【昭和】に生まれ【平成】で婚姻歴がなく【令和】を迎えた男女のリアル結婚観
誰がネーミングしたのか、人気男性アイドルグループの名前をもじって“平成ジャンプ”と呼ぶらしい。インターネット上の一部で、昭和生まれで結婚が平成をジャンプしてしまった男女を指す。
結婚する・しないは個人の選択だから、昭和生まれの未婚者すべてに当てはまるわけではない。しかし、婚活中の該当者は不愉快に感じることも少なくないのではないか。そんな推察をきっかけに、実際に平成ジャンプしてしまった男女5人の婚活事情と胸の内を聞いた。
半分、あきらめている
東京都目黒区の池田薫さん(45、仮名=以下同)は約10年前に東北から上京。女優業のかたわら、飲食店のアルバイトなどを掛け持ちして生計を立てている。
「もともと若いころから結婚願望はあまりなかった」
と池田さん。
その理由は、愛情のある家庭に育ってこなかったからだという。父親は酒乱でDVだったため、中3のときに母親と離婚した。
「私も父が大嫌いでした。最後に父が入院していた病院へ母と行くとき、おにぎりを持参して車の中で母が“食べなさい”と言ったのですが、“会って別れてからじゃないと食べない”と言い張ったことを覚えています」
一方の母親は、常に池田さんに優等生であることを求めた。
「昔はその期待に応えるように生きてきて、反抗期がなかった。30歳を過ぎて遅れて反抗期がきた。ひとりっ子ですが、両親から愛されて育ってこなかった。片手ぐらいは男性と付き合ったことはありますが、私は甘え下手で、恋愛が苦手。いつも嫌われたらどうしようと考えていて、それが相手には重いんでしょうね」
婚活は、婚活アプリを1回やった程度。婚活パーティーに参加したことも結婚相談所へ行ったこともない。
「でも、ずっとひとりは寂しいので、これから先、いい人がいたらとも思う。私のような子どもに育つとかわいそうなので子どもは欲しくないですが、相手がどうしても欲しいというのなら、この年でも頑張りますが……」
平成ジャンプという言葉については、
「半分、あきらめていて、婚活も熱心にやっていなくて、この年ですから、うまい言葉だと思った。でも、婚活を真剣にやっている人には微妙な言葉かも」
と気遣った。
神奈川県三浦市で介護施設事務長をやっている藤井秀樹さん(51)は気さくでまじめな性格だ。結婚については、
「まだあきらめているわけではないですけどね」と話す。
金が貯まってしょうがない
30〜34歳のころは合コンに15回ほど行った。
「大学時代の先輩や同期が盛んに合コンをやっていて、よく参加したんです。私も2、3回は自分で主催して合コンを開きましたよ」
そのうち2回は女性とのデートにこぎつけた。しかし、いずれの女性とも恋仲になることはなかった。
「うちの合コンはまじめで、女性を誘って2人で消えるという男性はいなくて、男性だけで2次会で反省会をやるんです。そのときに主催者に聞けば、相手の電話番号はすべてわかる。1次会で話が合っていい娘だなと思った女性とデートしたのですが、合コンのときとは違って、話が弾まないというか、反応が冷たいというか……」
以降、周囲はどんどん結婚していって、合コンに誘われることはなくなっていった。現在は親と暮らす。
「結婚を考えているので一戸建てを新築し、1階が両親、2階が私と2世帯住宅にしたんですけどね(笑)。父が数年前に他界したので、各階に1人ずつで住んでいます」
食事はほとんど職場ですませ、酒を飲むこともほとんどない。ギャンブルは競馬を年に2回ほど。
「金を使うことがあまりないので、金が貯まって貯まってしょうがないですよ」
と苦笑する。
どういったケースならば結婚はありうるのか。
「職場での立場上、気になる女性スタッフだけに声をかけるのはセクハラ、パワハラになりそうで難しい。女性スタッフのほうから“飲みに連れていってください”などと積極的にアプローチされれば別ですが」
あるいは、入所されているお年寄りの家族は……。
「その子どもさんといっても50代ぐらいですからねぇ。介護士ではないので、入所者の家族と深く関わることもありませんから」
藤井さんの理想の女性は、デビューしたころの高橋由美子のような可愛らしくて優しい人。35歳ぐらいまでの女性ならばベストという。
700回、1万人の男性と会っている
東京都中野区に住む監査法人契約社員の上岡美佐さん(31)は、3年前から婚活パーティーに週5回の割合で参加している。
「土日に各2回ずつと、平日に1回で計5回です。たぶん700回、およそ1万人の男性と会っていると思います。パーティーの参加費は、女性の場合は無料から3000〜4000円ぐらいですが、レベルの高い女性は(男性も)、主催者側から“次回はタダでいいですから出ませんか”と声をかけられる。そういうのが結構、多かったのですが、30歳をすぎたら、グンと減ってきました」
とうなだれる。
パーティーは通勤定期券で行ける範囲の場所に限定しているというが、それでも衣装代や美容院など膨大な費用と時間を費やしている。
「20代半ばまでしょうもない“ひもDV男”に引っかかってしまって、金銭面などで苦労しました。その男性と別れて、最初は30歳までに結婚して、子どもを産みたいと思っていましたから必死でしたね。いまも、もちろん必死ですけど」
