保護猫カフェ「ネコリパブリック」の岐阜店。店内は落ち着く雰囲気の古民家風で、猫たちもしっくりなじんでいる(写真:ネコリパブリック)

空前の猫ブームという言葉も、もはや決まり文句の感がある。猫の人気にあやかったビジネスも活発だ。ニーズがあるところに商機を見いだす、その風潮は今も昔も変わりない。

一方で、最近、変化しつつあるのが猫に関するボランティアだ。ボランティアとは、捨て猫、野良猫を保護して飼い主を探したり、むやみに増えないよう、去勢避妊手術を行って元の場所に戻す(TNRという)活動などのことだ。昔から、動物愛護の精神から、または猫が好きな人が、自分のお金や時間を費やして必死に行ってきた。しかし最近、その猫愛には変わりないものの、ビジネスの視点を取り入れる団体を見かけるようになった。
今回はそうした猫の保護活動を行う団体と、ペットにまつわるビジネスを営む企業として島忠を取材。猫ビジネス・猫ボランティアの今を調べてみた。

「保護猫を家族にする」という選択を広めたい

2014年と、比較的最近立ち上げられたのがネコリパブリック(通称、ネコリパ)だ。同社の戦略は、保護猫という存在を世の中に広め、ブランド化していくこと。


ネコリパブリック代表取締役の河瀬麻花氏。2022年2月22日までに猫の殺処分ゼロを掲げる(筆者撮影)

「保護猫を家族にする、という選択を広めていきたいんです。今、多くの猫が殺処分されている現実を知っている人は少ないですが、もし知ったら心を痛める人が多いと思います。そして今の猫ブームをブームではなく、“保護猫を家族にする”という文化にしていきたい」(ネコリパブリック代表取締役の河瀬麻花氏)

河瀬氏は出身地の岐阜県で保護猫ボランティアのサポートをしていたが、身銭を切って活動をしながら「野良猫を増やしている」との誤解を受けていると感じることもあった。そんなボランティアたちの苦労、そして疲弊していく姿を見続けてきた結果、保護猫活動のビジネス化を思い立ったという。資本金は600万円。さらに、新規ビジネスをサポートする県の助成金制度も利用した。起業にあたっては、実家の家業で携わっていたeコマースやカフェ事業などの経験が役立った。

現在、年に約3万5000匹(平成29年環境省調べ)の猫が殺処分されているが、同社は2022年2月22日までに、行政による殺処分をゼロにすることを目標として掲げている。

そのための活動は多岐にわたる。“自走型”保護猫カフェのほか、「ネコ市ネコ座」といったイベント、SNS、オリジナル商品の販売などだ。保護猫カフェは第1号店の岐阜店のほか、東京都内に3店舗、大阪、広島にそれぞれ1店舗を展開。また、オリジナルグッズ販売専用のストアも都内に1拠点、運営している。自走型と称するとおり、活動をビジネスとして成立させ、継続を目指すところに特徴がある。

猫の国という、テーマパークのような空間

そのため、同社では通常の保護猫カフェとは違う仕掛けも取り入れている。ネコリパの猫カフェを訪れる人は、“猫の共和国”に入国することになる。パスポートやビザが発行されるほか、保護猫のなかから大統領を選ぶ“大統領選挙”の選挙権をも与えられる。大統領はもちろん猫である。猫の国という、テーマパークのような空間だ。

ただし保護猫カフェなので、猫共和国の住民たちはお客の里子となってもらわれていくことが前提となっている。


ネコリパブランドのフラッグシップ店「NECOREPA/STORE」。オリジナルグッズを含め、デザイン性に優れた商品力の高い品ぞろえに注力している(筆者撮影)

ちなみにネコリパでは、自社で保護活動を行っているわけではなく、地域の保護団体と連携し、里親募集中の猫を預かる形で保護猫カフェを運営している。カフェではオリジナル商品を購入することもできる。猫用のペットグッズや、猫デザインの雑貨などだ。

「商品力を高めるため、商品開発には力を入れています。海外の商品を仕入れてくることもありますが、商品デザインはネコリパの活動に共感してくれるデザイナーにお願いしています」(河瀬氏)

一般の人にもアピールする商品をそろえており、2017年からはマルイでのポップアップストアを継続して展開している。


2018年7月に開催された保護猫イベント、ネコ市ネコ座東京ドームシティ。保護猫譲渡会のほかグッズ販売、トークショーなども行われ、約6000人を集めた。ネコリパの重要な活動資金源となっている(写真:ネコリパブリック)

「ネコ市ネコ座」は猫グッズの販売や、保護猫にかかわる展示、保護猫譲渡会などが行われるイベントで、収益は保護猫活動にあてられる。開催は不定期で、規模も、協力企業の店舗内で行うものから、イベント会場を借り切って行うものまでさまざまだ。

