NTTドコモ 波乱の2020年から2021年に向けて5Gを軸に再スタートへ

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●動くに動けない! NTTドコモのお家事情
NTTドコモは11月5日、「2020-2021 冬春 新商品・新サービス発表会」を開催し、同社の5G戦略や各種サービス展開についてプレゼンを行いました。

代表取締役社長兼CEOの吉澤和弘氏は「5Gは発表会直近で50万契約に達した」と述べ、5G契約が順調である点を強調。
今後も5Gを軸とした戦略を展開していくとしています。

しかし、同社は現在非常に動きにくい状況にあります。

総務省や政府による通信料金値下げの要請を受け、2019年6月に料金プランを大きく改定したことが影響し、財務状況は大きく悪化。
2019年度決算では前年同期比で営業収益がマイナス1896億円、営業利益がマイナス1590億円と大幅な減収減益となり、
直近の2020年度第2四半期決算においても、前年同期比で営業利益がマイナス475億円、営業利益は233億円と若干改善の兆しは見えるものの、2018年度以前の水準には程遠い状況です。


セグメント別に見ると、通信事業が落ち込んだまま全く浮上できていないことが分かる


同社はこの経営状態について、2019年度より「想定内」として2023年度までに「2018年度並に戻す」としてきました。

しかし、その経営方針に待ったをかけたのがNTT本体でした。

NTTドコモが料金値下げを断行したあとも、総務省による要請は止まりませんでした。
MNP手数料の無料化やさらなる値下げの圧力が収まらない中、NTTは、
・順調に成長を続けるKDDIやソフトバンク
・移動体通信事業者(MNO)サービスに新規参入した楽天モバイル
こうしたライバル社と早期に戦える体制を整える必要に迫られている状況から、NTTドコモを完全子会社化して企業体力の強化と競争力の維持を図ったのです。

そのため、本発表会が行われた時期は株式の公開買付(TOB)の只中であり、株価に影響する一切の戦略を公表できない状況でした。こうしたことから発表会では無難なサービス発表に終始し、全体的な戦略が見えづらい内容となりました。


総合力のポテンシャルではトップクラスのNTTドコモが大苦戦している



●5Gエリアの早期展開がカギに
5Gエリアの展開戦略では、
・2021年度末までに全国500都市をカバー
・2022年度末までにアンテナ基地局を2万局(人口カバー率55%)
・2023年度末までにアンテナ基地局を3万2千局(人口カバー率70%)

このような計画を立てており、基地局建設ペースも順調としていますが、消費者がその恩恵を体感できるのはまだ先といった様相です。


5Gが屋外でも快適に利用できるようになるには相当な時間が必要だ


一方で、NTTドコモはエリア展開と並行して5G通信のさらなる高速化にも着手しています。
NTTドコモが5G用として取得した電波(周波数帯)は、

・「ミリ波」(27GHz帯)
高速通信に向いている代わりにカバーエリアが非常に狭い

・「Sub6(サブシックス)」(3.7GHz帯および4.5GHz帯)
若干速度が遅くなるが比較的広域をカバーしやすい

これら2つの仕組みに大別されます。
このうちSub6に当たる2つの周波数帯を、「キャリアアグリゲーション」(CA)と呼ばれる複数の周波数帯を束ねて同時に利用する技術と組み合わせ、
「Sub6-CA」として、国内最速となる最大4.2Gbpsでの超高速通信への対応も進めています。

発表会ではSub6-CAに対応するモデルとして、
・Galaxy Note20 Ultra 5G
・Xperia 5 II
これら2機種を発表し、すでに販売も始まっています。

消費者としては、
「電波もないのに端末だけあっても……」
このような困惑もありそうですが、エリア展開よりも先に対応デバイスを用意しなければいけないのは必定です。

他社がアンテナ基地局の建設を前倒しで計画を進めている背景を鑑みるに、NTTドコモがエリア展開の計画を前倒ししてくる可能性は十分にあるでしょう。


Sub6でミリ波に匹敵する高速性を実現するSub6-CAは、5Gの「超高速大容量」というメリットやアピールポイントを強く印象付ける重要な技術



●ドコモ口座不正利用事件が尾を引くサービス関連
サービス面でも、アピールがしづらい印象を受けた発表会でもありました。
2020年9月に発覚したドコモ口座不正利用事件は、とくに同社の信用を大きく損ない、現在もまだ銀行との連携は完全には復旧していません。

そのような中で「d払い」を中心とした自社経済圏のアピールにも慎重にならざるを得なかったのは仕方がないところです。
・マーケティングプラットフォーム「スーパー販促プログラム」
・デバイスレンタルサービス「kikito」
発表会では、こういったBtoBソリューションやBtoCサービスの紹介程度に留まり、ユーザーを取り込むための大々的なキャンペーン施策などは打ち出してきませんでした。

NTTによる完全子会社化という流れの中で、経営の立て直しと戦略の練り直しが急ピッチで行われていることを感じさせる発表内容でもあります。


ユーザーの信頼が揺らぐ中、同社としてはプラットフォーム事業に力を入れ、再び信頼を積み上げていくしかない



●七転八倒の2020年から、勝負の再スタートへ
5Gサービスは、そのスタートから新型コロナウイルス感染症問題によって大きく躓き、話題性に乗せて売り出していく機会を逸してしまいました。
その上NTTドコモは、ドコモ口座の不正利用やNTTによる完全子会社化など、2020年内だけでも数十年に一度あるかないかというほどの大波乱に見舞われています。
インフラ整備、端末販売、通信料金、各種サービス、経済圏構想、ありとあらゆる方面でイレギュラーが起こり、難題が降り掛かっています。

11月17日にはNTTによるNTドコモのTOBが完了したとの報道がなされましたが、これによってようやく同社は戦略に関する大きな発表を行えるようになります。

発表会で期待されていたものの、結局何も情報がなかった「20GB/4,000円前後」の料金プランについても、12月頃までには何らかの発表が行われるのではないかと市場関係者の多くは推測しています。

一方で、NTTドコモの完全子会社化そのものについても不安材料はあります。
KDDIやソフトバンクなど主要な通信事業者28社が、今回の完全子会社化が校正な競争環境を阻害する恐れがあるとして政府に意見書を提出しており、NTTドコモがどこまでNTT本体の影響を受けず、独立的な経営を維持できるのかに注目が集まっています。


12月には社長も交代し、新体制での積極的な経営施策が期待される



前途多難の様相の中で行われた新製品・新サービス発表会でしたが、少なくとも5G事業に関しては、着実な進捗と地盤固めとしての技術的な進歩は感じられました。

現在のNTTドコモは、2〜3年前に描いていた未来にはなっていないかもしれません。
しかし、まだ夢が潰えたわけではありません。

新時代にむけて、形を変え、新たな戦略が今後発表されることを期待したいと思います。


執筆 秋吉 健