坂本龍一氏にとっては黒歴史?『王立宇宙軍 オネアミスの翼』楽曲制作秘話を岡田斗司夫が語る

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 5月6日放送の『岡田斗司夫ゼミ』にて、アニメ制作会社ガイナックス元代表取締役社長の岡田斗司夫氏は、音楽家の坂本龍一氏のインタビューに触れ、坂本氏が映画音楽を担当したものの“なかったこと”にしている劇場アニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の、制作時の裏事情について語りました。

岡田斗司夫氏。

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岡田:
 音楽家の坂本龍一さんが、ニューヨークでのあるインタビューの中で、「アニメ映画の音楽に関わったことについて」ということで、こんなふうに話されていました。

「今から35年前に担当したことがあるんですが、あまり気に入ってないんです(そのため題名も言えないらしい)。現在は韓国のプロデューサーも参加し、手塚プロダクションで手掛けられているアニメ映画の音楽を担当していて、その作品は今年の後半期に公開される予定です。あと、実は2,3年前に高畑さんと会って、音楽の担当を任されたんですが……僕の音楽がシリアス過ぎて、結局解雇されてしまったんです」と意外な事実を明かした。

 ――とのことなんですけど。

 まあ、僕が引っかかったのは、やっぱり「35年前に担当したアニメ映画があるんだけど、あまり気に入ってない」という部分なんですよ。

 ここで「(そのため題名も言えないらしい)」とインタビュアが書いてるということは、ニューヨークでのインタビューの時に、聞いたんだけど答えなかったということなんですね(笑)。

 いやあ、なんか悔しいな、と。そのアニメ作品とは、もちろん、ガイナックスが作った『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のことなんですけども。

岡田氏がプロデューサーを務めたガイナックス制作の劇場アニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(画像はAmazonより) 坂本龍一氏も制作当初は作品を評価してくれていた

 なぜ、僕が悔しいのかというと、実は『オネアミスの翼王立宇宙軍』の音楽打ち合わせの時、坂本さんはすごいノリノリだったからなんですね。

 「こういうふうにしたい、ああいうふうにしたい」って、坂本さんも一生懸命に言ってたんですよ。打ち入りパーティの時もそうでしたし、打ち合わせもすごく和気あいあいと進んだんです。

 当時の、スポンサーだったバンダイや、あとは、広告代理店サイドの読売広告社の方からは、「岡田さん、坂本さんの機嫌がいいことを、あんまり本気にしない方がいいよ。坂本さん、知名度は高いけどアルバムが売れないんだよ。だから、アニメの力を借りて売りたいんだ」というふうに言われてたんですけど。

 でも、坂本さんは明らかにコンテをすごく読み込んでいたし、「ここのシーンにはこんな音楽で〜」って話してたから、僕は“擦り寄って来た”わけでは決してないと感じていました。

 坂本さんは「絵コンテを見て参加を決めた」というくらい『王立宇宙軍』という作品を評価してくれていたんですね。

劇場アニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』パッケージ裏のスタッフクレジットに「音楽監督:坂本龍一」とクレジットされている(画像はAmazonより)

 ところが、問題が生じました。

 どんな問題かと言うと、坂本さんは絵コンテを見て「よし、俺も参加するぞ!」と思ったあまり、絵コンテ通りの音楽をつけるって言ったんです。アニメの絵コンテというのは、まるでCMのように「この映像に何秒、この映像に何秒何コマ」というふうに、設計図がめちゃくちゃ細かいんですよ。

 どうも、テクノ出身というか、論理で音楽を作る坂本龍一という人は、そこにすごい可能性を感じて惹かれたらしいんですね。おそらく、「これを使えば映像と音との完全なるシンクロが実現できるんじゃないか?」という、坂本さんの思い込みも入ったんだと思うんですよ。

 これについては、僕や山賀博之も、最初の打ち合わせの時には「そうですよ! そうですよ!」というふうにノリノリだったんですけども。

 ところが、現実にアニメを作り出すと、アニメというのは出来上がってくるカットによって、アニメーターがカットに付ける演技も違ってくるんですね。なので、「コンテ通りに○秒」というふうに作られるわけではなくて、そこから微妙に尺が伸びたり縮んだりすることになるんです。

 そういう時、通常はどうするのかというと、音楽を担当する音響監督が切って詰めることになるわけです。例えば、「この音楽はこのタイミングで」と言われても、「もうちょっと前から流した方がいい」とか、「後から出した方がいい」というふうに、音響監督が調整するんです。

 だけど、それをやられると、坂本龍一さんとしては、「ちょっと待てよ! それはどういうことだ?」という話になる。


音響監督との間に生まれた“軋轢”