高校時代に母親を亡くして寂しい思いをしたことや、5歳離れた兄がすでに結婚していて幸せな家庭を築いていることも結婚願望を増幅させているという。
婚活パーティーでは、いままで5回カップリングしたが、嫌な思いをすることが多くて恋愛まで発展しなかった。
「身体目的の男が多いんですよ。初デートで“チュッチュしていい?”“手をつないでいい?”って言われることが多い。夜から誘って、いきなりカラオケのような個室に連れて行こうとしたり、終電がなくなるまで延長してホテルに泊まろうとするんです。それから、食事代を割り勘にするセコイ男も多くて、イヤになっちゃいますよ」
平成ジャンプについては、「よくできたネーミング」と笑ったが、そうも言っていられないと思った。
「女は常に近いところに目標を設定しているもの。平成のうちにとか、東京五輪までにとか、35歳までにとか。令和になったので、次は五輪。そのときはひとりでテレビで見るのではなく、好きな人と一緒に見たい。
年をとると妥協が必要だとはわかっていますが、NGポイントも増えていくんです。例えば、酒、タバコはダメとか、バイクは危ないからダメとか、住宅ローンが組めない人はダメとか」
と複雑な思いをのぞかせる。
アプリでの婚活事情
婚活の場をパーティーからアプリに切り替えたのは、杉並区在住で不動産関連会社の浅野雅美さん(36)だ。
「結婚相談所に比べればパーティーは手軽ですが、時間とお金、労力を考えるとうんざりです。10回ほど参加しましたが、婚活アプリに切り替えました。いろんなアプリがあって、相手にメッセージを送るには課金が必要なものもあるんですが、私は女性が無料のアプリを使っています。もちろん、婚活パーティーよりも身体目的の男性は多いかもしれませんが、婚活パーティーより相手の幅も広い。だから、そこを女性が慎重に見極めるしかないんですよ」
眼力が試されるという。アプリの登録の際、写真やプロフィールは盛ったものが多いと考えておく。女性は顔写真やその髪型を写真修正アプリで盛ったりするが、男性は顔出しせず動物や植物の写真でごまかすという。自分の年収もかなり上に設定している。
「婚活パーティーでもアプリでも感じるのですが、最近は女性の学歴を重視する男性が増えてきているんですね。つまり、高収入のエリート男性以外は、共働きじゃないといい暮らしができない時代になってきているかなと」
平成ジャンプと呼ばれることには抵抗がある。
「女は男と違って、恋愛にはいつも真剣なんです。一部の例外を除くと、結婚を前提としたお付き合いしか考えられないんですよ。それを茶化すような言葉じゃないですか。許せないですよ!」
浅野さんはいま、婚活アプリで出会った2人目の男性と正式な恋愛を始めるかどうか思案中だという。
同じく婚活アプリを1年前に始めたのが千葉県柏市在住の私立高教師・大坪讓治さん(31)である。
「平成ジャンプは初めて聞いたとき、ドキッとしましたね。うちは両親とも20代で結婚して、20代のうちにボクが生まれています。両親も母方の祖父母も仲がいい。祖父母宅にいとこが集まるとき、家庭の温かみをしみじみ感じるんです。だから早く結婚したいと思っていた。ずっと以前から、34歳までには仕事も家庭もちゃんとしていたいなということが頭にあって」
大坪さんはアプリにのめり込んでいるわけではない。仕事が忙しいときは婚活せず、費用は最高で月4000円程度。2人の女性とマッチングして実際に会った。
「でも、思っていたのとイメージが違っていて、また会おうという気にはならなかった。もともとボクは恋愛下手なところがあって、彼女がいたことはありますが、長く続かないんです」
両親に対して「いい結婚相手を紹介してよ」と、しきりにお願いしているという。
「妹が2人とも美人で、いとこ2人も美人なんですね。ですから、みんなで集まったときに遜色のないぐらいの女性がいいですね」
相当にハードルが高い。しかし、大坪さんはイケメンだから決して不釣り合いではない。外見以外で、女性に求めるものは何か。
「父が九州出身なので亭主関白なんですね。母はそれに従って、夫を立てる感じ。そういう環境で育っているので、しゃしゃり出たり、男にダメ出しする女性は苦手です。職場の女性教師は気が強い人が多いので、ケンカになりそうです」
さて、縁結びで有名な都内のパワースポットに足を運んだ。大勢の男女が訪れ、2日間粘って取材のお願いをしたが、話をしてくれたのは女性2人連れだけ。いかに婚活がナイーブな問題かということを再認識させられた。
その2人はいずれも「離婚歴あり」だったため、平成ジャンプではなかった。2人とも40代のシングルマザーで「入籍は別として、将来、一緒に過ごすパートナーは欲しい」と口をそろえた。
実は筆者も平成ジャンプのひとり。結婚がすべてではないと思っているが、仲のいい夫婦やカップルを見て温かい気持ちになることも。自分のことはともかく取材に応じてくれた婚活中の男女が幸せをつかむことを切に願う。
やまさき・のぶあき 1959年、佐賀県生まれ。大学卒業後、業界新聞社、編集プロダクションなどを経て、'94年からフリーライター。事件・事故取材を中心にスポーツ、芸能、動物虐待などさまざまな分野で執筆している