自己愛が強く自己陶酔的で、自分自身を過度に承認して注目や称賛を得ようとするナルシシズムを呈する人はナルシストと呼ばれます。そんなナルシストの人々は「過去の失敗から学びにくい」ということが、新たな研究により判明しました。

When and Why Narcissists Exhibit Greater Hindsight Bias and Less Perceived Learning - Satoris S. Howes, Edgar E. Kausel, Alexander T. Jackson, Jochen Reb, 2020

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0149206320929421

Here's Why Narcissists Never Really Learn From Their Mistakes

https://www.sciencealert.com/there-s-a-reason-why-narcissists-don-t-learn-from-their-mistakes



後知恵バイアスとは、物事が起きてから「これは予測可能だった」と考える傾向のことであり、反対に物事が起きてから「これは予測不可能だった」と考える傾向は、逆の後知恵バイアスと呼ばれています。アメリカシンガポールの研究チームは、ナルシストの傾向と後知恵バイアスおよび逆の後知恵バイアスとの関連を調べるため、架空の採用試験を使った実験を行いました。

まず研究チームは、オンラインで集めた被験者に対してアンケート調査を行い、「自分は他の人より優れている」「自分は特別だと思う」といったナルシスト的な傾向について分析しました。次に、アンケート回答後の被験者にアンケートとは別の研究であると偽って、架空の採用試験に採用担当者として参加するオファーを出しました。それぞれを別の研究だと被験者に思わせることで、アンケート調査の結果が次の実験に影響しないようにしたとのこと。

架空の採用試験を用いた実験にも参加した被験者らは、架空の仕事に応募した求職者の情報を読み、誰を採用するのかを判断しました。その後、研究チームは被験者が採用した人物がどれほどのパフォーマンスを発揮したのかを伝え、被験者が下した判断が正しかったのかどうかを尋ねました。

実験の結果、ナルシストの傾向が強かった人は、たとえ自分の予測が間違っていたと判明しても、「自分は別の決断を下すべきだった」と認める可能性が低いことが判明。この傾向が出た詳しい理由については不明ですが、ナルシストの傾向が強い人は自分の予測が失敗した場合にそこから学ばず、将来の判断を改善しにくいことがわかりました。



不測の事態や不運な出来事によって物事が失敗した場合、ナルシストは「この状況で一体自分に何ができたというのでしょうか?」「誰もこの結果を予期できませんでした!」と訴える傾向があると研究チームは指摘。これはナルシストの人々が自分の失敗を素直に認めるのではなく、自分の失敗を「宇宙の予測不可能性」のせいにしているためだとのこと。

研究チームは、「ナルシストは自己賛美と自己防衛の傾向が強いため、彼らは予測が正しかった場合には強い後知恵バイアスを示し、予測が失敗した場合には逆の後知恵バイアスを示します。これらの傾向は、いずれも学習と将来の意志決定に悪影響を及ぼします」と述べています。

実際に後知恵バイアスや逆の後知恵バイアスが強く働いた事例として、研究チームはアメリカのドナルド・トランプ大統領の例を挙げています。トランプ大統領は「イラク戦争の結果を誰よりも正確に予測していた」と主張する一方、オバマケアの撤廃を目指して提出された代替法案「アメリカン・ヘルス・ケア・アクト」を撤回した際には、「これほどヘルスケアの問題が複雑だったとは誰も予想できなかった」とコメントしました。

また、リーマン・ショックに端を発する世界金融危機について、ウォール街の銀行家らは「金融危機を予測することは不可能だった」と主張しました。ところが、後に発足した金融危機調査委員会は、「今回の金融危機は事前に予測可能だった」と指摘。銀行家らは逆の後知恵バイアスを働かせ、失敗から学ぼうとしなかったとのこと。



失敗を予測不可能だと切り捨てると失敗から教訓が得られず、将来の意志決定プロセスを改善することもできません。その一方で、「自分は悪くない」「どうしようもない出来事だった」と思うことで、自己を否定したりストレスを感じたりすることを避けられるのも事実です。研究チームはこの自己防衛的な逆の後知恵バイアスが、ナルシストの人々が一般的な人々よりも幸福でストレスが少ないという結果をもたらしている可能性があると主張しました。