2018年7月には東京ドームシティで3日間にわたり開催し、約6000人の来場者が訪れた。10月13日、14日には三重県にて開催。2019年2月には神戸での開催が予定されている。

ネコ市ネコ座では「市」=商品販売と、「座」=情報発信の場を併せ持っているところがポイント。東京ドームシティ開催回では、保護猫ボランティア団体が討議するサミットも行われた。ふだんは別々に活動している猫の保護団体同士が交流し、情報交換する場ともなっている。

ネコリパの特徴をもう1点付け加えるとすれば、クラウドファンディングを活用していることだ。

ネコリパの大きな転機となったのが2016年、大阪心斎橋店のオープン。“ネコビル”と呼ばれ、ビルの1階から5階までが丸ごと猫のための施設だ。実はこの大阪店は2代目。その前の大阪1号店は、“多頭飼育崩壊”現場の部屋を活用するための策としてオープンしたものだった。

多頭飼育崩壊とは、飼い主が自分で管理できないほど多数の動物を集め、繁殖を放置するなどして、飼育が不可能となること。保護猫のボランティアでは、この多頭飼育崩壊により多数の猫を引き取るケースも多いという。ただ、上記大阪の例は、保護活動をしていた方が亡くなったことが発端であり、一般的な多頭飼育崩壊とは事情が異なるという。

幸い、多頭飼育崩壊の現場を猫カフェにするアイデアは成功し、2年後には新店舗の検討をするほどになった。

ただ、ビルを丸ごと借りるとなると、これまでにないほど大きな費用が必要である。このとき利用したのがクラウドファウンディング。結果、当初の目標額よりさらに上の目標(ストレッチゴール)である1800万円超の金額が集まったという。

ネコリパの新ブランドNECOREPAのフラッグシップ店を蔵前にオープンしたのも、別に立ち上げたクラウドファンディングによるもの。そのストレッチゴール562万円の達成により、11月1日には、岐阜に飲食ブランド「さび食堂」を開始した。「さび」は猫の毛柄の一種で、黒と茶がまだらになった模様のこと。同店ではねこまんまや、岐阜名物の土手煮、鶏ちゃんなどが味わえる。

「クラウドファンディングは購入型を利用することも多いです。寄付という感覚でなくても、もらえるグッズがかわいいからとお金を投資してくれる人もいます」(河瀬氏)

今後もクラウドファンディングを利用した出版社の立ち上げを予定しているという。

日本の「保護猫カフェ」の元祖

日本での保護猫カフェの元祖とも言えるのが、NPO法人の東京キャットガーディアン(以下、TCG)だ。

代表の山本葉子氏は2002年より、自宅で約30匹の猫の保護を開始。2008年には常設の猫の譲渡会場として、猫カフェを兼ねた開放型のシェルターを立ち上げた。


TCGの大塚スカイシェルター。天井も高く開放感ある空間で、猫たちが安心してくつろいでいる。こうしたシェルターに保護されている猫の場合、過去に不幸な体験をした猫も少なくない(写真:東京キャットガーディアン)

ビルの5階に設けられた「大塚スカイシェルター」は、天井が高く開放感のある空間。大きな窓から入る外光のなか、たくさんの猫たちが思い思いにくつろいでいる。時期によって異なるが、この団体施設には合わせて380〜450匹の猫が暮らしている。カフェスペースに出ているのは大人の猫と白血病ウイルスチェックが終わった子猫たちだ。生後2〜4カ月までくらいの子猫のスペースは別に設けられている。

山本氏は「保護猫活動をビジネスの手法で行っている」とはっきり言い切る。

「ビジネスでないと続かないんです。ビジネスとして運営できれば、将来、私がいなくなったときも、保護猫の活動を継続させることができます」(山本氏)

猫を救うための、同団体の活動も幅広い。シェルターのほか、これも日本初で猫付きマンション、猫付きシェアハウスを運営。猫グッズや猫トイレ砂、キャットフードなどの通販のほか、ビル1階にリサイクルショップも営む。NPO法人として初めて、ペット保険代理店の資格も取得している。


東京キャットガーディアン代表の山本葉子氏。シェルターの運営のほか、ショップ経営、猫付き不動産、ペット保険取り扱いなどさまざまな仕事を通じ、猫を助ける日々を送る(筆者撮影)

当然山本氏だけでは運営していけないので、シェルター運営のスタッフを8人、リサイクルショップの担当者2人、広報担当、経理担当、獣医師などを雇用する。手広く行う事業は黒字ではあるが、譲渡活動の面では、寄付を受けたりボランティアの協力も得ている状態だ。

