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●業界は人手不足もマックには関係なし

日本マクドナルドが「マクドナルドは大歓迎!!」と銘打って春の従業員(パートタイマーやアルバイトのことで、マクドナルドでは「クルー」と呼称する)採用キャンペーンを開始した。背景には、外食産業における人手不足があるのではないかと考えたのだが、同キャンペーンの発表会に登壇した日本マクドナルド執行役員で人事本部長の長敦子氏は「人手については、今は充足している」とする。それでは、「大歓迎!!」キャンペーンの目的とは何なのだろうか。

○回復から成長へ、積極増員の姿勢を示すマック

マクドナルドは2017年の春に「クルーになろう。」キャンペーンを展開し、史上初となる全店舗でのクルー体験会を実施した。このキャンペーンでは、当初予想2.5万人のところ約2.8万人のクルーを採用したという。2017年秋には「マックなら、大丈夫」と銘打った採用キャンペーンを実施して、若者向けの職場というイメージの強いマクドナルドが自ら、主婦やシニア層の不安に対し「大丈夫」とのメッセージを発信した。

長人事本部長によると、今回の「大歓迎!!」キャンペーンは人手不足を解消するためのものではなく、マクドナルドの成長をより確かなものにするための募集だという。採用目標人員について具体的な数値は示さなかったが、「昨年と同程度を目指す」とのことだった。

マクドナルドの売上高は右肩上がりで、2017年は上場以来最高の業績を残したと下平副社長は説明する。同社のビジネスは「回復」から「成長」へとステージを変え、新たな局面に入っているそうだ。つまり、今回の採用キャンペーンについては、人手不足の解消というよりも、事業拡大に向けた増員という積極的な意味合いが強いと考えるべきなのだ。

○LINEで応募が可能に! 卒業シーズンに合わせた施策か

今回のキャンペーンで発表された採用ツールは「LINE応募」とTwitter上の「#質問箱」だ。「LINE応募」は文字通り、LINEを通じてクルー応募ができるサービス。働きたい店舗、あるいは場所を打てば候補が返ってくる仕組みで、名前などを打ち込みLINE上で顔写真を送っておけば、面接希望の際に履歴書などの書類は不要となる。こういった施策からは、春の卒業により学生が抜けた穴を、若者向けのツールによって補おうとしているという印象を受けた。

クルーが約14万人で、昨年は年間を通じて7万人以上を採用したというマクドナルドだが、昨春のキャンペーンでは2.8万人を獲得したというから、年間の採用計画の中で、この時期のキャンペーンは特に大きな意味を持つものと考えられる。

●多様な働き方をアピールしたいマクドナルド

○2018年採用のキーワードは「多様性」

マックが「大歓迎!!」キャンペーンを展開する1つ目の狙いが積極的増員だとすれば、2つ目の狙いは何か。それは「多様性」を打ち出すことだ。

下平副社長は「マクドナルドのビジネスはピープルビジネス。働く環境を整備し、クルーの採用と育成、満足度を大切にする。昨年12月に実施したクルー満足度調査では、84%のクルーが満足しているという結果だった。クルーが充実していることが、お客様へのサービス向上につながり、ご満足いただける店舗を生む。よいサイクルの継続を目指していく」とする。クルーの満足度に直結する要因として、多様性を重視する姿勢は不可欠なのだ。

マクドナルドのクルーには、学生、若者、主婦、シニア、外国人が含まれる。クルーのライフスタイルはさまざまだ。今回、採用キャンペーンに向けて発表された新しいCMにも、多様な職種経歴を持つ現役クルー7名が登場する。

マクドナルドは人材採用・教育にあたり、多様性を重視する方針を打ち出す。特に教育面においては、クルートレーニングプログラム、そして働きながら学べる場所として開校46年を迎える「ハンバーガー大学」の存在を強調する。クルートレーニングプログラムは、外国語にこそ対応していないものの、ロールプレイングや画像を多用し、シニアや外国人でも分かりやすいツールとして活用している。

○多様性の確保にマクドナルドならではの強み

マクドナルドの持つ強みは、採用やトレーニングだけではない。最大の強みは求人面における多様性だ。学生が多い町、ショッピングセンター、駅前など多くの店舗を持ち、異なる営業時間で運営しているマクドナルドでは、働き手が自分の希望に合わせて選べる店舗の選択肢が豊富だ。働く側の希望と店舗側のニーズを完全にマッチさせることは難しいが、マクドナルドは多様な店舗で間口を広くとり、このマッチングの精度や確率を上げているのではないだろうか。

いくつかの店舗のアルバイトを検索をしてみると、店舗の営業時間や特徴に加え、勤務時間・募集対象が記載されていた。店舗ごとにニーズはさまざまだ。働き方について多用なニーズを持つマクドナルドだからこそ、クルーの多様性を受け止め、尊重することが可能なのだろう。

人出不足の代表業種としてよく名の上がる「外食産業」。人手不足を解消するため、多くの企業が賃金を上げるなどの取り組みを重ねているが、解消されたという事例はあまり耳にしない。

賃金上昇とコスト上昇は価格への転嫁につながり、値上げは客離れに直結して業績の悪化を招く。これは企業だけでなく、消費者も幸せにならない図式だ。クルーによし、顧客によし、そして企業によし。近江商人の「三方よし」ではないが、商いの基本にのっとった取り組みが、マクドナルドの業績回復につながっているという印象を受けた。