今季J1リーグは、川崎フロンターレが圧倒的な強さを披露。シーズン序盤から首位を独走し、チームとして4試合を残した状態で2年ぶり3度目の優勝を決めた。


第29節のガンバ大阪戦を圧勝し、3度目のリーグ制覇を果たした川崎フロンターレ

 高いボールポゼッションをベースにして、スムーズかつ華麗なパスワークからゴールを量産。その攻撃力は他の追随を許さなかった。

 一方、前線からの切り替えの速い守備も圧巻だった。味方同士がいい距離感を保ち、ボールを奪われた瞬間に素早くプレスをかけて、相手に付け入る隙を与えることがなかった。

 まさに盤石の戦いぶりで、Jリーグ「史上最強チーム」とも称された。

 では、そのチームにあって今季、最も活躍した選手は誰か、最も勝利に貢献した選手は誰なのか? 

 チーム全体のレベルが高く、誰もがすばらしい活躍を見せたゆえ、非常に難しい設問ではあるが、識者にアンケートを実施。あえて、1位〜5位までランク付けしてもらった。その結果、1位は2人の選手が分け合った。

第1位:MF家長昭博(17ポイント)

text by Harayama Yuhei

 新機軸の3トップが、川崎フロンターレの独走を導く要因となったのは確かだろう。そのシステムにおいて重要な役割を担ったのが家長昭博だ。

 右ウイングを主戦場とした今季は、サイドいっぱいに開いて幅を取り、新加入の右SB、山根視来と好連係を築いて、多くのチャンスを生み出した。

 何より頼もしいのはボールが収まること。奪われることがほとんどないから躊躇なく縦に付けられるし、タメを作れるから思い切った攻撃参加も可能となる。攻撃力にも優れた山根がその能力をいかんなく発揮できたのも、家長の存在があったからに他ならない。

 もちろん、単独でも違いを生み出せるのが家長の真骨頂だ。深い位置まで持ち込んで高精度クロスを供給すれば、中に切れ込んでフィニッシュワークにも顔を出す。その多彩で高品質なスキルは、1試合平均で2.5得点以上も記録する川崎の攻撃スタイルの源泉だった。

 また相手陣内での即時奪回を狙う守備でも、家長は手を抜くことはなかった。フィジカルを生かした力強い対応は相手のビルドアップの精度を狂わせ、中盤以降の守備を楽にした。

 ハードスケジュールや交代枠の増加に伴い、今季は多くの選手が出場機会を得るなか、出場時間は攻撃的な選手の中ではチームトップ。鬼木達監督は、最も不可欠な選手として家長を重用したのだ。9得点、4アシスト(11月26日現在)という数字以上のその貢献度は、MVPを獲得した2018年にも引けを取らないものだった。

第1位:MF三笘 薫(17ポイント)

text by Komiya Yoshiyuki

 開幕以来、三笘薫は"戦術の枠外"にいるような選手だった。いわゆる、切り札的存在として旋風を巻き起こした。後半途中から出て、一気に試合を決めてしまう。

 ドリブルは緩急の変化が巧みで、ボールの置きどころもいいため、なかなか相手が届かない。届いた、と思ったところで、一気に入れ替わって、スピードを上げられる。そして、ゴールに近づくにつれ、精度が落ちず、シュートにも秀でている。「惜しい」というアタッカーは少なくないが、突出した決定力で違いを見せつけた。

 11月26日現在、三笘はルーキー離れした活躍で12得点を記録している。ただ、先発した試合では4得点。試合がほころび出した時、最大限の力を発揮している。そこで、個人的にはチーム戦術を回していたMF田中碧をチームMVP(ランキング1位)に選んだが、アシストの多さも含め、三笘が首位を独走するチームのジョーカーとなったことは間違いない。"彼そのものが勝利の戦術"となったのだ。

 コロナ禍で5人交代ルールが採用されたことも、三笘の飛躍を後押しした。しかし逆説的に言えば、三笘は2020年のJリーグを彩る寵児だった。

 プレーがかなり研究されたにもかかわらず、シーズン後半に入ってもコンスタントに得点を記録した三笘。それは、非凡さの証明と言えるだろう。

第3位:DF山根視来(9ポイント)

text by Sugiyama Shigeki

 2017年、2018年のJ1リーグを連覇。3連覇を狙った昨季(2019年)、川崎フロンターレが横浜F・マリノスに勝ち点10差をつけられて4位に沈んだ理由は、右サイドに問題を抱えていたことと大きな関係があった。

