないと思います。
――経営者としてどんなことに悩みましたか? また、悩んだときに、相談する相手はどんな人がいましたか?
田畑:知り合いの経営者に相談していました。その人は医者ではなくて、医療機器関連の会社を経営されています。それで、悩みというと、銀行との付き合い方ですね。経験しないと分からないこともありますし。そういうところはアドバイスをもらいながら経営を学んでいきました。
――開業医という立場で接すると、銀行側は何か特別な対応をしてくれるのですか?
田畑:医者であっても特別扱いはされません。銀行が見ている視点は、経営をしっかりしているか、職員を安定させているか、患者を増やせているかという部分ですから。
(後編に続く)
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