岡田:
 もちろん、そういう時に、坂本龍一さんと僕らが直に話して調整していれば、そこはなんとかなったと思うんですけども、坂本さん側も坂本さん側で、「ちゃんとこうやってくれよ!」という指示を、坂本さん自身が当時所属されていたヨロシタミュージックを通して話される。

 僕らの方も僕らの方で、坂本さんから直に話が来るんじゃなくて、ヨロシタミュージックから、音響監督であるグループ・タックの田代敦巳さんのところに話が来ることになる。

 そして、音響監督としては「“世界の坂本”とはいえ、たかだか音楽を担当した1人に過ぎない。俺は音響監督で、お前は音楽担当だ!」と……まあ、そこまで強圧的な方ではないんですけど。

 ある作品を統一的に作るためには、監督というのをトップにおいて、その他のスタッフは、それを助けるポジションでなければいけないという、当たり前ですけど、そういう考え方をされている方だったんです。なので、坂本さんはヨロシタミュージックの言ってくることを、パッパッと断ってたんですね。すると、ヨロシタさんのイライラも頂点に達してくる。

 坂本龍一さんが、実際にこの後、打ち合わせに来られなかったのにも事情があったんです。ベルナルド・ベルトルッチの『ラスト・エンペラー』のお仕事で、ロンドンと中国を往復していたんですよね。

 それを聞いたら、また田代さんが「ちょっと待てよ! 同じ映画音楽を担当していて、なんでお前はベルトルッチの映画には現場に行って、『オネアミスの翼』の現場には来ねえんだ!?」という(笑)。

 そんなふうに、何やら、それぞれのスタッフの間で、坂本龍一さんと監督の山賀博之以外のところでのトラブルが、ザーッと出てくる。その結果、グループ・タックの田代敦巳さんという音響監督と、ヨロシタミュージックの社長が激しくぶつかることになってしまったんですね。

 結局、ヨロシタとしては「コンテを変えるんだったら、最悪それでも構わない。最初に坂本が参加を決めた、あの素晴らしいコンテを変えるんだったら、それは仕方がないけど、「そのコンテから変えた映像を半年前に完全な形で坂本側に出せ! そうしたら、坂本はそれに従った完璧な音楽を作る!」と言ってきたんです。

 でも、俺らの方としては、もう公開日に完成が間に合うかどうかわからないと言ってる状況なんですよ。「ちょっと待ってよ、半年前に完璧な尺の映像を渡せと言われても、私達はあなた方の知っている“ハリウッド”じゃないんです!」という感じで(笑)。

音響監督に決定権を委ねた岡田氏

 これに対して、音響監督の田代敦巳さんからは「どの音楽をどの位置で入れるかの決定権は、坂本龍一にあるんですか? 田代敦巳にあるんですか? 岡田さんはプロデューサーでしょ? あなたが決めてください!」と言われて(笑)。

 もう、これ、どうしようもないですよ。こういう時になると、なぜか読売広告社のプロデューサーも、バンダイのプロデューサーも、ピューっと逃げてしまって。「ありゃー」と。まあ、そりゃそうだろうなとも思うんですけど。

 僕の方は、とりあえず、常に変わっている製作現場の状況は田代さんの方にも話していたので、「音楽の入り位置や抜け位置は、田代さんが全て決めていいです。その代わり、僕も山賀も、音と絵を合わせるダビング作業の時には、必ず立ち会って見ますから」という形に決めたんです。

 田代さんも、別に自分が権力を取ってやりたいという人ではなくて、「このままでは作品がバラバラになってしまう」と思ったからこその話なので、それで納得していただいたんですけども。

 だから、「音響監督の田代さんの意見で、ここは統一します」ということを、プロデューサーの僕が決めて、ヨロシタさんにも連絡したんですね。

 けれども、坂本さんは、この件があったからだと思うんですけど、以後の取材でも『王立宇宙軍 オネアミスの翼』に関しては、なんか黒歴史っぽくなってしまって、触れないようにというか、わりとなかったことみたいにされてるんですよね。これに関しての最終的な責任というのは、「田代さんでいきます」と僕が決めたことにあると思うんですけども。

 今回のインタビューでは、本当にムカッと腹が立っちゃったんですけれども、やっぱり最終的には僕の判断のせいなんですね。坂本さんに、いまだにこういうふうに言わせてしまっているのかと思うと、なんか『王立宇宙軍』という作品や、当時のスタッフに申し訳ないな、と思うところであります。

 もうずっと、この話は忘れてたんだけど、坂本さんのインタビューを見て、ふと思い出してしましました。

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#229表 岡田斗司夫ゼミ ゲスト『映像研には手を出すな!』の大童澄瞳さん!漫画やアニメについて語り合います!(4.64)

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