なお、同団体のシェルターは猫カフェ型ではあるが、一般の猫カフェとは行政上の扱いが異なる。一般の猫カフェは(保護猫カフェであっても)、営利目的の第一種動物取扱業となる。猫を展示して飲み物料・入場料などを得るためだ。

一方、スカイシェルターの場合は営利を目的としない第二種動物取扱業として登録されている。シェルターを訪れる人には施設運営のための寄付をお願いしているが、入場料や飲食代などは設定されていない。第二種として登録した理由は、公の保護施設から受け入れる保護猫を扱うため。行政では、第一種動物取扱業者には動物を譲渡できない決まりだからだ。

猫と不動産を組み合わせた「猫付きマンション」

「寄付を受けているからには、数字を報告しなければならない」という山本氏の方針のもと、TCGのホームページでは猫の受け入れ数・譲渡数・死亡数を毎月掲載。活動開始した2002年以来、2018年9月までに譲渡した数は6500匹以上、避妊去勢手術数は8800匹以上にのぼる。


TCGの「猫つき物件」。キャットウォークが取り付けられている(写真:東京キャットガーディアン)

同団体の運営する事業のなかでも、ユニークなのが猫と不動産を組み合わせた「猫付きマンション」や「猫付きシェアハウス」である。「猫付きマンション」では、マンションの住人に猫を預かってもらう仕組みづくりを担当し、「猫付きシェアハウス」はフランチャイズ本部として広報・運営管理を一手に引き受けている。


フェミニンな設えのシェアハウス。猫付きシェアハウスを希望するのは女性が多く、物件数も女性専用のほうが多いという(写真:東京キャットガーディアン)

シェアハウスについては、5〜7部屋という規模が多く、猫はすべての部屋に出入りが自由だ。数匹の猫を、住人全員で世話するという仕組みをとっている。キャットフードやトイレ砂などは、共益費に含む形でTCGが供給している。

TCGとしては、これらの物件が保護猫の一時的なシェルターとして利用できるメリットがある。また、猫と暮らした入居者が里親になり、退居するときに連れて行くケースも多いそうだ。このように、猫付き住宅という考え方を広めることで、猫の居場所を増やすことができると考えている。また、多頭飼育崩壊の受け入れ場所にもなっているそうだ。

ホームページ上で運営する情報ポータル「しっぽ不動産」を通じ、猫との暮らしを望む入居者と、賃貸住宅オーナーのマッチングも行っている。また、猫ドアやキャットウォークの設置など、猫が快適に暮らせるようなリフォームのアドバイスや管理業務も行う。

日本では猫を飼う環境が整っていない

マンション・シェアハウスなどを皮切りに、猫と人とが無理なく暮らせる仕組みを考え、適正な飼育者の増加を図るのが狙いだ。

「日本では、ペット可物件が全体の17%という調査結果もあります。このように猫を飼う環境が整っていないことが、捨て猫や野良猫が増える一因となっています」(山本氏)

なかでも公団住宅はペット不可とされているが、山本氏のこれまでの経験によると、多くの住人が内緒で飼っており、行政も黙認している実態がある。こうした住宅で飼い主が病気あるいは亡くなるなど、飼えなくなった際、また行き場のない猫が増えて、保護団体などに連絡が来ることとなる。

猫付きマンションは都内を中心に約80件、シェアハウスは都内に4件、大阪に1件が稼働中だ。

猫ブームということもあり、付加価値アップのために猫付き不動産に興味を寄せる物件オーナーは多い。月に一度、オーナーのための勉強会を開催しているが、多いときは20人ほどの受講者が訪れる。そのなかの1割程度は不動産関係者だという。猫付きの不動産がビジネスとして注目されているということだ。

「ただし猫に特化した住宅を経営したい、というオーナーさんは多くいらっしゃるものの、かなりの数、条件が合わなくて断らざるをえない状況です。というのも、ビジネスとして成り立たせるためには、立地のよさなど、まず物件として優良でなくてはならないためです」(山本氏)

特にシェアハウスは他者と暮らすのが前提であるため、選択肢が狭まってくる。交通の便がよいことは第一条件となるそうだ。

このように、TCGでは非常に大きな時間、手間、お金をかけ、猫と人の共生社会を目指している。究極の目標は「野良猫がいない社会」だそうだ。

「今、野良犬を見かけることは都市部ではほとんどなくなりました。猫も同様になるのが理想です。それに成功しかけているのが『猫の多い街』で有名な谷中です。看板猫がいる店などは多いですが、外を歩いている猫は意外にいない。避妊去勢手術とその後の管理が徹底されているからです」(山本氏)

