タニタが「食堂」の次に「カフェ」を出す狙い
健康機器大手のタニタは、3月23日、新宿駅構内に新業態の「タニタカフェ」をオープンした。5月からの本格展開を控えたパイロット店の位置づけだ(記者撮影)
赤野菜とベリーのスムージー、紫キャベツとブドウのスムージー――。3月23日、JR新宿駅構内にオープンしたカフェにはこだわりの有機野菜やフルーツを使った飲み物が並ぶ。
20代や30代の女性がスムージーを買っては、“インスタ映え”を意識して写真を盛んに撮る。外国人観光客も興味を示す。健康機器大手のタニタが手掛ける新業態の飲食店「タニタカフェ」だ。5月下旬に東京の有楽町を皮切りに全国展開するのを前に、5月中旬までの期間限定のパイロット店として出店した。
タニタカフェの看板商品、スムージー。パイロット店では5種類を販売する。写真は「緑野菜とりんごのグリーンカム―ジー」(記者撮影)
タニタの本業は、体組成計や血圧計など「健康をはかる」機器の販売だが、最近では「健康をつくる」ビジネスに力を入れる。2010年に出版した社員食堂のレシピ本がベストセラーとなったのをきっかけに、カロリーや栄養バランスに配慮した「タニタ食堂」を2012年から展開。全国の商業施設や病院内で10店舗を運営するほか、タニタ食堂のメニューを既存の飲食店20店舗に提供している。
健康への関心が低い層を狙う
新たに始めるタニタカフェは、フランチャイズ店と、既存のカフェやショップで提供するスタイルを合わせ、2022年度までに全国に100店舗を展開する計画だ。都市部、地方を問わない。看板メニューは「噛むスムージー」。野菜・フルーツや豆乳などに加え、チアシードや豆腐も入った飲み物で、かむ必要があるため満腹感を得られるのがポイントだ。
有楽町店では、「有機野菜と和だしのフォー」や「有機野菜ともち麦のサラダボウル」などの食事メニューも提供する。有機野菜は、今回提携した楽天の農業サービス「Rakuten Ragri(ラグリ)」から仕入れる。
タニタカフェのメインターゲットは20〜30代の女性で、健康への関心が低い層へのアプローチを目指す。そのため、タニタ食堂が定めていた「定食全体で約500キロカロリー、塩分3グラム以下」などのルールに縛られずにメニューを作る。豆乳ソフトクリームもその一例だ。新宿のパイロット店では、食物繊維などの主な栄養成分や「腸内改善」「美肌」といった効果は書いてあるもののカロリーの表記はない。
タニタ食堂との違いは何か。キーワードは「心の健康」だ。タニタ食堂は、こうした健康に配慮した食事で、健康への意識・関心が高い層にアプローチしていた。だが、身体の健康には良いもののストレスを感じる人もいたという。タニタ食堂は全国展開する中で伸び悩む店も出てきており、秋田県の店舗は3月末で閉店する。タニタとしては、タニタ食堂では訴求できていない層の取り込みを狙う。
タニタは楽天の農業サービス「Rakuten Ragri」から有機野菜を仕入れる。今後は、有機野菜を使ったカップサラダなどを共同で開発する計画だ(記者撮影)
健康への関心が低い層は、健康になるために高い金額を支払うのに躊躇しそうだが、価格面はどうなのか。東京の「丸の内タニタ食堂」の平均単価はランチタイムが約1000円、ディナータイムが約1200円。新宿のパイロット店では噛むスムージーが600〜800円で販売され、有楽町の店舗では、有機野菜と和だしのフォーなどの料理で900〜1200円程度の価格帯を想定している。
平均単価は食堂よりも高めを想定
タニタカフェの平均単価の想定は、モーニング・カフェタイムで700円、ランチタイムで1200円、ディナータイムで1500円程度と、タニタ食堂よりも高い。平均単価ではむしろハードルが高くなったようにも見える。谷田千里社長は「初めにタニタカフェに来るのは意識が高い人かもしれないが、コラボレーション製品も含めた価格面で敷居を低くする」と話す。
タニタと食品メーカーのマルサンアイのコラボ商品。「タニタカフェ」監修を全面に打ち出している(記者撮影)
谷田社長が言及したように、タニタカフェでは店舗に加えて、企業とコラボレーションして開発した商品も展開する。たとえば、食品メーカーのマルサンアイと共同開発したオーガニック豆乳を2017年9月に発売。今月26日には新製品のアーモンドミルクも投入する。タニタカフェの店舗に足を運べない人にも、スーパーなどでタニタカフェの製品を買ってもらおうというのが狙いだ。
さらに、職場や中食分野への展開も視野に入れる。ポリフェノールの含有量が多いコーヒーなどの提供を検討している。
新宿のパイロット店では、活動量計などタニタの自社商品が展示・販売されている(記者撮影)
タニタカフェのパイロット店では、体組成計や活動量計など自社商品を展示し、販売している。今後、本格展開する店でも販売するが、あくまでも自社商品を知ってもらうためだ。タニタ食堂やタニタカフェの取り組みは、タニタのビジネスにどのようなメリットがあるのか。会社側は「タニタ食堂の展開によりブランド認知が高まり、体組成計などの販売にもよい影響が出ている」とする。
人材確保にもメリットが出ている。タニタは体組成計やはかりを使う人にとっては身近な企業だが、非上場ということもあり、以前の認知度はいま一つだった。しかし、レシピ本やタニタ食堂で知名度が上昇、就職活動中の大学生からの応募も増加したという。
ポイントカードは「歩数計」機能付き
タニタの谷田千里社長(中央)は、創業家の3代目。タニタ食堂など新規ビジネスに力を入れている。両端の女性が持っているのが歩数計機能付きのポイントカード(記者撮影)
飲食店事業へのタニタの向き合い方が透けて見えるのがポイントカードだ。店舗で発行されるポイントカードは、歩数計にもなっている。歩数のログをアプリで確認することができ、歩数や来店回数に応じてポイントがつく。ポイントがたまるとタニタのグッズがプレゼントされる。カフェを使うことで、タニタの製品に自然に興味を持ってもらうという仕組みだ。
こうした食堂やカフェ事業そのものによる収益面での効果は限定的とみられる。だが、消費のトレンドが多様化する中、消費者との新たな接点を作らなければ、新商品や新サービスを生み出すことは難しい。はかりメーカーから健康総合企業への脱皮を目指しているタニタの取り組みに注目が集まる。