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マーク・ザッカーバーグは、今年の開発者向けカンファレンス「F8」での基調演説が、これまでとはまったく違ったものになることを理解していた。昨年登壇したときは、新製品や新しい技術の発表と、フェイスブックのヴィジョンについての話が大部分を占めた。

しかしそれ以来、ケンブリッジ・アナリティカ、フェイクニュース、米大統領選へのロシアの介入、Facebookを利用したヘイトスピーチの拡散といった、さまざまな問題が明るみに出ている。フェイスブックは謝罪を繰り返し、サーヴィス改善と透明性の確保に向けたゴールの見えない道を歩き出した。

今年のF8では、自らの会社が置かれている実存的な危機に近い状態を軽くあしらうことはできないだろう。ザッカーバーグもそれは分かっている。しかし、彼は新製品とヴィジョンの共有というF8の本来の機能も無視したくなかった。

ザッカーバーグは、「安全性とセキュリティ確保のために巨額の投資をするという決断を下すことは、難しくはありませんでした」と話す。「必要性は明らかだったからです。ほかに選択肢はありません。本当に難しい問題は、社会がわたしたちに求めるその他すべてのことについて、どうやって進むべき道を見つけていくかということです」

ザッカーバーグはF8の前夜、イヴェントの最終的な準備の合間に、こうしたことを語ってくれた。彼とは1時間ほど話をした。基調講演、新製品のいくつか、10時間に及んだ議会公聴会での証言で感じたこと、保守系の発言を「検閲」すべきなのか、コンテンツの監視を積極的に行う必要性といったことだ。そしてザッカーバーグは、「さまざまな問題を解決するのには3年はかかるでしょう」と認めた。

過ちを認めたザッカーバーグ

まずは基調講演から始めよう。ザッカーバーグはここで、クールなものを求めるファンと、フェイスブックのたゆまぬ進化にビジネスの成功を賭ける開発者のどちらの期待にも応え、さらに世間の信頼を取り戻すという難事をやってのける必要があった。「このカンファレンスはそのためにあるのです」と、ザッカーバーグは言う。

「わたしたちには安全性を確保する責任があります。神聖な選挙に介入があったこと、フェイクニュース、データプライヴァシーといったことは、すべてが本当に重要な問題です。一方で、ユーザーが期待するサーヴィスをつくり続けていく責任も存在します。現状における課題の一部として、どちらの責任も真剣に受け止めていくことが必要です。今年のF8は、これら2点のバランスがとれたものになるでしょう」

彼が最初にやったのは、非を認めることだ。8,700万人分のユーザーデータが流出したケンブリッジ・アナリティカの事件が明らかになってからの5日間、ザッカーバーグと最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグを見つけるのは、「黄金州の殺人鬼」[編註:カリフォルニア州で70〜80年代に発生した連続性的暴行・殺人事件の犯人]を探し出すより難しかった。

ザッカーバーグは過ちを認めた。「対応が非常に遅れてしまいました。何が起こったのか、詳細をすべて把握しようとしたためです。このやり方は間違っていました。細かいことはわからない状態でも、何か発言すべきだったのです。入念な調査によってすべてを確認した点では、正しいことをしたと思います。しかしもっと早く行動すべきでした」と、彼は話す。

基調講演では現在の問題を確認してから、それに対処するための新機能を紹介する予定だった。同時に謝罪の段階は終わらせようともしている。F8でザッカーバーグが直面するジレンマは、フェイスブックのより大きな問題というパラダイムだ。「悪いことをしたと思っているかどうかは問題ではありません。もちろん、悪いことをしたと思っています。しかし、わたしたちが世界に示さなければならないのは、『再発を防ぐためにこれをやっていく』という具体的な計画です」

ワシントンで過ごした時間の“副産物”

そこで登場するのが、ウェブやアプリの閲覧履歴などのデータを、ユーザー自身が消去できる機能だ。ザッカーバーグは、これをブラウザーのクッキーの消去と比較する。

この機能は、4月に議会公聴会の“電気椅子”で過ごした10時間の副産物のように見える。ザッカーバーグは公聴会での議論について、ほとんどがケンブリッジ・アナリティカ関連かロシア絡みになると考えていた。しかし実際には幅広い質問があり、多くはフェイスブックの運営の深部にまで迫ろうとするものだったという。

ザッカーバーグは「Facebookはわたしがつくったプラットフォームです。ですから、製品に関する質問には答えられるだろうと思っていました」と言う。だが、その見方は楽観的すぎたようだ。

「公聴会で気づいたことのひとつが、自分は細かいことは理解していないのだという事実です。例えば、広告システムで外部データをどのように使っているかといったことです。これは問題だと思いました。そこで、帰りのフライトで社内ミーティングを設定しました。みんなで話し合って、知らなかったことはすべて理解しようと決意したのです」

この補習授業が、履歴の消去という新機能につながったというわけだ。ワシントンで過ごした時間の成果は他にもある。ザッカーバーグは次のように語る。

「偏見に関する質問が予想より多くありました。社会がテック企業に対して抱く懸念を反映したものだと思います。IT企業の多くはシリコンヴァレーやシアトルといった非常にリベラルな地域を拠点に活動しており、このため政治的に偏ったものの見方をしているのではないかと心配しているのです。この不安がいかに大きいかということには、本当に驚かされました。わたしはFacebookはあらゆるアイデアが存在するプラットフォームであってほしいと、心から考えています」

どんなアイデアなのか、注意深く見守ることにしよう。

全方位への配慮ある発言

ワシントンでの出来はどうだったかと尋ねたとき、彼はこう述べた。「出来のよし悪しというとらえ方はしていません。重要なのは、あの場にいた人々が自分たちの仕事をやり遂げるのに必要な情報を提供するということでした」