 右サイドバック(SB)として2年連続Jリーグのベスト11に輝いたエウシーニョを清水エスパルスに放出。それによって発生した穴を、最後まで埋めることができなかった。

 エウシーニョがいた時は、その前で構える家長昭博が真ん中に入る奔走な動きをした結果、たとえ右サイドで数的不利な状況に陥ったとしても、なんとかなった。エウシーニョの個人的な力で、相手の左サイドの攻撃を阻止することができた。しかし昨季は、家長の動きは相変わらずだったので、川崎の右サイドはそのままウィークポイントになった。

 それが、今季は違った。右ウイングに位置する家長の、持ち場(定位置)を離れるリスキーな動きが減少したこともあるが、それ以上に、今季湘南ベルマーレから獲得した山根視来が不動の右SBとして、シーズンを通して活躍したことが大きい。

 昨季の穴はすっかり解消された。むしろ、右SB(山根)と右ウイング(家長)のコンビネーションという観点で言えば、エウシーニョがいた時代を上回っていた。攻撃はよりバラエティ豊富になった。

 今季の川崎を語る時、どの選手の存在が最も欠かせない選手だったかと言えば、右サイドの問題を解決した選手(=山根)になる。

第4位:GKチョン・ソンリョン(8ポイント)

text by Nakayama Atsushi

 とかく攻撃力ばかりに目がいきがちだが、ダントツの強さを誇る川崎フロンターレの守備力の高さは、リーグ最少失点というデータにも表れている。もちろん、前線からの連動したプレスが威力を発揮しているわけだが、そんな攻撃サッカーのなかで、ゴールマウスを守るチョン・ソンリョンの充実ぶりは見逃せない。

 ここまで(11月26日現在)リーグ戦全試合で先発フル出場。故障さえなければ、出場33試合、出場時間2895分という加入2年目(2017年)に記録した自己最多記録を更新することは確実だ。

「来日してから、僕のなかでは今年が一番いいと思います」と、鬼木達監督もその活躍を高く評価するように、とにかく今シーズンのチョン・ソンリョンは好不調の波がなく、安定感は抜群だ。

 川崎がDFラインを高く設定できるのも、これまで以上に守備範囲を広げた彼の存在があってこそ。時折見せるビッグセーブ以上に、冷静かつ的確な判断力が目を引く。

 30試合を消化した時点でのクリーンシートは、その3分の1を超える11試合。35歳にして、その進化具合が現在進行形であることに驚かされる。

第4位:DF谷口彰悟(8ポイント)

text by Asada Masaki

 川崎の今季総失点は、30試合を終えた時点で25。1試合平均1失点を下回り、まだシーズン途中ではあるが、過去のJ1王者と比較しても少ない部類に入る。

 徹底してボールを保持して相手を押し込み、ボールを失っても高い位置からプレスをかけ、即座に奪い返す。それが川崎の"堅守"の源だ。

 しかし、そうは言っても、水は漏れる。一度相手にカウンターを許せば、チーム全体が守備に戻らなければならないし、結果的に失点はしなくても、相手にいろいろな意味で回復の機会を与えることになる。

 だからこそ、谷口彰悟の存在が重要だった。

 相手が必死で試みる反撃を、谷口はときに華麗に、ときに力強く、高く守った最終ラインで潰してしまう。その働きは、失点の可能性を減らすことはもちろん、チーム全体がリズムよく攻撃し続けることにもつながった。

 谷口の今季ゴール数は2。数としては多くないが、拮抗した試合では、常にセットプレーの場面で脅威になっていたことも見逃せない。


※今回のランキングは、「優勝した川崎フロンターレで最も活躍した選手は誰か?」というアンケートを識者5名に実施。1位〜5位まで順位づけしてもらい、1位の選手を5点、2位の選手を4点、3位の選手を3点、4位の選手を2点、5位の選手を1点という形で集計。その合計ポイントによって、順位を決定した。

◆各識者のランキング
浅田真樹氏(スポーツライター)
1位=三笘薫、2位=家長昭博、3位=谷口彰悟、4位=登里享平、5位=守田英正

小宮良之氏(スポーツライター)
1位=田中碧、2位=三笘薫、3位=家長昭博、4位=小林悠、5位中村憲剛

杉山茂樹氏(スポーツライター)
1位=チョン・ソンリョン、2位=山根視来、3位=谷口彰悟、4位ジェジエウ、5位三笘薫

中山 淳氏(サッカージャーナリスト)
1位=家長昭博、2位=三笘薫、3位=チョン・ソンリョン、4位=レアンドロ・ダミアン、5位=山根視来

原山裕平氏(サッカーライター)
1位=家長昭博、2位=山根視来、3位=三笘薫、4位=谷口彰悟、5位=レアンドロ・ダミアン