住宅ローン繰り上げ返済で損する人の条件

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決して年収は高くないのに、お金を貯められる人がいる。どこか違うのか。雑誌「プレジデント」(2017年2月13日号)の特集「金持ち夫婦の全ウラ技」より、人生の3大出費のひとつ「住宅」にまつわる知恵をご紹介しよう。第6回は「ローン減税」について――。(全12回)

■最大年間40万円を10年にわたり控除だが…

住宅ローン減税(正式には「住宅借入金等特別控除」)は、国民の住宅取得を促すため、個人が居住用の一戸建てやマンションを住宅ローンで買った際、国が税金を還付する制度だ。年末の住宅ローン残高の1%か、控除限度額のどちらか低い額(控除額)が、その年の所得税から「控除」される。

つまり「所得税−控除額」が実際の税額となり、所得税が減るわけだ。控除額が所得税を上回る場合、その差額は翌年の住民税からも控除される。そして、それらの控除は10年間続く。

消費増税による個人消費の落ち込みを抑えるため、2014年4月から制度が拡充されて、所得税の年間控除限度額が20万円から40万円にアップし、10年間で最大400万円控除されることになった。住民税の年間控除上限額は9万7500円から13万6500円に引き上げられている。住宅ローンが重荷となる現役世代のビジネスパーソンにとっては、大きな朗報だろう。

しかし、その最大400万円の控除を受けられる人はさほど多くない。そもそも、所得税と住民税を合わせて年間40万円納めていないと、控除の最大限のメリットを受けられない制度設計になっている。たとえば、住宅ローン減税による控除額が40万円あったとしても、年収500万円のビジネスパーソンは所得税を14万円前後しか納めていない場合が多く、仮に住民税の控除上限額である13万6500円分でカバーしても、合計で27万6500円ほどしか減税されないことになる。

■10年より短くなると、せっかくの控除枠もなくなる

一方、年間の最大控除額が40万円で、10年間で合計400万円の控除を受けるためには、10年目まで毎年のローン残高が4000万円以上なくてはならない。皆さんおわかりのように、返済が進めば、ローン残高は徐々に減っていく。金利1%で35年間ローンを組んだ場合、5000万円の借り入れでも、返済9年目でローン残高が4000万円を切って、合計400万円という控除をフルに受けられなくなってしまう。

その5000万円のローンであっても、月々の返済額は約14万1142円に上る。普通のビジネスパーソンにしてみたら、その負担は大きく、合計400万円の控除をフルに受けるためのローンを組むのは、かなりハードルが高いといわざるをえないだろう。

このほか、住宅ローン減税のメリットを最大限受けるために、覚えておいてほしい注意点もある。共働き夫婦が住宅を買う際に、夫がローンを支払い、妻が連帯保証することが多い。しかし、夫のローンが4000万円でも、夫の持ち分が2000万円のケースでは、持ち分に相当する2000万円しか住宅ローン減税の対象にならず、妻の持ち分が夫から妻への贈与とみなされて、贈与税が課せられる場合がある。

その対策としては、「フラット35」で妻との「連帯債務」にするか、銀行などの「ペアローン」で夫婦それぞれの借り入れにする方法がある。妻の持ち分も住宅ローン減税の対象になり、贈与の問題も解消する。

なお、住宅ローンを繰り上げ返済する場合、返済当初から完済までの償還期間が10年より短くなると、せっかくの控除枠を失ってしまうので要注意だ。

Answer:そもそも5000万円の借り入れでもフルの控除は困難

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大森広司(おおもり・ひろし)
住宅系シンクタンク・オイコス代表取締役。1962年生まれ。立命館大学法学部卒業。著書に『新築マンション買うなら今だ!』『マンション購入 完全チェックリスト』など。
 

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(住宅系シンクタンク・オイコス代表取締役 大森 広司 構成=野澤正毅 撮影=加々美義人)