情報を引き出すより、自らの力強い声を響かせることに熱心になっていた議員も多かったようだが、と切り返してみた。しかしザッカーバーグ(頭のいい男だ)はこの餌には食いつかず、「重要な質問をした議員と自分の考えを主張したいだけの議員の割合を考えれば、わが国の民主主義に励まされてワシントンを離れることができたと言っていいでしょう」と答えた。

なるほど。では次の話題に移ろう。興奮に震えながらF8にやって来て、信仰の力に目覚めた信者のように帰っていくであろう開発者たちについてだ。

彼らはケンブリッジ・アナリティカの問題によって制限が増えることを心配していないのだろうか。3月にサードパーティー製アプリの審査を停止ときは当然のことながら、実質的な開発凍結だという不満が沸き起こった。

ザッカーバーグの説明はこうだ。「懸念はあると思いますが、最優先すべきはユーザーデータが安全に管理されるよう万全を期すことです。開発者のほとんどは正しい動機に基づいたよい製品をつくっています。審査が停止されていることに不満はあっても、優秀なデヴェロッパーであれば、Facebookが向かっている方向性に不安は抱かないはずです」

アプリの審査はカンファレンス後に再開される予定だ。そしてザッカーバーグは、「Messenger」や「Instagram」、仮想現実(VR)ヘッドセット「Oculus Go」などを含む新しい発表は、開発者たちを喜ばせるだろうと述べた。

ザッカーバーグの動揺

発表といえば、ザッカーバーグは驚きの新サーヴィスの話もしていた。「Dating(デーティング)」というマッチングアプリ「Tinder」に似た機能で、ユーザーはメインのアカウントとは別に、“ロマンチックなつながり”を探すためのプロフィールを作成できる。Facebookがアルゴリズムを搭載した「恋のキューピッド」になるというわけだ。

このタイミングでなければいいのかもしれないが、個人情報の管理を巡りこれまでにない批判にさらされるいま、「好みのタイプ」という非常にプライヴェートなデータセットを追加するのは、少しばかりリスクが大きすぎるのではないだろうか。

ザッカーバーグはこれに対し、Facebookは以前からデート相手を探すのに使われていたし、データ保護対策は十分に行っていると指摘する。例えば、Datingのデータはターゲット広告には使わないという。

ここで話題を変えて次の質問に移ったが、ザッカーバーグは数分後に再び、このマッチングサーヴィスの話を蒸し返してきた。彼は確実に動揺しており、「先ほどの話から明らかなのかもしれませんが、この製品を発表するにはタイミングが悪いと思いますか」と逆に質問してきた。

そこで、メインのアカウントとDatingのアカウントを分けることは理解できると伝えた。しかし、ユーザーがDatingのプロフィールを作成するとき、「フェイスブックはこんな情報まで欲しいのか」と思う可能性はある。ザッカーバーグがそれを心配してはいないのだろうか。

彼は椅子の上で姿勢を正した。これは信頼の構築とビジネスの勢いを維持することとの間にある、恐ろしく複雑な緊張の中核を成す問題だからだ。彼は「最初に話した『難しいこと』の中身がそれです」と言った。

プラットフォームとしての責任

フェイスブックは新製品を導入し、個人売買プラットフォームの「Marketplace」を拡張し、拡張現実(AR)を使ったカメラフィルターなど目新しい機能を追加し、「Oculus Go」の出荷を続けていかなくてはならない。企業として利益を出すためには必要なことだ。

しかしザッカーバーグは、フェイスブックが企業として前進を続けるからといって、ユーザーの信頼を取り戻すことをなおざりにしているとは考えてほしくないと話す。「フェイスブックはこうした問題を真剣に受け止めています。そのことを伝えていくのが、わたしにとって最も優先すべき事項です」

最後にもうひとつだけ質問をぶつけてみた。「今回の危機でフェイスブックは変化したのでしょうか?」

答えは「イエスでもノーでもある」というものだった。フェイスブックの使命は変わっていないが、変化した面もある。

「最大の変化は、悪用防止を巡ってより積極的に行動するようになった点だと思います。自分たちの責任について、もっと幅広いとらえ方をしなければならないということを学びました。ツールを構築し、性善説に基づいて、みんなはこのツールをよい目的で使ってくれるはずだと期待しているだけではいけないのです。人々が言いたいことを言えるプラットフォームを提供し、その監視は社会に任せて、何かが起こったあとで対応するやり方は、もはや通用しません。わたしたちはそのプラットフォームが悪用されないよう、積極的な役割を担っていく必要があります」

何度も言及された「3年」という期間

有害なコンテンツを見逃さないためのシステムを構築する難しさは認識しているという。「チームをつくりあげるのに3年はかかると思います。ひと晩で3万人を雇って何かを成し遂げるというわけにはいきません」と彼は言う。

「その組織がきちんと機能するか確かめ、リーダーを探し、メンバーをトレーニングする必要があります。そしてAIのツールも構築します。どちらも指をパチンと鳴らせば完成するものではないのです」

ザッカーバーグは、3年の道のりはもう始まっていると続ける。「昨年の早い段階で着手したので、もう1年になります。多くの対策で年内には折り返し地点を過ぎることができるでしょう。この作業が完全に終わることはありません。それでも、ビジネスモデルおよび経営モデル全般において、かなり大きな変化を象徴していると考えています」

フェイスブックが変化を遂げているかどうかは、例年とは違うザッカーバーグの基調演説を見てから、皆さんが判断して欲しい

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