猫の殺処分数が10年前の20万1000匹から3万5000匹へと減少し、保護猫についての理解が少しずつ進んでいる現在の状況についても、「ボランティアさんが持ち出しで活動しているおかげ」と前置きしつつ、「まだまだこれから」と厳しい見方をしている。10数年、さまざまな手段をもってして、数千匹という数の猫の居場所をつくってきた山本氏だからこそ、殺処分ゼロという目標の難しさが具体的に感じられるのであろう。

島忠はなぜ「競合」を支援するのか

最後に、これら猫を救う団体たちをつなぐ存在として、ペットに関する事業者の取り組みを紹介する。島忠では近年、一部の店舗で保護猫の譲渡会を行うほか、ネコリパの商品コーナーを設けるなど、保護猫支援活動の取り組みを行っている。

そもそも島忠はホーム用品やペット用品のほか、生体販売、つまりペットそのものの販売を行う業者。そのため、ビジネスの視点から言えば、ネコリパやTCGのような保護猫を譲渡する組織とは競合関係になるはずだ。なぜ、支援活動を行うことになったのだろうか。


島忠でペット用品を担当する山下勝利氏。日本での殺処分の現状を知ってから、保護猫活動に興味を持つようになったという(筆者撮影)

「ペット用品部門の仕入れ担当者になるまで、猫が殺処分されている現状について知識がなく、また本当の意味で関心を向けていませんでした。

しかしさまざまな記事を読んだり、保護猫活動について調べるうちに、『何かできることがないか』と考えるようになりました。TCGの山本さんも著書に書いているように、『足りないのは愛情でなくシステム』。私だけでなく、ペットにかかわる現状が知られていないことが、動物保護のシステムが広まらないひとつの原因だと思えたのです」(島忠ホームセンター商品部の山下勝利氏)

試みとして2017年12月、本社のある埼玉の保護猫団体からの依頼で、店舗での保護猫譲渡会を開催した。すると客から大きな反響があり、島忠の取り組みを保護猫活動家がつづったSNSには、多くの「いいね!」が寄せられたという。

これを機に島忠では、保護猫の支援につながる取り組みが始められるようになった。首都圏を中心とする約10店舗で、月に1回程度の譲渡会を行う。なお、保護団体から里親に猫を譲渡する場合、猫の手術費や運営にかかったお金2万〜3万円程度を支払ってもらうのが一般的だ。とはいえ、ペットショップやブリーダーから入手すれば10万円以上は当たり前にかかるので、はるかに安い。

島忠にとって、猫を無料で譲渡する団体はライバルの関係にあるとも言える。実際、「なぜ競合を支援するのか」という目を向けられたこともある。

保護猫活動とペットショップは共存できる

しかし、「保護猫という選択肢をお客様に伝えることで、動物を家族にする人が増える。このことには意味があります」と山下氏は言う。

というのも、日本でのペットの飼育率は横ばい、減少傾向にある。ペットを飼いたいという人がこのまま減っていけば、ペットにかかわる事業は先細りになってしまう。

また、年配の人には一般的に子猫は販売していない。20年生きる猫もおり、飼い主が病気になったり、先に亡くなってしまった場合、行き場をなくしてしまうことが考慮されている。そうした、年齢を理由に子猫が購入できない客に、保護猫譲渡会を案内して成猫の里親になってもらうこともある。

「保護猫活動の記事などを読んでいると、どうしてもペットショップが悪者になっていることが多いですね。しかしそうではないということを伝えていきたい。保護猫の活動とペットショップは共存できると思います。ボランティアを応援するなど、業者として今できることに力を入れたいと思っています」(山下氏)


島忠店内のペットフード棚。2018年10月から「お買い物でネコダスケ」プロジェクトを開始。猫フードの売上金額の一部がネコリパに寄付される(筆者撮影)

業界内でも保護猫支援への理解が進んでいるようだ。島忠では、ペット用品のメーカーの協力を得て、2017年からペット用品の売り上げの一部をネコリパに寄付するキャンペーンを数回にわたり行ってきた。2018年10月からは、それをさらに本格化し、CSRとして行っていく「お買い物でネコダスケ」と称するプロジェクトを開始している。

動物保護や共生社会の実現という、社会性の高いビジネスだけに、保護猫ビジネスはSNSやクラウドファンディングなど、新しいシステムとの親和性が高いようだ。しかしこれだけでは、社会全体を変えていくには難しい。島忠のようなペット用品の事業者や、不動産の企業といった既存の企業と手を結ぶことは重要だ。このことは、法律の問題に関しても言える。

今回は触れなかったが、猫の保護において、関連する法律や規制が障壁になることも多い。山下氏は、動物保護先進国の法律や状況についても学びたいと考えているそうだ。企業が率先してこれらを行っていくことは、社会が変わる大きな助けとなるだろう。