3月18日に発生したUberの自動運転車による死亡事故の僅か数日後である23日、今度はテスラ社の「モデルX」で自動運転モード使用中にドライバーが車ごと中央分離帯に衝突・炎上し死亡するという事故が発生しました。短期間で二度も死亡事故が発生した自動運転車ですが、事故原因に違いはあったのでしょうか。アメリカ在住の作家・冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、今回起きた2つの自動運転車の死亡事故は「それぞれ意味合いが異なるものだった」と詳細に分析しています。

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意味合いの異なる2つの自動運転事故

3月23日に、今度は、テスラ車の「オートパイロット」モード使用中に、ドライバーが死亡するという事故が発生しました。事故車はテスラ「モデルX」でカリフォルニア州マウンテンビューにおける高速道路を走行中に、中央分離帯に衝突・炎上したものです。

事故で死亡したドライバーはプログラマーで、ゲームソフトが専門であったようです。事故当時、ドライバーは、前の車に追従するクルーズコントロール機能を「最短車間距離」に設定して使っていたそうです。事故直前には数度にわたってハンドル操作をする警告が出ているものの、ドライバーは「半自動運転」に任せ切っていたとされています。

テスラの発表によれば、事故は高速道路の分岐点で現れるコンクリートの壁の前に置かれるバリアへの衝突だったこと、そして車線の分岐点からバリアに衝突するまでには、車線をはずれて約150メートル走行していたことが明らかとなっています。また他の報道によれば、テスラ車はこの種の分岐点などで車線を逸脱することがあったという指摘もされています。

仮に、以上の報道や発表が事実であれば、「マップ」もしくは「センサー」の不具合があり、オートパイロットが正常でない動作をしたこと、にもかかわらず、ドライバーが「半自動運転」を「自動運転」と勘違いして「任せ切り」にしていたということが事故の背景にあると考えられます。

ということは、今回の事故は「ヒューマンエラー」であり、半自動運転における運転手の責任放棄の結果であるということがまず指摘できます。その一方で、技術的には仮にこうした報道や発表が事実であれば、自動運転の中では比較的初歩に属する高速道路での巡航における自損事故ということで、システムとしては相当にお粗末なエラーを起こしたという評価が可能です。

その一方で、アリゾナ州で発生した自転車を押していた歩行者の女性をはねた事故というのは、質的に全く違うものです。

報道ならびに警察発表によれば、この女性は灯火のない夜間の暗闇を、事実上、自動車専用道路である中央分離帯のある片側2車線の道路を、まず2車線を横断し、中央分離帯の茂みを突っ切り、更に反対側の2車線を渡り「闇の中をロービームであるにしても点灯して走行して来た」車が、自分を認めて止まるという判断の下に、堂々とその前に登場したことのようです。

ちなみに、アメリカには「自分が世界の中心だから絶対に譲らない」つまりは、「車は止まってくれるもの」として堂々と渡るカルチャーがあります。もっといえば、自転車乗りの一部には、特に「自分は車と対等だから絶対に譲らない」と考えて行動する人がいます。恐らくこの被害者はそうした行動を取ったのでしょう。

ですが、この時は完全自動運転車になるわけですが、「マッピング上は、まず歩行者が出て来ないゾーン」であり、そこを闇夜に「認識しにくい自転車を押した歩行者」というシルエットで登場、自動車は60キロ出ていたという中では、残念ながら相当に高度な自動運転車でも認識できなかった可能性は十分にあります。

一部にはライダー(レーザー光照射型のセンサー)で空間スキャンしていれば引っかかったはずという指摘もあります。ですが、ここからは憶測になりますが、ライダーというのは消費電力が大きいので、走行中常時フル稼働はしない仕様になっている場合があるわけです。この地点のように、中央分離帯のある、ほぼ自動車専用道のしかも夜間ということでは、もしかしたら切っていたのかもしれません。

ということで、カリフォルニアの事故と、アリゾナの事故は全く性質の違うものと言えます。まず、アリゾナの事故は、残念ながら「この種の歩行者とのヒヤリハット」については、まだまだシミュレーション不足だということを露呈した格好で、開発に軌道修正を迫るものだと言えます。その意味では、この女性の犠牲は極めて残念な悲劇ではありますが、より安全な自動運転車の開発という意味では、ムダにはならないと言えます。

一方で、カリフォルニアの事故は、明らかなヒューマンエラーということもあり、その一方で、システムのエラーもお粗末なものであり、何とも虚しい感じがします。前向きな評価をするのであれば、大容量の電池を搭載した自動車の衝突事故が大きな車両火災になるということを示した中で、EV一般における消火システム改善への強い警鐘になったことぐらいでしょうか。

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