もしコロナ禍で災害が起きた場合は… 覚えておくべき「いざという時」の動き方

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季節が秋から冬へと移り変わるこの時期、夜の気温は10℃を下回るようになり、一段と寒さを増してきた。
そんな中で気になるのが、新型コロナウイルスの感染者数だ。11月に入るとその数は一気に急増。東京都で12月10日に602人の新規感染者が確認され、日本全体でも同日に2972人と発表された。

『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(扶桑社刊)の著者で、国際災害レスキューナースとして26年間活動し、被災地での感染症予防対策に詳しい辻直美さんは、新型コロナに対して日本人は「気が緩んでいる」と指摘する。
「感染しない・させない」ために今、私たちがすべきことは何か。地下鉄サリン事件で現場の指揮を執った経験のある、感染症対策のプロ、辻さんに感染対策法を基礎から教わった。

(構成・聞き手:金井元貴)

■飲み会やカフェでのおしゃべりは「マスクをしながら」

――これからの時期、クリスマスや忘年会、新年会などで飲み会が増えます。感染拡大の要因の一つとしてもあげられている飲み会ですが、どのような対策を講じるべきですか?

辻:飲み会の対策は難しいですね。どうしても参加しないといけないときは、「話すときにはマスクをする」だと思います。私は飲み会よりも、喫茶店やカフェでのおしゃべりの方が注意すべきではないかと思っています。

――確かに誰かと一緒にカフェに入ったら対面で話すことが多いです。

辻:飲み会でもカフェでも、まずは「食べ終わりました」、「飲み終わりました」というタイミングでマスクをつける。それからしゃべればいいんです。一人マスクをすればみんなマスクをつけ出すはずです。みんなしていないし、マスクをしなくても大丈夫だろうと思ってそのまましゃべり始めることが感染の原因になるのだろうと思いますね。

――なるほど。ほかにできることはありますか?

辻:盛り上がってきたら、人に近づかずにソーシャルディスタンスを保つようにするとか、輪の中から少し離れて参加をする。食べる時はみんな違う方向を向く。今までだったら失礼に思われたかもしれませんが、感染を防ぐためにはそういう配慮が必要になります。

誰か一人がそういう配慮をすれば、参加している人は後に続いていく。ぜひ率先してやってほしいですね。

■このコロナ禍で災害が起きたときは…常に考えておきたいこと

――本書のタイトルは『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』ということで、このコロナ禍の中での災害対策についても触れられています。確かにこうした状況の中で災害が起こるってあまり考えたことがないというか、どうなるのか予想もしたことがないです。

辻:今年7月に九州地方で豪雨があって、私は球磨川が2回目に氾濫したときに現地に行きました。地獄でした。防災に対して意識の高い方は、早いタイミングで在宅避難や分散避難などをされていました。でも、なかなか自分事にならない方もいて、警戒レベル4にならないとスイッチが入らないんです。

慌てて家を飛び出してきたけれど、すでに避難所は満員で入れず。リュックサックの中には飲みかけのペットボトルの水とティッシュボックス、そしてなぜかリモコンが4つというおじちゃんもいたりして。
冷たい雨の中、呆然と立ち尽くしていた方を見た時は、胸が痛みました。早くから自分で対策していないと、そうなってしまうんです。

――避難所でコロナの対策を打たないといけないとなると、さらに混乱しそうですが…。

辻:実はコロナ対策はしっかりなされています。もともと避難所には感染症対策のマニュアルが決まっていて、ちゃんと講じられているんですよ。アルコール消毒液は置くし、一定距離をあけるし、消毒をするということは以前からなされていました。

――それは安心できます。ただ、コロナ禍で変わった部分もあるのでは?

辻:マスクをして避難所に入ること。あとは、3密を防ぐために、収容人数が減りました。これまで100人収容できたところでも、30人しか入れなくなっています。だから、ギリギリで行動すると、自分が行こうとしていた避難所がもう満員で入れないという可能性は大いにある。

そもそも、避難所は行政の人たちが運営を仕切ってくれると思っていませんか? 実は違うんですよ。避難所の運営は、避難してきた人たちが自分たちの中からリーダーを決めて行うんです。

――それは経験しないと分からないことですね。

辻:それが怖いんです。避難所にいったら、「〇〇さんですね。こちらのスペースにどうぞ」なんて案内してもらえるのではないんです。早い者勝ち。避難所はホテルじゃないんです。
住民の数だけスペースが確保されているわけではないので、定員オーバーで入れないこともある。

対策としては、平時から水害と地震、それぞれ3カ所ずつ避難所を選んでおくこと。行ってみて満員だった場合も想定して、次の次の手まで打っておくんです。

――事前に準備をしておくことが大切なんですね。

辻:おっしゃる通りです。地震、水害それぞれに備えておくことが非常に大切。例えば、低い場所にある避難所は地震のときは使えても、水害では使えなかったりする。ハザードマップにちゃんと書いてありますよ。平時に行ってみて、ルートや場所を核にしておくといいでしょう。そういう準備をちゃんとしておいてくださいね。

■周囲を引っ張る「第一人者」になってほしい

――また、コロナ禍でメンタルをやられる人がいます。私自身も環境の変化についていけなくて、不安を抱えてしまって、その不安を誰にも言えないということが続いて、抱え込んでしまい、メンタルの調子が落ちた時期がありました。

辻:確かに病みますよね。外に出るのが好きだった人は、ずっとステイホームしないといけないことに戸惑われたと思います。

でも、私は楽しくて仕方なかったんですよ(笑)。確かに環境が一気に変化しました。だけど、「家でダラダラ好きなことをして、人を守ることができるミッション」と考えれば、気持ちは楽になるのではないかなと。家にいることで自分や大切な人を守っている。すごく意味のある行動です。

――確かに、家で過ごすことが感染防止につながりますからね。

辻:そうなんです。それに、自分の人生を振り返るための良い機会にもなりました。これまでは、何事もすばやく行動しないと、と思っていたけれど、ゆっくりお風呂に浸かることとか、ゆっくりご飯を作って食べることとかの大切さを感じました。

――確かに自分の生活を見直すきっかけにはなりましたね。

辻:人とのつながりを感じにくくなったという声も聞きます。私は健康維持のためにベランダでラジオ体操をしていたのですが、隣に住んでいる人が「朝から何してるん?」とベランダ越しに話し掛けてきて、「ラジオ体操やってんねん」と言ったら「私も参加していい?」と返してきて。さらにその輪が広がって、上の階の人をはじめ、いろんな人が参加するようになったんですよ。

――大阪っぽいエピソードですね。

辻:そうでしょう。真向いから見たら、朝から何してるんだと思うでしょうね(笑)。でも、そういうつながりを生むことだってできるんです。だから、本書を読んだ方、このインタビューを読んでくださった皆さんには、第一人者になってほしいんですよ。知っていることを率先して教えたり、引っ張っていってほしいです。

――お話をうかがってきて、やはり自分にも慣れがあって、油断しているところがあったかなと思いました。

辻:これからの年末年始がどうなるかは、皆さんの今の行動次第です。いろいろなイベントがありますし、経済も動いている。その中で、今、本当にそれをする必要があるのか、自分で意思決定できる人になることが求められます。

本書には様々な予防対策を書いています。気軽に、まず1個やってみてほしい。玄関で服を脱ぐ、エレベーターのボタンは利き手とは逆の手で押す、電子マネーを使う。難しく考えずに、新型コロナと戦っていきましょう。

――大変勉強になるお話、ありがとうございました。

(了)

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