立ち食いそば屋さんで、「どうぞごゆっくり」と言われると、くすぐったいような居心地の悪さを感じる。食事を立ち食いそばで済ませるぐらいなのだから、「ごゆっくり」する人がかなり例外的なはずである。僕は食べるのがひどく遅いほうで、立ち食いそば屋でも牛丼屋でも、後から入ってきた人に必ずと言っていいほど抜かれる。それでも、お店にいるのは10分ほどだ。

　立ち食いそば屋さんでお客に「ごゆっくり」されたら、お店は困ってしまうだろう。商品を提供する際に添えるものとして「ごゆっくり」は無難なのだろうが、個人的には言葉だけがぼんやりと漂っているような気がしてならない。「それ、ホントに必要なのかな」と思ってしまう。

　僕が部活でサッカーをやっていた１９８０年代あたりには、「シュートで終われ」と言われたものだった。おそらくは中途半端なボールの失い方をしてカウンターを受けないためで、得点につながらなくてもいいからひと呼吸入れるためでもあったと想像するのだが、その結果としてゴールにつながったケースはほとんどなかった。ミドルレンジのこぼれ球を思い切りシュートして枠を大きく逸れる、というのがお決まりのパターンである。

　２０１９年のサッカー界でも、「打って終われ」的なシーンを見かける。イマドキの表現では「攻撃を完結させる」とか「やり切る」と言われ、20世紀当時の僕らよりも明確な目的意識がそこにある、と感じさせる。

　そうは言っても、結果は変わらない。ペナルティエリア外から思い切り良く──一見して確率の低いトライでも「思い切り良く」と捉えられるところに問題がありそうだが、いずれにしても中長距離からの確率の低いシュートは、批判を免れることが多い。

　３月26日に行われた日本代表対ボリビアの試合でも、大きく枠を逸れていくシュートがあった。スタンドからため息が漏れたが、ブーイングにはつながらなかった。

　ヴィッセル神戸のポドルスキとか柏レイソルのクリスティアーノのように、パンチ力と精度を兼ね備えたシュートの持ち主ならまったく問題はない。日本代表なら中島翔哉はシュートレンジが広い。しかし一般的に考えれば、“ミドルシュートの名手”といった形容が当てはまる日本人選手は少ない。

　だとすれば、「攻撃を完結させる」といったカッコイイ表現は好ましくない、と僕自身は思うのだ。立ち食いそば屋さんで「どうぞごゆっくり」と言われるような居心地の悪さを感じる。「それ、ホントに必要なのかな」と思ってしまうのである。

　確率の低いミドルシュートを打つぐらいなら、僕は攻撃をやり直したほうがいいと考える。練習でもほとんど決まらないような距離から打つなら、何度だってやり直したほうがいい。シュートを打てるタイミングや場所を探っているうちに、ボールを失ってもしかたがないと思う。決定力不足の具体的な解決方法としても、はるかに現実味があると思うのだ。